マルベリーエキスの風味を安定させるpHと酸度管理

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マルベリーエキスとは何か

マルベリーエキスは、桑の実(マルベリー)を搾汁・濃縮して得られる天然抽出物です。
アントシアニンやポリフェノールを豊富に含み、鮮やかな赤紫色と甘酸っぱい風味が特徴です。
機能性表示食品やジュース、ゼリー、アイスクリームの着色・香味づけに幅広く利用されます。

主要成分とその感覚特性

マルベリーエキスの色と味を決定づける主要成分は、アントシアニン類、クエン酸、リンゴ酸です。
アントシアニンはpHによって色調が大きく変わり、酸性域では鮮紅色、中性域では紫色、アルカリ域では青色へとシフトします。
クエン酸とリンゴ酸は、爽やかな酸味とともに保存性にも寄与します。

pHと酸度が風味に及ぼす影響

pHと酸度は似て非なるパラメータです。
pHは水素イオン濃度を示し、味覚への直接的な刺激よりもアントシアニンの色安定性や微生物制御に影響を与えます。
一方、酸度(総酸量)は遊離酸の量を示し、舌で感じる酸味の強さに直結します。

pH変動による色と香りの変化

マルベリーエキスはpH3.0付近で最も鮮やかな赤紫色を呈し、香りもフルーティーに保たれます。
pHが4.5を超えると発色が鈍り、茶褐変を招きやすくなります。
さらにpH6.0以上ではアントシアニン骨格が開環し、色だけでなくベリー特有のフローラル香も失われます。

酸度の低下による味の劣化

総酸量が0.5%未満になると、酸味が弱体化し、砂糖を加えても風味が平坦になります。
甘味が先行して“だれた”印象を与え、後味に渋みやえぐみが残ることがあります。
これはポリフェノールが唾液中タンパク質と結合しやすくなるためです。

pH管理の実践方法

pH制御は、マルベリーエキスの着色と微生物安定性を両立させる鍵です。

原料段階での調整

収穫直後の桑の実はpH3.2〜3.5が一般的ですが、成熟度でばらつきます。
選果時に糖度だけでなくpH測定を行い、pH3.0〜3.4の果実を優先的に使用します。
高pHの果実はレモン汁やクエン酸水溶液に1〜2分浸漬し、均質化してから搾汁します。

抽出・濃縮工程でのモニタリング

加熱抽出中はアントシアニンが分解しやすいため、pHが上昇しやすいです。
10分間に1回の頻度でインラインpHメーターを確認し、pHが3.6を超えたら速やかにクエン酸を0.05%ずつ滴下します。
濃縮工程では蒸発によって酸が揮散するため、終点で再度pH測定し、目標のpH3.2〜3.4に調整します。

保存・充填時の注意点

エキスをペットボトルやアルミパウチに充填する際、ヘッドスペースの酸素はpH上昇要因です。
窒素置換を行い、酸素濃度0.5%以下に抑えることで酸化的pHドリフトを低減できます。
加えて、充填直後に急速冷却し、pH変動を最小限にします。

酸度調整のテクニック

酸度は味覚と保存性を規定するため、総酸量0.7〜1.0%(クエン酸換算)が推奨レンジです。

クエン酸とリンゴ酸のバランス

クエン酸はシャープな酸味を、リンゴ酸はやわらかい酸味を付与します。
目安として、クエン酸:リンゴ酸=7:3の比率で調整すると、マルベリー固有のフルーティー感を引き立てつつ、後味にキレが生まれます。
高pH原料に対してはクエン酸を増やすとともに、パフューム抑制に乳酸を0.05%加える手法も有効です。

バッファー効果を活用した安定化

リンゴ酸とクエン酸は弱酸二元系バッファーを形成し、pHドリフトを抑制します。
割合を調整し、pH3.2付近で最大バッファリング能力をもたせると、保存中の酸味と色調が安定します。

甘味料との相互作用

スクロースや異性化糖を多用すると、酸味がマスキングされやすくなります。
総糖度15°Brix以上では、酸度を1.0%近くまで高めるか、ステビアやエリスリトールなど甘味強度が高く酸味を邪魔しにくい甘味料を一部置換するとバランスが取れます。

風味評価と品質管理

pHと酸度を管理しただけでは、最終的な風味品質を保証できません。
化学分析と感覚評価を組み合わせることが重要です。

官能評価の実施手順

熟練パネル6〜8名を用い、色相、香気強度、酸味、甘味、渋味、総合評価の6項目を9段階スケールで評価します。
試料は20±1℃で提供し、pHと酸度をブラインドにして評価すると、偏りが減少します。
スコアが目標値(例:総合評価7点以上)に達しない場合、pHと酸度の再調整を行います。

加速試験による予測

40℃、相対湿度75%で4週間保存し、色差(ΔE)、pH変動、総酸量減少率を測定します。
ΔEが3.0以下、pH変動0.15以内、総酸量減少5%以内であれば、常温6カ月の品質保持が見込めます。

まとめ

マルベリーエキスの魅力を最大限に引き出し、風味を安定させるにはpHと酸度の二軸管理が不可欠です。
pH3.0〜3.4を維持することで鮮やかな赤紫色とフローラル香を守り、総酸量0.7〜1.0%で甘酸っぱい味わいを保持できます。
原料選定、抽出・濃縮、充填、保存の各工程でこまめにモニタリングし、クエン酸とリンゴ酸を適切に配合することが成功の鍵です。
加えて、官能評価と加速試験を組み合わせた品質管理を行うことで、市場に出荷される製品の風味を長期にわたって安定化できます。
これらのポイントを押さえることで、マルベリーエキスを用いた飲料や菓子、機能性食品の付加価値を一段と高めることができるでしょう。

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