フェイジョアピューレの香りと酸味を保持する低温殺菌技術

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フェイジョアピューレの特徴と市場動向

フェイジョアは南米原産のフトモモ科常緑樹で、パイナップルやグアバを思わせる芳香と独特の酸味を持つ希少フルーツです。
国内ではまだ生果の流通量が少ないものの、機能性成分の豊富さや爽やかな香りが注目され、ジャムやドリンクへの応用を目的に加工需要が拡大しています。
特にフェイジョアピューレは香味が際立ちやすく、スムージーやスイーツの原料として利用価値が高い一方、加熱殺菌の過程で香り成分と有機酸が失われやすいという課題を抱えています。

香りと酸味を劣化させる主因

高温短時間殺菌(HTST)の弊害

従来のHTSTは90〜95℃・30〜60秒で実施されるケースが多く、微生物の死滅には有効ですが、揮発性エステル類やテルペン類は熱に極めて不安定です。
さらに有機酸は加水分解やメイラード反応によりpHが上昇し、フェイジョア特有のキレのある酸味が鈍化します。

酸化と酵素失活不足

フェイジョア果実はポリフェノールオキシダーゼ(PPO)活性が高く、酸化褐変が香味低下を加速させます。
高温処理ではPPOは完全失活しますが、同時に香り成分も消失するため、絶妙なバランスが求められます。

低温殺菌技術の基本原理

低温殺菌とは一般的に60〜75℃の範囲で、比較的長時間(数分〜30分)保温し、熱による品質劣化を抑えつつ衛生レベルを確保する手法です。
フェイジョアピューレでは以下のような複合的アプローチが有効とされています。

酸性食品のpHハードル

フェイジョアのpHは3.0〜3.4と低く、耐熱性芽胞菌の増殖が抑制されるため、比較的低い温度でも十分な微生物制御が可能です。
この性質を活かし、63℃・30分、68℃・15分など、乳製品に準じた加熱条件で香りと酸味の保持率を80%以上確保した研究例があります。

真空・還流システム

減圧下(50〜70 kPa)で加熱すると水の沸点が下がり、60℃前後で気泡が発生してピューレ内部を撹拌します。
これにより均一加熱と脱気が同時に行え、酸素曝露を減らして酸化を抑制します。
香気成分の損失率は常圧加熱比で約40%削減されると報告されています。

連続式スクレーパー熱交換器

粘性の高いピューレを薄膜で加熱することで熱伝達効率を向上させ、目標温度到達時間を短縮できます。
結果として滞留時間の短縮=香気ロス低減につながります。

低温殺菌プロセスの設計ポイント

目標とするログリダクション値

HACCPに基づき、一般生菌・大腸菌群・カビ酵母を5D(10⁵削減)以上確保するのが実務上の基準です。
酸性ピューレの場合、芽胞菌のリスクは低いものの、冷蔵で保管する前提でも3〜5Dの確保が推奨されます。

加熱槽と保温槽の分離

瞬時加温の後、別槽で保温する二段方式にすると、過昇温による香料分解を防げます。
フェイジョアピューレでは68℃到達後、65℃で20分キープする設定が歩留まりと品質のバランスが良好です。

PPOとペクチナーゼの同時処理

ピューレ化の前工程で55℃・10分の酵素処理を行い、ペクチナーゼで粘度を調整しつつPPOを部分失活させると褐変と液離れを抑制できます。
その後に60〜70℃の低温殺菌へ移行することで、最終的な熱負荷を下げながら品質を保持できます。

包装・保存条件との相乗効果

無菌充填とガス置換

低温殺菌後に無菌環境でアルミパウチや多層ラミネート袋へ充填し、窒素ガスを充填すると残存酸素を0.5%以下に抑えられます。
香気保持率は3か月冷蔵で90%以上を維持できるデータがあります。

コールドチェーンの確立

低温殺菌は微生物残存リスクがゼロではないため、4℃以下の冷蔵流通が必須です。
物流段階での温度逸脱を監視するため、データロガー付きパレットを導入する企業も増えています。

最新技術との比較

高圧処理(HPP)

600MPa・3分の非加熱殺菌は香気保持が優れますが、設備コストが高く、連続処理が困難です。
ピューレが1バッチ350kg以下に制限される点もスケールアップの課題です。

パルスライト殺菌

表面殺菌が主目的であり、濁度の高いピューレ内部までは十分な光が届きません。
補助的に用いることで酸化抑制に寄与するものの、単独での置換は難しいのが現状です。

品質評価と官能試験の結果

低温殺菌処理品と従来HTST品を比較した官能評価では、香りの強さ・フレッシュ感・後味のキレで有意差が確認されました。
GC-MS分析では主要香気成分のメチルベンゾエートが低温品で95%残存、HTST品で68%残存。
乳酸などの有機酸は低温品で総量減少率5%、HTST品で22%と、酸味保持の優位性が数値でも裏付けられました。

導入コストと経済性

設備投資

連続式スクレーパー熱交換器(1000L/h)と減圧保温槽のセットで約1500万円。
HPP設備は同容量で1億円超となり、低温殺菌は中小規模の加工場でも導入しやすい価格帯です。

歩留まりとランニングコスト

高温殺菌は揮発損失による重量減が1.8%前後発生しますが、低温殺菌では0.6%程度。
年間100トン加工時に原料節減効果が約36万円、香料添加の補填費削減が約50万円見込めます。

法規制と表示義務

日本の食品衛生法では、pH4.6未満の酸性食品は密封包装後の加熱殺菌において「一般細菌10⁴CFU/g以下、耐熱性芽胞菌10²CFU/g以下」を満たせば常温流通も可能です。
ただしフェイジョアピューレは品質保持の観点から冷蔵を推奨するため、成分規格を満たしつつ「要冷蔵(10℃以下)」表示が事実上の標準となっています。

今後の研究開発トレンド

超音波支援低温殺菌

20〜40kHzの超音波を併用すると、細胞壁破壊と微生物の膜損傷が進み、温度をさらに2〜3℃下げられる可能性があります。
香気保持率向上とエネルギー削減の両立が期待され、産学連携で実証試験が進行中です。

天然抗菌素材との組み合わせ

ローズマリー抽出物や緑茶カテキンを0.05%添加し、低温殺菌と併用することで保存性を高める研究があります。
天然物であるためクリーンラベル志向の市場にも適し、風味への影響が少ない点でフェイジョアとの相性が良好です。

まとめ

フェイジョアピューレの香りと酸味を最大限に活かすには、60〜70℃で計画的に時間と圧力を管理する低温殺菌技術が鍵となります。
真空加熱や連続薄膜加熱を組み合わせれば、従来の高温殺菌より香気成分の残存率を25%以上高く保持でき、酸味の劣化も最小限に抑えられます。
設備コストや運用面でも中小加工業者が導入しやすく、クリーンラベル志向の高付加価値製品としての差別化が可能です。
今後は超音波支援や天然抗菌素材とのハイブリッド化が進み、フェイジョアピューレの市場拡大を後押しすると期待されます。

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