リモートワーク向け家具の市場成長と今後の需要予測

リモートワーク向け家具市場の現状

新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に、リモートワークは一過性の働き方から恒常的な勤務形態へと変化しました。
それに伴い、在宅勤務環境を快適に整えるためのリモートワーク向け家具市場が急拡大しています。
総務省の通信利用動向調査によると、2023年時点でテレワーク実施率は全就業者の約30％を維持しており、都市部では40％を超える企業も少なくありません。
この継続的な需要が家具市場を押し上げる主要因になっています。

市場規模と成長率

矢野経済研究所のレポートでは、国内のリモートワーク向け家具市場規模は2022年度に約2,200億円に達し、前年比で18％成長しました。
2020年の約1,100億円からわずか3年で倍増している計算です。
2023年も15％前後の成長が見込まれ、2025年には3,000億円規模に拡大すると予測されています。

成長を牽引する要因

第一に、企業による在宅勤務制度の恒常化があります。
第二に、腰痛や肩こりなど健康課題の顕在化によって、エルゴノミクスチェアや昇降デスクなど高付加価値製品への関心が高まっています。
第三に、家賃の上昇により限られた居住空間を有効活用できる省スペース家具への需要が拡大しました。
最後に、SNSとECサイトの連携強化で、D2Cブランドがユーザーへ直接リーチできるようになり、選択肢が多様化した点も市場拡大を後押ししています。

消費者ニーズの変化と人気製品

リモートワークが長期化するにつれ、消費者の視点は「短期的な応急措置」から「長期的な投資」へと移行しました。

エルゴノミクス家具への関心

長時間座っても疲れにくいメッシュチェア、ランバーサポート付きチェア、スタンディングデスクが売上を伸ばしています。
特に昇降機能付きデスクは前年比で25％以上の伸びを記録し、企業の福利厚生としても導入が進んでいます。

多機能・省スペース家具の台頭

折りたたみ可能なデスクや壁面収納一体型デスク、ベッド下スペースを活用したロフトデスクなど、小規模住宅向けの製品が好調です。
東京都心の単身世帯では、設置スペースが120cm×60cm以下のコンパクトデスクのニーズが高いという調査結果もあります。

サステナブル素材の需要

環境意識の高まりから、FSC認証材やリサイクルプラスチックを使用した家具を選択する消費者が増えています。
サステナビリティを訴求するD2CブランドはInstagramやTikTokでの拡散力が高く、若年層を中心に認知を拡大しています。

参入企業の動向と競争環境

市場拡大を受けて、大手家具メーカーだけでなく多様なプレイヤーが参入しています。

大手家具メーカーの戦略

国内大手は法人向けラインを家庭用に転用し、短納期でのEC販売を強化しています。
また、ショールームにVRを活用し、在宅環境での配置を疑似体験できるサービスを提供し始めました。

スタートアップおよびD2Cブランドの台頭

価格帯を絞ったサブブランドを立ち上げ、「10分で組み立て」「送料無料」を武器に市場を急速に拡大しています。
AIチャットでコーディネートを提案するオンライン接客も差別化ポイントです。

IT・家電メーカーとの協業

デスク天板にワイヤレス充電器やUV除菌機能を埋め込むなど、家電との融合が進んでいます。
IoTセンサーで姿勢を検知し、スマホにアラートを送る椅子も登場し、市場の付加価値を高めています。

今後の需要予測と市場トレンド

2025年までの需要予測

矢野経済研究所は2025年に国内市場3,000億円、CAGRは11％程度と見込んでいます。
中でもエルゴノミクスカテゴリーが市場の40％を占めると予測され、昇降デスクは500億円規模へ拡大する見通しです。

テクノロジー融合型家具の可能性

AI音声アシスタント搭載デスク、スマートライト連動チェアなど、家具とデジタルデバイスの境界が曖昧になります。
ウェルビーイング指標を取得し、労働生産性と健康管理を同時に最適化するソリューションが拡充すると見られます。

サブスクリプションモデルの普及

家具レンタルやリースサービスが一般化し、初期投資を抑えたい個人・中小企業に支持されています。
製品ライフサイクルの短縮とリセール市場の拡大により、循環型ビジネスモデルが主流になる可能性があります。

企業と個人が取るべきアクション

企業購買担当者への提言

従業員の身体データを踏まえた製品選定が欠かせません。
アンケートと姿勢測定アプリを併用し、最適なデスク高さや椅子の座面角度を決定すると、医療費削減と生産性向上を同時に実現できます。

個人ユーザーが選ぶ際のポイント

価格だけでなく、1日8時間以上使用する前提で耐久性と保証期間を確認することが重要です。
また、配線トレーやモニターアーム用のクランプスペースなど、拡張性も評価基準に含めると後悔がありません。

サービス提供企業への示唆

ARアプリによるレイアウトシミュレーション、オンライン組み立てサポート、サブスクリプションとのバンドルなど、UXを総合的に強化することが差別化に直結します。
顧客ロイヤルティを高めるため、リサイクル引き取りやアップサイクルプログラムの導入も効果的です。

まとめ

リモートワーク向け家具市場は、働き方の多様化と健康意識の高まりを背景に、今後も二桁成長が期待されます。
エルゴノミクス、省スペース、サステナビリティ、テクノロジー融合の四つが主要キーワードとなり、新規参入プレイヤーも増加する見込みです。
企業は従業員の健康管理と生産性向上を両立させる視点で、個人は長期的視野での投資として最適な家具を選定することが不可欠です。
サプライヤーはサブスクリプションや循環型ビジネスモデルを取り入れ、顧客体験を向上させることで競争優位を確立できます。
今後3年で3,000億円規模へと拡大するこの市場を巡り、製品・サービスの進化はさらに加速すると予測されます。