段ボールの薄型軽量化とリサイクル適性の向上

段ボールの薄型軽量化とリサイクル適性の向上が求められる背景

段ボールは、物流業界や日常生活に欠かせない包装材です。

近年、ネット通販の普及や環境配慮型経営の浸透により、段ボールの薄型軽量化とリサイクル適性の向上が、企業や消費者からより強く求められるようになっています。

その背景には、さまざまな理由があります。

一つは、SDGs（持続可能な開発目標）やカーボンニュートラルといった環境意識の高まりです。

段ボールの使用量が増えるほど、資源消費や廃棄物の増加といった課題も顕在化します。

より薄く、より軽い段ボールが実現すれば、原材料の消費削減や輸送時のCO2排出の削減につながります。

もう一つは、循環型社会へのシフトです。

リサイクルしやすい素材・設計へと進化することで、段ボール廃棄物の再資源化率が向上し、環境負荷低減に寄与します。

このような流れを受けて、多くの製紙メーカーや包装メーカーが、段ボールの構造や素材、製造方法の見直しを進めています。

段ボールの薄型軽量化における技術革新

段ボールの薄型軽量化に取り組む際、最も重要となるのは強度の確保です。

ただ薄く、軽くすればよいというものではありません。

箱としての機能、特に耐圧強度・耐衝撃性を維持しながら重量を抑える必要があります。

近年、こうした要件を両立するためさまざまな技術革新が進んでいます。

ライナーと中芯の高性能化

段ボールは、外側の「ライナー」と内側の波形構造「中芯」の組み合わせでできています。

従来より薄いライナー用紙や、中芯用紙にも高強度・高剛性の素材を用いることで、従来の厚みを維持しなくても十分な強度を持つ段ボールが誕生しています。

また、パルプの配合や抄紙方法の見直しによって、軽量化しながらも耐荷重を維持もしくは向上した製品も増えています。

段目の微細化

「Aフルート」「Bフルート」などと呼ばれる中芯の段目（フルート）の高さや細かさを調整することで、同じ厚みでもより軽量かつ丈夫な段ボールが作られるようになっています。

特に「Eフルート」「Fフルート」などの薄型フルートは、精密機器や化粧品など大量・多頻度配送に適した軽量包装の主流となっています。

積層構造の最適化

2層、3層と多層構造にすることで局所的な強度のアップや、必要最低限の素材で剛性・耐久性を実現する技術も発展しています。

最近は、用途や積載物の重量に応じて最適な層数や紙質を選定し、過剰包装を抑える動きが強まっています。

リサイクル適性を高める設計と選び方

段ボールは、紙製品の中でも極めてリサイクル適性の高い素材です。

日本の段ボール回収率・リサイクル率は90%を超え、国内で流通する段ボール原紙の多くが古紙由来とされています。

しかし近年、より高いリサイクル性を追求する姿勢が企業にも求められるようになり、次のような設計や工夫が進んでいます。

インクや接着剤の省資源・無害化

段ボール印刷に用いられるインクや、層を貼り合わせる接着剤がリサイクル工程で障害となるケースが指摘されてきました。

最近は、水性インクや環境負荷の小さい接着剤が採用され、リサイクル時の分離や脱墨がしやすくなっています。

ラミネートやコーティングの削減

撥水性や表面保護を目的としたラミネート加工・フィルムコーティングは便利である一方、リサイクルの妨げとなる場合があります。

脱プラスチック化・モノマテリアル化（単一素材化）の観点から、必要最小限の部分だけ機能的な加工を施したり、水解しやすい新素材を採用したりして、分別しやすい包装設計が増加しています。

識別表示と分別の容易化

適切な分別・回収を促すため、段ボールの識別表示（リサイクルマークなど）や廃棄方法の明示にも注力がされています。

また、テープやラベルも同系素材や分離しやすい設計にすることで、消費者や事業者がより簡単にリサイクルへ回せるよう配慮されています。

薄型軽量化とリサイクル適性向上の効果・メリット

段ボールの薄型・軽量化およびリサイクル適性の向上は、生産者・消費者・環境それぞれに大きなメリットをもたらします。

原材料や輸送コストの削減

従来より薄く、軽く作られた段ボールは、その分原材料となるパルプやエネルギーの消費を抑えることができます。

完成品を運ぶトラック等の積載効率も高まり、輸送コストや二酸化炭素排出量の削減にも直結します。

これは企業にとってコストダウンやGX（グリーントランスフォーメーション）の推進につながります。

廃棄物の減少と再資源化率の向上

比較的簡単に分別・リサイクル可能な段ボールが普及することで、廃棄物処理による環境負荷が減り、限られた資源の有効活用が図れます。

自治体や回収事業者の負担軽減にも貢献します。

また、リサイクル素材を使った新たな段ボールへの循環利用がさらに進展します。

企業の環境貢献アピール

サステナブルな包装材の使用は、企業の社会的責任（CSR）やESG投資の観点からも重要です。

エコマーク・FSC認証などのサステナブル認証の取得や、環境配慮を前面に出したパッケージデザインによって、消費者からの支持を獲得しやすくなります。

今後の課題と展望

段ボールの薄型軽量化とリサイクル適性向上は進化し続けていますが、いくつかの課題も指摘されています。

まず、軽量化の一方でダウングレード（強度低下）が顕著になれば、安全輸送や長期保存の観点で逆効果になる恐れがあります。

製品や物流の特性に応じた最適設計を見極め、過度な軽量化にならないバランス感覚が重要です。

また、リサイクル適性を追求するあまり、印刷や意匠性が損なわれると、ブランド力や販促効果への影響も懸念されます。

一方で、非木材パルプや再生素材の高品質化、耐水性・耐油性を持つ生分解性コートの開発など、「軽量」「エコ」そして「高機能」を両立した新素材の研究も活発です。

さらに、段ボール一枚一枚の最適化だけでなく、包装全体としてのLCA（ライフサイクルアセスメント）を評価し、社会全体のサステナビリティ向上に寄与する設計指標が求められるようになっています。

まとめ

段ボールの薄型軽量化とリサイクル適性の向上は、環境負荷の低減や原材料・物流コスト削減、循環型社会への貢献といった多面的な意義を持っています。

包装業界を中心に技術進化は加速しており、今後も「強度・利便性・環境配慮」のバランスを追求した段ボールづくりが続くでしょう。

企業・消費者・自治体が一体となって「使いやすく、捨てやすく、再生しやすい」包装材の普及に取り組むことが、持続可能な未来の実現のカギとなります。