高耐熱性プラスチックの加工方法と自動車部品市場での適用

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高耐熱性プラスチックとは何か

高耐熱性プラスチックは、200℃以上の連続使用温度に耐え、機械的強度や寸法安定性を維持する高分子材料を指します。
代表的な樹脂にはPEEK、PPS、LCP、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリサルフォンなどがあります。
金属代替の軽量化材料として注目され、とりわけ高温環境下で作動する自動車部品に多用されます。

主要樹脂の特性と選定ポイント

PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)

連続使用温度250℃。
耐薬品性、耐加水分解性、耐摩耗性に優れ、ギアやベアリングに採用されます。

PPS(ポリフェニレンサルファイド)

連続200℃。
射出成形性が良好で、コストと性能のバランスが高いです。
エンジン周辺のポンプ部品やコネクタハウジングが代表用途です。

LCP(液晶ポリマー)

連続180〜200℃。
低線膨張と流動性が特長で、薄肉コネクタや高周波対応部品に最適です。

ポリイミド系樹脂

連続300℃以上。
耐熱性は最高クラスですが加工難易度と材料コストが高く、航空宇宙向けが中心でした。
近年はモーター絶縁やEVバッテリースペーサにも広がっています。

加工前に押さえる材料管理

高耐熱性樹脂は吸湿性を示すものが多く、含水率が高いとシルバーストリークや気泡発生の原因になります。
PEEKやPEIは150〜160℃で2〜4時間の予備乾燥が推奨されます。
乾燥装置にはデシカント式ホットエア乾燥機が望ましく、成形直前までホッパー内で保温乾燥を行うと安定します。

射出成形におけるポイント

シリンダ・金型の温度管理

成形温度は300〜400℃に達するため、汎用機ではシリンダ鋼材やヒーター容量が不足する場合があります。
バレル内の停滞時間を短縮し、樹脂の分解を防ぐためスクリュー吐出量の大きいハイスピードタイプが有効です。
金型温度は120〜200℃で一定に保つと結晶化が均一になり、寸法精度が向上します。

ガス抜きとベント設計

高溶融粘度の樹脂はエアトラップが起こりやすいです。
パーティングラインに0.02mm程度のベントを複数配置し、射出速度を段階制御すると焼けを低減できます。

金型材質とコーティング

高温に耐えるためにはマルエージング鋼やSUS440Cなど高硬度材が採用されます。
樹脂によるアタックを抑えるにはTiNやCrNコーティングが効果的です。

押出・ブロー・フィルム成形

PPSやLCPは押出による薄肉チューブやフィルムにも加工されます。
チューブはEGRパイプや燃料ラインに利用され、金属と比べ30〜50%の軽量化が得られます。
ブロー成形ではダクト一体成形が可能で、パイプ継手数が減りリークリスクが低減します。

切削・機械加工における留意点

高耐熱樹脂は弾性回復が大きく、切削抵抗も高いです。
超硬工具あるいはPCD工具を用い、送り速度は金属比30%減とします。
切削熱を抑えるためにエアブローを併用し、仕上げ後に150℃でアニール処理を行うと内部応力を緩和できます。

接合技術:溶着・接着・インサート

超音波溶着はPPSやLCPの薄肉部品に広く用いられます。
PEEKやPIのように溶着が難しい場合はレーザー溶着やホットプレート溶着が有効です。
金属インサートは成形同時挿入で密着性が高まりますが、熱膨張差によるクラックを防ぐため下穴の面取りとリブ設計を工夫します。
接着ではアミド系接着剤やエポキシ系が相性良好で、表面処理にプラズマ処理を加えると接着強度が2倍程度向上します。

自動車部品市場での適用事例

パワートレイン周辺

ターボチャージャーのインペラやシールリングにPEEKが採用され、従来のアルミ合金比で重量を40%削減し慣性モーメントが低下します。
エンジンオイルポンプハウジングをPPSに変更し、無潤滑状態でも20時間のドライラン耐久を実現した例があります。

電動車向け部品

インバータやOBCの高周波コイルボビンにLCPを用いることで、高温多湿下でも絶縁抵抗を維持します。
EVバッテリーモジュールのセルスペーサや冷却プレートにPEEK‐CF強化材を採用し、金属同等の熱伝導率と5G衝撃試験パスを両立しました。

燃料システム

PEI製フューエルレールはアルミ押出品と同剛性で、樹脂一体化によりブラケットを削減し工程コストを20%低減します。
PPS製EGRバルブハウジングは高硫黄燃料にも耐え、2000時間の浸漬試験後でも重量変化1%以下です。

内装・機構部

高耐熱LCPギアはステアリングコラムの角度調整機構に使用され、グリースフリー化と騒音2dB低減を実現します。
ポリイミドフィルムはヒートシートヒーターの絶縁層として用いられ、急速暖房時でも熱収縮が抑えられます。

市場動向と将来予測

調査会社のレポートによると、高耐熱性プラスチックの自動車用途世界市場は2022年の42億ドルから2028年には68億ドルに拡大すると見込まれています。
最大の牽引役はEVとハイブリッド車で、パワーエレクトロニクスの小型化・高出力化が進むにつれ樹脂部品の耐熱グレードへの需要が高まります。
一方で、PPSやPEEKの原料であるビフェニルやハロゲン系モノマーの供給制約が懸念され、リサイクルやバイオ由来モノマーの開発が急務となっています。

環境対応とリサイクル技術

高耐熱性プラスチックは熱硬化性ほどではありませんが、一般の熱可塑性樹脂に比べてリサイクル難易度が高いです。
近年、PEEKの超臨界水解重合によりモノマー回収するケミカルリサイクルが実証段階に入っています。
PPSについては連続式熱分解でチオール含有モノマーを再生するプロセスが確立され、再生材含有率30%のグレードが日系サプライヤから市販化されています。

導入プロセスと品質管理

新規製品への適用には、材料選定→CAEシミュレーション→試作→耐久試験→量産立ち上げの5ステップが推奨されます。
CAEでは射出充填解析と熱応力解析を組み合わせ、ウォーパージや内部応力を予測します。
量産立ち上げ時には、成形条件ウインドウをDOEで最適化し、CPK1.67以上を確保することでIATF16949監査に対応できます。

まとめ

高耐熱性プラスチックは、軽量化と高温対応を同時に求められる自動車部品にとって不可欠な材料です。
射出成形を中心とした加工技術は高温制御・ガス抜き・金型材質といった独自のノウハウを要しますが、適切な対策を講じれば金属代替による大幅なコスト・重量メリットが得られます。
EV化、モジュール化が進む今後の自動車市場で、高耐熱性プラスチックの適用範囲はさらに拡大し、素材開発・リサイクル技術と合わせてサプライチェーン全体での最適化が鍵となります。

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