なめし革の強度向上技術とその製品に与える影響【業界解説】

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なめし革の強度とは何か

なめし革の強度とは、革が外力に対してどれだけ変形や破断を起こさずに耐えられるかを示す性能です。
一般に引張強度、引裂強度、耐摩耗性、折り曲げ疲労強度など複数の指標で測定されます。

革の構造と強度を決める要因

原皮に含まれるコラーゲン繊維の密度と配列、なめし剤の種類、加脂剤の浸透度合い、繊維間架橋の形成状況が強度を左右します。
また、乾燥方法や仕上げ加工によっても繊維の結束が変化し、最終的な強度に大きく影響します。

代表的ななめし方法と強度への影響

クロムなめしの特徴

クロム塩を用いたなめしは繊維間の架橋が三次元的に形成されるため、引張強度と耐摩耗性が高くなります。
短時間で大量生産でき、均一な染色性が得やすい点もメリットです。
一方で六価クロムの発生リスクや廃液処理の課題があり、環境対策が求められています。

植物タンニンなめしの特徴

植物由来のタンニンを使う方法は、繊維を膨潤させて柔軟性を保ちながらも高い引裂強度を実現します。
厚手の革や立体感を生かす製品に適しており、経年変化による味わいを楽しめます。
ただし長時間浸漬が必要で歩留まりが低く、耐水性はクロムなめしに劣ります。

複合なめしと最新ハイブリッド技術

クロムと植物タンニンを段階的に併用する複合なめしは、両者の長所を取り込んで強度と環境負荷のバランスを取る手法です。
さらに近年はアルミニウムやジルコニウムなど金属塩、合成タンニン、バイオベースポリマーを組み合わせたハイブリッドなめしが注目されています。
これによりクロムフリーながらクロム同等の引張強度を実現するケースも報告されています。

強度向上を実現する加工技術

加脂と加油による繊維結束強化

なめし後に加えるオイルやワックスは、繊維間に浸透して摩擦係数を下げ、折り曲げ時の断裂を防ぎます。
高度な乳化技術により微粒子化したオイルを均一に浸透させることで、内部にしなやかな柔軟層を作りつつ表面を堅牢に仕上げることが可能です。

圧縮・伸展加工による繊維配向

ローラーで圧縮したりストレッチャーで伸ばすメカニカルフィニッシュは、繊維を一定方向に配向させ、引張方向の強度を増大させます。
さらに熱と圧力を併用したSHP(スーパーホットプレス)では、繊維間架橋の再配置が進み、耐摩耗性が30%以上向上した事例があります。

コーティングと表面処理

ウレタン、アクリル、シリコーンなど多層の表面コーティングは、革内部の強度だけでなく耐水性と防汚性も高めます。
近年はナノセラミック粒子を分散させたハードコート層が開発され、薄膜ながら摩耗量を従来の1/2に抑える成果が確認されています。

具体的な強度評価試験

引張試験

試験片を一定速度で引っ張り、破断時の最大荷重と伸び率を測定します。
JIS K 6545では、帯状(ストリップ)と円形(ダンベル)の両方で規格値が定められています。

耐摩耗試験

TABER試験機で研磨紙を一定荷重で回転させ、所定回転数後の質量減少や外観変化を評価します。
トップコートの種類や加脂量が摩耗量に大きく影響するため、製品設計時に重要な指標となります。

折り曲げ疲労試験

DIN試験機で数万回連続屈曲させ、クラック発生回数や深さを測定します。
バッグの持ち手や靴の甲部など、繰り返し応力が集中する部位の材料選定に欠かせません。

強度が革製品にもたらすメリット

バッグへの影響

高強度なめし革を使用したバッグは、目地やステッチ部分で生地が裂けにくく、形状保持性が向上します。
ヘビーユースでも角擦れが起きにくく、修理コストを抑えながら長期間美観を維持できます。

靴への影響

靴底やアッパーに強度の高い革を組み合わせることで、履きジワからの割れや水染みが軽減されます。
特にワークブーツや登山靴では、水膨れや剥がれを防ぐためにクロムなめしと加脂を最適化した革が採用されています。

ベルト・小物への影響

ベルトは穴周辺に集中荷重がかかりますが、強度向上技術により伸びが抑制され長さの変化が少なくなります。
財布やキーケースでは、カード収納部の折り曲げ強度が重要となり、ハイブリッドなめしの薄革が効果を発揮します。

強度重視のなめし革を選ぶポイント

タグと基準表示を確認

近年はLWG(Leather Working Group)認証やISO 17075に準拠したクロムフリー表示が普及しています。
これらのマークをチェックすることで、環境性能と強度バランスの取れた革を選択できます。

仕上げ剤の種類をチェック

トップコートがウレタン系かアクリル系かで耐摩耗性が変わります。
屋外使用やスポーツ用途であれば、複層ウレタン仕上げの革が適しています。

使用シーンとのマッチング

高強度=最適解とは限らず、しなやかさやエイジングを重視する場合は植物タンニンなめしが向いています。
通勤バッグなど耐摩耗性と外観維持を同時に求める場合は、クロム+アニリン仕上げの複合革がバランスに優れます。

環境配慮と強度の両立

クロムフリーなめしの進展

グルタルアルデヒドやジルコニウム塩を用いるクロムフリーなめしは、排水処理コストを削減しつつ強度も確保できます。
欧州の高級ブランドでは、REACH規制に対応するためクロムフリー革の採用が加速しています。

バイオベースなめし剤の可能性

柿渋ポリフェノール、オリーブ葉抽出物、大豆タンニンなど再生可能資源を活用したバイオなめし剤が研究段階から商業化へ移行しつつあります。
これらは従来の植物タンニンよりも浸透速度が速く、熱劣化に強い架橋を形成しやすい点がメリットです。

まとめ

なめし革の強度向上は、なめし剤の選定だけでなく、加脂、機械加工、表面コーティング、そして正確な評価試験を組み合わせて初めて実現します。
クロムなめしは依然として最高レベルの強度を誇りますが、ハイブリッドやバイオベース技術の進歩により環境負荷を抑えながら同等性能を得る道が拡大しています。
強度が高まることで革製品は耐久性が向上し、ライフサイクル全体のコスト削減と資源の有効活用に寄与します。
今後はサステナブルな原料と高度な加工技術を両立させ、消費者に安心と長寿命を提供する革づくりが主流となるでしょう。

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