ポリウレタン(PU)の耐熱性と加工法の選定基準【技術者向け】

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ポリウレタンの基本構造と耐熱性メカニズム

ポリウレタン(PU)はイソシアネート基とポリオールがウレタン結合で連結した高分子材料です。
エラストマー系、熱可塑性エラストマー(TPU)、発泡体、塗膜など多彩な形態を取り、構造によって耐熱性が大きく変わります。

TPUの場合、ハードセグメント(ジイソシアネート由来)とソフトセグメント(ポリオール由来)の相分離構造が耐熱性を左右します。
ハードセグメントが増えるほどガラス転移温度(Tg)と融点(Tm)が上昇し、耐熱性が向上しますが、同時に柔軟性は低下します。

一方、発泡体ではセル構造と架橋密度が耐熱性の支配因子です。
架橋密度が高いほど熱変形温度(HDT)が向上し、圧縮永久ひずみが低下します。

耐熱性評価の指標

ガラス転移温度(Tg)

Tgは動的機械分析(DMA)または示差走査熱量測定(DSC)で測定します。
エラストマー用途での実用上の目安は、期待使用温度+20 ℃が最低ラインです。

熱変形温度(HDT)

JIS K 7191に準拠し、荷重1.8 MPaでの変形温度を確認します。
成形品の肉厚や充填材の有無で大きく変動するため、最終形状での実測が推奨されます。

連続使用温度(RTI)

UL746Bの熱劣化試験を経て決定される温度で、電気・電子分野では必須データです。
20,000時間後に物性が50 %低下しない温度が目安となります。

耐熱性を高める分子設計アプローチ

イソシアネートの選択

芳香族系(MDI、TDI)は脂肪族系(HDI、IPDI)よりもハードセグメントの結晶性が高く、Tg/Tmが上がります。
ただし、紫外線黄変と加水分解感受性が高まるため、屋外用途では顔料や光安定剤添加が必要です。

ポリオールの選択

ポリエーテル系は耐加水分解性に優れる一方、耐熱性はポリエステル系より劣ります。
芳香族ジオールを導入したポリエステルポリオールやポリカーボネートポリオールを用いると、200 ℃近傍までTgを引き上げることが可能です。

架橋剤・鎖延長剤

ビスフェノール型や芳香族ジアミンを使うと、ウレタンとウレア結合が混在し、耐熱分解温度(Td)が約20–30 ℃向上します。
ただしゲルタイムが短くなるため、加工プロセス条件の最適化が不可欠です。

加工法別の耐熱性への影響と選定基準

射出成形(TPUペレット)

・推奨シリンダー温度:180–220 ℃
・金型温度:40–60 ℃(高結晶性グレードは80 ℃以上)

高温シリンダーでの滞留は分解を招くため、射出時間を短縮し、パージ材で定期的に洗浄します。
成形後、結晶化を促進するアニール処理(80–100 ℃、2–4 h)を行うとHDTが10 ℃以上向上します。

押出成形(チューブ・シート)

押出温度は射出より低めの160–200 ℃が一般的です。
耐熱グレードでは溶融粘度が高くなるため、L/D比30以上のスクリューと高圧押出機が推奨されます。
冷却工程を緩やかにし、結晶化時間を確保することで熱収縮を抑制できます。

熱反応型キャスティング(エラストマー)

芳香族MDIプリポリマー+MOCA(4,4′-ジアミノジフェニルメタン)系では、ポットライフが短い代わりにTdが260 ℃前後まで向上します。
ポリカーボネートポリオールを併用すると、耐熱性と耐油性のバランスが取れます。

発泡成形(柔軟・硬質フォーム)

硬質フォームでは、耐熱性を確保するためにイソシアヌレート比率を高め、三量化指数を20以上に設定します。
柔軟フォームでは、セル開口度を抑え、密度を30 kg/m³以上にすると形状保持性が向上します。

3Dプリンティング(PUR系樹脂)

UV硬化型ウレタンアクリレート樹脂では、二官能性モノマーより三官能性以上の多官能モノマーの割合を50 %以上にすると耐熱歪み(熱クリープ)が抑制されます。
プリント完了後に二次UV照射と80 ℃ポストキュアを行うとTgが15–25 ℃向上します。

耐熱性向上のための添加剤活用

・有機リン系難燃剤:酸化反応を抑制し、LOIを25以上に引き上げる。
・ポリヒドロキシフッ化合物:熱分解促進ラジカルを捕捉し、Tdを10 ℃向上。
・二酸化ケイ素エアロゲル:0.5–1 wt%でλ値を0.015 W/m·Kまで低減しつつHDTを向上。

添加剤は相溶性が鍵となるため、マスターバッチまたは官能基修飾シランで表面処理したフィラーを使用すると分散性が改善します。

劣化メカニズムと耐熱寿命予測

ポリウレタンの熱劣化は、ウレタン結合の切断による軟化と架橋の進行による硬化が同時進行し、物性変化を複雑にします。
総合的な寿命予測には、Arrheniusプロットによる加速試験データを用い、Tg低下率または引張強度保持率を評価指標とするのが一般的です。
実稼働温度が120 ℃以上の場合、1000時間以上の連続暴露試験を推奨します。

リサイクル視点での加工法選定

高耐熱グレードは架橋密度が高く、物理的リサイクルが困難です。
熱可塑性PUを選択し、スチームフィード分解や超臨界アルコール解重合によってモノマー回収ルートを確保すると、持続可能な設計が可能になります。

まとめ:選定フローとチェックリスト

1. 使用温度・環境(化学薬品、湿度、負荷条件)を定義する。
2. Tg、HDT、RTIなどの耐熱指標値を目標設定する。
3. イソシアネート種、ポリオール種、架橋剤の組み合わせをマトリクス化。
4. 成形法ごとの温度プロファイルと滞留時間を見積もり、分解リスクを評価。
5. 試作→加速熱劣化→物性保持率評価→設計フィードバックのPDCAを回す。

以上のプロセスを体系的に実施することで、求める耐熱性能と生産性を両立したポリウレタン製品の開発が実現できます。

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