食品業界における脱プラスチックの取り組み｜環境負荷低減の最新事例

脱プラスチックが食品業界で注目される背景

海洋プラスチックごみが世界規模で問題視されるなか、食品業界は一次包装や流通包装など大量のプラスチックを使用してきた歴史を持ちます。
そのため、業界全体の環境負荷低減を語るうえで「脱プラスチック」は最優先課題に位置付けられています。
ここでは、背景要因として海洋汚染の深刻化、規制強化、消費者意識の高まりの三つが挙げられます。

海洋プラスチック問題の深刻化

世界で年間800万トン以上のプラスチックが海に流出しているとされ、食品包装材由来のごみも多く含まれます。
マイクロプラスチックは魚介類や塩に混入し、食品安全にまで影響を与え始めています。
そのため、食品メーカーは自社の社会的責任として排出削減策を急ぐ必要が出てきました。

法規制と政策の加速

EUのSingle-Use Plastics Directiveや日本のプラスチック資源循環法など、使い捨てプラスチックを抑制する法制度が拡大しています。
罰則付き規制により、従来型プラスチック容器を使用し続けることがコストリスクになる時代が到来しました。

消費者意識とブランド価値

環境に配慮した商品を選択したいという生活者は年々増えており、SNS上では包装ごみ削減を推奨する投稿が拡散しています。
環境対応の遅れはブランドイメージ低下に直結するため、企業は競争優位の観点からも脱プラスチックに取り組む必要があります。

食品業界における脱プラスチックの最新事例

紙ベース包装へのシフト

ネスレはインスタントコーヒー「ネスカフェ」の詰め替え袋をリサイクル適性の高い紙製パウチへ移行しました。
紙素材にバリアコーティングを施し、酸素や湿気を遮断することで中身品質を維持しています。
国内ではアサヒ飲料が「三ツ矢サイダー」のマルチパック用リングを紙製バンドに切り替え、年間およそ2,000トンのプラスチック削減を実現しました。

バイオマスプラスチックの採用拡大

ローソンはサラダカップにサトウキビ由来のバイオマスPETを使用し、CO2排出量を石油系比で約30％削減しました。
また伊藤ハムは植物由来25％の包装フィルムをハム・ソーセージ製品に導入し、年間300トンのバージンプラスチック削減につなげています。

リユース・リターナブル容器の導入

スターバックスは一部店舗でリターナブルカップサービスを開始し、アプリで返却をトラッキングする仕組みを構築しました。
イギリスのスーパーマーケット「テスコ」ではLoopと連携し、洗浄して再利用できる金属製やガラス製の容器を採用しています。
日本でも2023年に丸井グループがLoopの実証実験を行い、多様な食品ブランドが参加しました。

モノマテリアル化によるリサイクル効率向上

ハウス食品はレトルトカレーのパウチを従来の複合素材からポリプロピレン単一素材に切り替えました。
モノマテリアル化により分別後のマテリアルリサイクルが容易となり、リサイクル率向上が期待されています。

技術革新が支える脱プラスチックソリューション

可食フィルムの実用化

馬鈴薯デンプンや海藻抽出物を原料とした可食フィルムは、水に溶かすかそのまま食べることが可能なため、包装ごみをゼロにできます。
アメリカのスタートアップ「Loliware」は海藻由来ストローを開発し、食品サービス業界で採用が広がっています。

セルロースナノファイバーの高機能紙

木材パルプから抽出したセルロースナノファイバーは軽量で高強度、さらにガスバリア性も高い素材です。
王子ホールディングスはCNFを配合した食品包装紙を開発し、冷凍食品やスナック菓子用途で評価を進めています。

水溶性ポリマーによるディゾルブ包装

ポリビニルアルコールを主原料とする水溶性フィルムは、調味料ポーションや粉末スープの小袋に応用されています。
湯に溶けて消失するため、調理後に廃棄物が残りません。

サプライチェーン全体で取り組むべき課題

製造現場での素材転換は輸送時の強度低下や機械適性の問題を引き起こす場合があります。
物流業者は新素材に合わせたパレタイジングや温湿度管理を検討する必要があります。
またリサイクルスキームが地域ごとに異なるため、循環型モデルを構築する際は自治体やリサイクラーとの連携が不可欠です。
コスト面でも新素材は高価になりがちですが、大量調達や共同購買スキームの構築で価格低減を図る動きが進んでいます。

脱プラスチックを推進するためのポイント

LCA評価で効果を見える化

素材変更によるCO2削減や水使用量削減をライフサイクルアセスメントで数値化することで、社内外の理解を獲得しやすくなります。
データを公開することで投資家や消費者に対する透明性も向上します。

消費者コミュニケーションの強化

包装変更に伴う使い勝手の変化を丁寧に説明し、分別方法をアイコンやQRコードで分かりやすく伝えることが定着への近道です。
環境貢献ストーリーを動画やSNSで発信し、共感形成を図る企業も増えています。

社内横断プロジェクトの設置

開発、購買、製造、物流、マーケティングが一体となったプロジェクト体制を構築すると、素材転換の課題を早期に共有できます。
評価指標をKPIとして設定し、定期的にレビューすることでPDCAサイクルを高速化できます。

今後の展望とまとめ

2050年までにプラスチックごみゼロ社会を目指す国際目標が示されるなか、食品業界は資源循環のキープレーヤーとして期待されています。
将来的には、バイオマス度90％以上の高性能フィルムや、完全リユース型の宅配プラットフォームが主流になる可能性があります。
またAIとIoTを活用したスマート包装が食品ロスを削減し、環境負荷をさらに低減するシナジーが見込まれます。
脱プラスチックは単なる素材変更にとどまらず、ブランド価値向上とサプライチェーン革新を同時に実現するチャンスです。
企業は規制動向と技術革新を的確に捉え、ステークホルダーと連携しながらスピーディーに行動することが求められます。
持続可能な未来を切り拓くため、食品業界の脱プラスチックの歩みは今後も加速していくでしょう。