バリアコート紙とプラスチックフィルムの印刷適性の違い

バリアコート紙とプラスチックフィルムの概要

バリアコート紙とは

バリアコート紙は紙基材に高いバリア性能を付与するため、樹脂や無機物をコーティングした包装材料です。
酸素や水蒸気を遮断しつつ紙ならではの手ざわりと印刷発色を両立できる点が特長です。
近年は脱プラスチックの流れを受け、食品や日用品のパッケージで採用が拡大しています。

プラスチックフィルムとは

プラスチックフィルムはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルなどを原料とした薄膜材料です。
透明性、衝撃強度、ヒートシール性に優れる一方、リサイクル課題が残ります。
多層ラミネート構成により、水蒸気・酸素・香りなど多様なバリアグレードが存在します。

印刷適性に影響する要素

表面エネルギー

印刷インキが基材に濡れ広がるためには、インキの表面張力より基材の表面エネルギーが高いことが条件です。
バリアコート紙は紙の多孔質構造とコート層が複合しているため、一般に40dyn/cm前後と比較的高い値を示します。
プラスチックフィルムは無処理では30dyn/cm程度と低く、コロナ処理やプラズマ処理で前処理を行い、42dyn/cm以上に引き上げてから印刷します。

インキ吸収性

紙系基材は毛細管現象でインキ溶剤を吸収し、速乾性と高彩度を実現します。
バリアコート紙の場合、コート層が吸収を抑制するため、従来紙より乾燥が遅く、インキ転移を最適化する必要があります。
プラスチックフィルムは吸収性ゼロで溶剤やUV光で硬化させる乾燥方式が必須です。

熱への耐性

紙は高温下で変形や黄変が生じやすいため、UVランプ照射時の温度管理が重要です。
プラスチックフィルムは樹脂の種類によって耐熱温度が異なり、PETは200℃近い耐熱性を持つ一方、PEは120℃程度が限界となります。

バリアコート紙の印刷適性

水性インキとの相性

バリアコート紙は水性フレキソや水性グラビアで良好な密着性を示します。
インキ中の水分が紙内部に一部移行し、乾燥を速めるためです。
ただしコート層の組成によっては水を弾くケースもあり、事前の試験刷りが必須です。

UVインキの使用時の注意点

紙面温度が60℃を超えると変形する恐れがあるため、低発熱LED-UVランプが推奨されます。
さらに酸素阻害を防ぐため、窒素パージ装置を併用すると硬化ムラを抑制できます。

後加工でのメリット

バリアコート紙は打抜き、折り、糊付けなど紙加工機がそのまま利用でき、パッケージ生産ラインの変更が少なく済みます。
箔押しやエンボスも施しやすく、高級感を演出できます。

プラスチックフィルムの印刷適性

溶剤インキの優位性

高濃度溶剤インキはポリマー鎖をわずかに溶解させ、表面に絡み付くことで強固な密着を得ます。
揮発乾燥が主なので高速グラビア機で8色以上の多色印刷が可能です。

コロナ処理の重要性

フィルム表面を瞬間的に放電処理し、親水性官能基を付与することで表面エネルギーを高めます。
処理後は時間経過で効果が低下するため、24時間以内の印刷が望ましいです。

ドライオフセット印刷への適応

厚みのある成形容器用フィルムではドライオフセットが採用され、UVインキで高速印刷が行われます。
インキ層が0.8μm程度と薄膜で済むため、コストを抑えながら意匠性を確保できます。

比較まとめ

環境性とリサイクル性

バリアコート紙は紙リサイクルルートに投入でき、消費者の分別負荷を低減します。
プラスチックフィルムはモノマテリアル化が進むものの、回収率が地域差に左右されます。

コストと在庫管理

バリアコート紙は紙ベースゆえ㎡単価がやや高いものの、小ロット対応が容易です。
プラスチックフィルムは大量生産時に低コスト化が可能ですが、在庫ロットが大きくなりやすいです。

推奨用途別早見表

短期消費のドライフードや菓子にはバリアコート紙が最適です。
長期保存が必要なレトルトや冷凍食品には多層プラスチックフィルムが適しています。
化粧品や医薬品で高級感と機能性を両立したい場合、紙とフィルムをラミネートしたハイブリッド構成も有効です。

選定時のチェックポイント

商品特性と保存期間

水分活性、油脂含有量、香気成分の揮発性を測定し、必要な透過度バリアを逆算します。
これに基づき紙系か樹脂系か、あるいは複合素材かを検討すると失敗がありません。

ブランドイメージと質感

サステナブルを訴求する場合は紙系が有利ですが、透明感やメタリック光沢を重視する場合はフィルム系が適します。
ターゲット層の嗜好をデザイン部門と共有し、素材選択を行います。

印刷ロットと納期

オンデマンド機で対応できるか、大型グラビア機が必要かで素材選定が変わります。
短納期案件では在庫紙を利用したバリアコート紙が優位になるケースが多いです。

まとめ

バリアコート紙は紙加工の自由度と環境適合性を備え、水性インキでの発色にも優れています。
一方、プラスチックフィルムはコロナ処理や溶剤乾燥を前提とした高度な印刷が可能で、長期保存用途に強みを持ちます。
印刷適性の違いを理解し、商品特性、環境方針、コスト、ロットに合わせて素材を選定することで、最適なパッケージングとブランディングを実現できます。