次世代バイオプラスチックの進化と食品包装市場での応用

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バイオプラスチックとは何か

バイオプラスチックは、再生可能なバイオマス資源を原料とするプラスチック、または生分解性を備えたプラスチックの総称です。
サトウキビ、トウモロコシ、バガス、植物油などを原料にしたポリ乳酸(PLA)やバイオポリエチレン(Bio-PE)、生分解性を持つポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)などが代表例として挙げられます。
化石資源への依存度を下げ、廃棄時の環境負荷を軽減できる点から、脱炭素化を進める企業や自治体に注目されています。

次世代バイオプラスチック開発の進化

第一世代:バイオマス由来だが非生分解性

最初に普及したバイオプラスチックは、原料が植物由来であっても従来のポリオレフィンと同様に生分解性を持たないタイプでした。
バイオPEやバイオPETが代表格であり、従来品と同じリサイクルフローに乗せられることから既存設備での加工が可能でした。

第二世代:生分解性の高機能樹脂

次に登場したのがPLAやPBS、PBATに代表される生分解性ポリマーです。
以前は機械特性や耐熱性が課題でしたが、結晶化度の制御や共重合技術の向上により、耐熱温度が100℃前後まで改善されたグレードも開発され、実用範囲が一気に広がりました。

第三世代:機能統合型・ハイブリッド材料

近年は、生分解性とバリア性、高耐熱性を同時に満たすハイブリッド型バイオプラスチックが研究開発の中心となっています。
たとえば、PLAにセルロースナノファイバーを複合化して酸素バリアと剛性を高める手法や、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)を共重合して低温脆性を改善する技術が報告されています。
また、糖質系モノマーからカーボネート結合を導入することで、加水分解性と光分解性のバランスを最適化したポリマーも登場し、食品包装への応用が加速しています。

食品包装市場が抱える課題

食品包装は鮮度保持、衛生管理、輸送効率の観点から高度な機能が求められます。
しかし、包装材料の多くは使い捨てで廃棄量が膨大です。
特に多層フィルムは素材が複合されているためリサイクルが困難で、サーマルリサイクルや埋立てに依存してきました。
欧州のプラスチック使い捨て規制(SUPD)や日本のプラスチック資源循環促進法により、食品包装分野でも代替素材の採用が急務となっています。

バイオプラスチックを食品包装に用いるメリット

カーボンフットプリントの削減

植物由来炭素を含むため、ライフサイクル全体でのCO₂排出量を20〜70%程度削減できるケースが報告されています。
カーボンニュートラル認証を取得することで、企業のESG評価やサプライチェーン全体のスコープ3削減目標にも寄与します。

生分解性による海洋プラスチック問題の緩和

海洋流出後に微生物や光により分解されるグレードを選択すれば、長期間残留してマイクロプラスチックになるリスクを低減できます。
特にPHAやPBS・PBATブレンドは、海水環境での分解速度が速いと報告されています。

高機能化による食品ロス削減

セルロース系フィラーやバリアコーティング技術を組み合わせることで、酸素・水蒸気透過度をPET並みに抑えたバイオ由来フィルムが実用化されています。
鮮度保持期間を延ばせるため、フードロス削減にもつながります。

具体的な応用事例

コンビニサラダ用バリアカップ

国内大手コンビニでは、PLAとバイオPETを多層化したカップを採用し、容器由来のCO₂排出を約40%削減しました。
結晶化PLA層を外側に配置して耐熱性を確保し、内側にバイオPETでバリア性を付与する構造が特徴です。

冷凍食品向け耐寒性フィルム

PHAとPBATをブレンドした三層フィルムは−30℃でも割れにくく、レンジ加熱時の耐熱性も兼備します。
輸送温度帯が幅広い冷凍餃子や冷凍ピザの包装で採用が拡大しています。

コーヒーカプセル用生分解性カップ

欧州ではPLAにシリカバリア層を真空蒸着したカプセルが普及し、家庭用コンポストで6ヵ月以内に分解可能です。
アルミカプセルに比べて素材重量も軽く、輸送時のCO₂排出削減にも寄与しています。

導入における技術的・経済的課題

コストプレミアム

バイオマス原料の価格変動や製造スケールが限られることから、従来樹脂に対して20〜100%の価格差が生じる場合があります。
炭素税やExtended Producer Responsibility(EPR)の導入により、コストギャップは縮小傾向ですが、さらなる量産化と工程効率化が必要です。

耐熱性・加工性の制約

射出成形や熱成形では、PLAの結晶化時間が長くサイクルタイムが延びる課題があります。
核剤添加や誘導加熱による高速加熱冷却システムの導入で、生産性向上が図られていますが、既存ラインの改造費用が障壁となるケースもあります。

リサイクルフローの整備

生分解性プラスチックが従来リサイクル流通に混入すると品質劣化を招くため、分別収集やコンポスト施設の拡充が不可欠です。
欧州のように産業用コンポストインフラが整った地域では導入が進んでいますが、日本国内では自治体ごとの対応差が課題となっています。

規制動向と標準化

EUではPackaging and Packaging Waste Regulationにおいて、2030年までにすべての包装材をリユースまたはリサイクル可能にする目標が掲げられています。
フランスはバイオ由来成分50%以上かつ家庭用コンポスト可能な包装のみ「OK compost HOME」ラベルを表示できる制度を運用しています。
日本でもJIS K 6950(生分解性プラスチック-分解性試験方法)やグリーン購入法での優先調達指針が整備され、企業はこれら基準への適合が求められます。

主要企業の取り組み

プラスチック原料メーカー

・NatureWorks社はPLAの年産能力を拡大し、新工場をタイに建設中です。
・BASFはエコフレックス(PBAT)とエコビオ(PLA/PBATブレンド)でアジア市場を強化しています。
・ダイセルはセルロースアセテートを基材とした透明バリアフィルムを食品業界へ展開しています。

食品メーカー・小売

・ネスレは2025年までにすべての包装をリサイクル可能または再使用可能にする目標を掲げ、バイオベースフィルムの導入を加速しています。
・イオンはプライベートブランド惣菜容器を段階的にバイオPETへ切替え、年間1,000tの化石資源削減を見込んでいます。

今後の展望

バイオプラスチックは、材料科学とプロセス技術の進歩により、機能面と経済面のギャップが急速に縮小しています。
加えて、カーボンプライシングやサーキュラーエコノミー政策が世界的に強化されることで、市場拡大は加速する見通しです。
特に食品包装では、バリア性と耐熱性を確保したうえで、生分解性やリサイクル適合性を両立する「モノマテリアル化」がキートレンドとなるでしょう。

まとめ

次世代バイオプラスチックは、植物由来原料と生分解性を組み合わせ、食品包装に求められる高い機能を実現しつつ環境負荷を削減できる素材へと進化しています。
カーボンフットプリント削減、海洋プラスチック問題の緩和、食品ロス削減といった多面的メリットがある一方で、コストやインフラ整備、加工性といった課題も残ります。
規制強化と技術革新が相乗することで、市場は今後さらに拡大し、持続可能な食品包装への移行を加速すると期待されます。
企業は早期に技術パートナーと連携し、実証試験とライフサイクル評価を進めることで、競争優位を確立することが重要です。

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