豚用飼料のプレバイオティクス添加と腸内フローラの変化

豚の健康と生産性を高めるためには、飼料設計の最適化が欠かせません。
近年とくに注目されているのが、プレバイオティクスを飼料に添加し、腸内フローラを良好に保つアプローチです。
本記事では、プレバイオティクスの基礎から具体的な効果、導入時のポイントまでを詳しく解説します。

プレバイオティクスとは何か

プレバイオティクスとは、腸内で有用菌の増殖を促進し、健康を支える難消化性成分の総称です。
プロバイオティクスが「有用菌そのもの」を投与するのに対し、プレバイオティクスは「有用菌のエサ」を与える点が大きな違いです。
オリゴ糖類やイヌリンなどが代表的で、ブタの盲腸と大腸に届いて短鎖脂肪酸（SCFA）を産生し、腸内環境を酸性に保つことで病原菌の増殖を抑えます。

豚の腸内フローラの基礎知識

哺乳期から離乳期にかけて、豚の腸内フローラは急速に変化します。
乳酸菌、ビフィズス菌、バクテロイデス属が優勢な状態は、消化吸収を助け、免疫系の発達を促します。
一方で、腸内がアルカリ性に傾くと、大腸菌やクロストリジウム属などの有害菌が増えやすくなります。
したがって、離乳ストレスの大きい時期にプレバイオティクスを添加し、善玉菌優位の環境を維持することが重要です。

プレバイオティクス添加がもたらす具体的効果

発育促進と飼料効率の向上

短鎖脂肪酸は腸絨毛のエネルギー源となり、絨毛長を延ばして吸収面積を拡大します。
その結果、同じ飼料摂取量でも体重増加が高まり、飼料要求率（FCR）が改善されます。

免疫機能の強化

腸管関連リンパ組織（GALT）は体全体の免疫の約70%を担います。
プレバイオティクスによって増えた乳酸菌がIgA産生を誘導し、病原体の侵入をブロックします。
加えて、SCFAは好中球の活性を高め、全身免疫の底上げに寄与します。

腸管バリア機能の改善

プレバイオティクスはタイトジャンクション蛋白の発現を増やすと報告されています。
これにより腸壁からの水分漏出やエンドトキシン侵入が減り、下痢の発生率が低下します。

代表的なプレバイオティクス素材

フラクトオリゴ糖（FOS）

サトウキビや甜菜由来で、水溶性が高くペレット飼料にも均一に混合できます。
特にビフィズス菌増殖能が高い点が利点です。

マンナンオリゴ糖（MOS）

酵母細胞壁由来で、サルモネラや大腸菌のフィンブリアに結合し、付着を物理的に阻害します。
免疫賦活作用も期待できます。

ガラクトオリゴ糖（GOS）

乳糖を酵素処理して得られるオリゴ糖で、pH耐性が高く胃酸下でも分解されにくい特徴があります。
乳酸菌と相性が良く、離乳仔豚向け製品に採用例が増えています。

イヌリン

キクイモやチコリ根に多く含まれる水溶性食物繊維です。
発酵速度が遅いため、後腸まで届きやすく、持続的にSCFAを供給します。

プレバイオティクス添加時の設計ポイント

適切な添加量とタイミング

一般的にFOSやMOSは0.1〜0.4%の配合が推奨されます。
離乳1週間前から給与を始め、離乳後3〜4週間継続すると効果が安定します。

飼料形状と併用成分

ペレット化温度が高いと一部のオリゴ糖が分解するため、70℃以下のコンディショニングが望ましいです。
有機酸やフィトゲン添加物と併用すると、相乗的にpH降下を促せます。

コストパフォーマンスの検討

原料単価だけでなく、FCR改善や薬剤使用量減少による総コストで評価します。
経済性試算では、FCRが0.05ポイント改善すると肉豚1頭あたり約80円の利益増となるケースがあります。

腸内フローラ変化の評価方法

現場で簡便に行えるのは糞便pHとアンモニア濃度の測定です。
pH6.0〜6.5、アンモニア100ppm以下であれば善玉菌優位と判定できます。
研究レベルでは16S rRNAシーケンス解析や蛍光in situハイブリダイゼーション（FISH）が用いられます。
最近はリアルタイムPCRキットが市販化され、主要菌群の定量を高精度に行えます。

プレバイオティクスと抗生物質削減戦略

欧州ではAGP（成長促進用抗菌剤）が全面禁止され、プレバイオティクスが代替技術として普及しました。
日本でも薬剤耐性菌対策が進むなか、プレバイオティクスは抗生物質依存度を下げる有力な手段です。
飼料会社各社は、プレバイオティクスに有機酸や精油を組み合わせた「多機能プレミックス」を開発し、衛生管理の向上と併せて総合的な腸管ヘルスプログラムを提案しています。

まとめ

豚用飼料にプレバイオティクスを添加すると、腸内フローラが善玉菌優位に改善し、発育、免疫、腸管バリアの各面でメリットが得られます。
FOSやMOSなど素材ごとの特性を理解し、適切な添加量とタイミングで給与することが成功の鍵です。
腸内フローラのモニタリングを行いながら、抗生物質削減やコスト削減といった経営目標とも結びつけることで、持続可能な養豚経営を実現できます。