低カフェインコーヒーの製造技術｜水抽出法と超臨界抽出の違い

低カフェインコーヒーとは何か

低カフェインコーヒーは、通常のコーヒーに比べてカフェイン含有量が大幅に少ないコーヒーを指します。

健康意識の高まりや睡眠への影響を避けたいと考える人、妊産婦、カフェイン過敏症の方などから強いニーズがあります。

しかし、おいしさや豊かな風味を保つためには、カフェインだけを上手に取り除く必要があり、その製造方法にはさまざまな工夫や技術が詰め込まれています。

低カフェインコーヒーの製造方法は主に「水抽出法」と「超臨界抽出法」の2種類が主流となっています。

この2つの技術の特徴や違いについて詳しく解説します。

カフェイン除去の必要性と背景

多くの人が日常的に楽しむコーヒーですが、そのカフェイン量は体質や年齢によっては好ましくない場合があります。

近年は、カフェイン過剰摂取による不眠や心拍数の増加、妊娠中の影響などが懸念されています。

そのため、美味しさを損なわずにカフェインだけを低減させる需要が世界的に拡大しています。

「デカフェ」「カフェインレス」などと表記される商品は、これらのニーズに応えるために進化してきました。

その根幹となる技術が抽出法です。

水抽出法の特徴と工程

水抽出法の基本原理

水抽出法とは、その名の通り水を用いてコーヒー生豆からカフェインを除去する製法です。

「スイスウォータープロセス」とも呼ばれ、化学薬品を一切使用しない点が大きな特徴です。

この方法では、まず生豆を大量の水に浸してカフェインおよび各種成分をゆっくりと「水」に移します。

その後、炭素フィルターなどを使ってカフェインのみを選択的に除去します。

残された水は、コーヒー特有の風味成分が溶け込んだままなので、次の生豆処理にも使われ、味わいを保つ役割を果たします。

工程の詳細とメリット

1.生豆を綺麗に洗浄します。

2.大量の温水に一定時間浸します。豆の中のカフェインや風味物質が水へと溶け出します。

3.カフェインを含んだ水を炭素フィルターなどでろ過し、カフェインのみを取り除きます。

4.この水（風味成分は残っている状態）に新しい生豆を加えることで、カフェインだけが効率的に抽出される仕組みです。

水抽出法の大きな魅力は、化学薬品を使わない安全性と、コーヒー本来の風味を損ないにくい点です。

コーヒー本来の豊かなアロマや味わいを大切にしたい方におすすめされます。

デメリットや課題

水抽出法は手間とコストが掛かる上に、比較的低カフェイン化のレベルに限界がある場合があります。

また、コーヒー豆の種類や品質によっては、多少風味が変わることもあります。

このため、価格がやや高い傾向があります。

超臨界抽出法とは何か

超臨界流体の概要

「超臨界抽出法」は、二酸化炭素（CO2）を「超臨界状態」にして使用する先進的な技術です。

超臨界状態とは、気体と液体の両方の性質を併せ持つ特殊な状態です。

この状態のCO2は、非常に高い溶解能力を持ち、特定の成分だけを選択的に溶かし出すことができます。

超臨界CO2によるカフェイン除去の工程

1.生豆を高圧窯の中にセットします。

2.超臨界状態にしたCO2を生豆に通します。

3.CO2はカフェインだけを包み込んで抽出し、他の風味成分にはほとんど影響を与えません。

4.カフェインが抱え込まれたCO2は分離され、CO2は再利用・循環させることができます。

このプロセスでは、極めて高純度のカフェインレス化が可能であり、しかもコーヒー本来の味や香りをしっかりと残すことができます。

超臨界抽出法のメリット

・化学薬品を一切使わない「クリーン」な方法です

・カフェイン除去率が非常に高いです（一般に99％）

・コーヒーの風味やアロマ成分へのダメージが少ないです

・大量生産にも向いています

このため、近年の低カフェインコーヒーの主流技術となっています。

デメリットや課題

・設備が非常に高価です

・大規模な生産ラインでないとコストメリットが出しにくい場合があります

・超高圧下での精密な管理が必要なため、中小規模のロースターやメーカーには導入コストが高くなりがちです

水抽出法と超臨界抽出法の比較

風味の違い

水抽出法は、コーヒーの原料豆による個性が再現しやすい反面、どうしても一部の風味物質も抜けやすくなります。

調和のとれたまろやかな味わいになり、豆本来の特徴をやや弱めてしまう場合があります。

一方、超臨界抽出法は、ピンポイントでカフェインのみを取り除く力が強いため、クリアな味わいと香りが特徴です。

特にハイグレードなコーヒー豆の場合、その個性が比較的生きてきます。

どちらの方法でも高品質な低カフェインコーヒーは作れますが、味の優劣は豆の産地、焙煎、抽出など、他の要素にも左右されます。

安全性・エコロジーの比較

どちらの方法も「化学薬品不使用」であり、安全性が高いとされています。

ただし、超臨界抽出法の場合は、CO2ガス自体の管理や回収が必須です。

また水抽出法も使用水量やエネルギーコストがかかるため、環境負荷という意味ではそれぞれに配慮が必要です。

価格・導入コスト

水抽出法は一度に大量処理が難しいため、ややコスト高になりがちです。

高級デカフェ専門商品などで多く採用されています。

一方、超臨界抽出法は機器が非常に高価ですが、一度大規模生産体制を構築すれば、ランニングコストや商品単価を抑えやすくなります。

そのため、市販されている低カフェインコーヒーの多くがこの製法です。

低カフェインコーヒーの選び方と楽しみ方

最近は、カフェインカットの水準や製法をパッケージに明記する商品も増えています。

購入の際は、以下のチェックポイントがおすすめです。

・どの方法でカフェイン除去が行われているか

・カフェイン含有量がどれくらいか

・生産地や焙煎度など、豆本来の特徴が生きているか

特に味わいにこだわる方は、焙煎したてやスペシャルティグレードの低カフェインコーヒーも選択肢になるでしょう。

家庭用にはドリップバッグやインスタント商品も豊富に揃っています。

まとめ｜最適な抽出技術で満足の一杯を

低カフェインコーヒーは、水抽出法と超臨界抽出法という2大技術によって進化し続けています。

水抽出法はナチュラル志向や優しい味わいを、超臨界抽出法はクリーンな香味再現や高効率な量産をサポートしています。

どちらもカフェイン過剰摂取を避けたい方にとって、安全性・安心感ともに優れた選択肢です。

目的やライフスタイル、味の好みに合わせて最適な製法のコーヒーを選び、豊かなコーヒーライフを楽しんでください。