植物由来の油脂原料の精製技術と食品・化粧品市場での活用

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植物由来の油脂原料の精製技術と食品・化粧品市場での活用

植物由来の油脂原料とは

植物由来の油脂原料は、ナタネ、大豆、ヒマワリ、パーム、オリーブなどの植物から得られる脂質のことを指します。
これらの原料は、持続可能性や環境負荷低減の観点から需要が高まっており、従来の動物性油脂の代替として注目されています。
現在では食品分野だけでなく、化粧品や医薬品など幅広い産業で利用されています。

植物性油脂は、油分を多く含む植物の種子や果肉から搾油によって取り出されます。
原油のままでも利用は可能ですが、食品や化粧品用途では品質面・安全面で要求が厳しく、様々な精製プロセスを経て高品質な製品へと仕上げられています。

植物由来油脂の精製技術の流れ

植物由来の油脂は、原料の搾油から精製まで多段階のプロセスを経て商品となります。
その精製工程を詳しく見ていきましょう。

1.搾油(圧搾・抽出)

最初の工程は、植物原料から油を取り出す搾油作業です。
伝統的な圧搾法は、ナタネやゴマなどの種子に圧力をかけて物理的に油を抽出します。
大量生産では有機溶媒(主にヘキサン)を用いた抽出法が主流となっており、より多くの油脂を効率的に回収できます。

2.中和(脱酸)

搾り出された原油には脂肪酸や微量の不純物が含まれており、これらを除去するためアルカリ中和処理を行います。
これにより遊離脂肪酸が石鹸状に変化し、油相から分離します。
食品用途の場合、残存アルカリや生成した石鹸類も除去して安全性を高めます。

3.脱色

原油にはクロロフィルやカロテノイド類など着色成分があるため、吸着剤(活性白土や活性炭)を利用して色を落とす脱色工程が必要です。
この過程で異臭・風味の原因となる微量成分も取り除かれ、見た目や香りが改善されます。

4.脱臭

高温・真空下で水蒸気を通じてにおい成分を揮発させ、油脂の風味を整えます。
この工程で余分なフリー脂肪酸や酸化生成物も除去できます。
特に化粧品向けでは、無臭・高純度が要求されるため重要なプロセスです。

5.脱ロウ・脱ガム

植物油にはロウ(ワックス)やガム(リン脂質など)が含まれている場合があります。
低温で析出させフィルターで除去する「脱ロウ」や、加水分解・遠心分離でガム成分を取り除く「脱ガム」工程も重要です。
これにより保存性・安定性が向上します。

主要な植物油脂の種類と特徴

食品・化粧品分野でよく使われる主な植物油脂の種類と特徴を解説します。

大豆油

大豆油は日本国内で最も流通量が多い食用油で、クセが少なく加熱調理にも適しています。
ビタミンEやリノール酸が豊富で、サラダ油やマーガリン、マヨネーズの原料に広く利用されます。
化粧品では保湿力やなめらかさに貢献します。

ナタネ油(キャノーラ油)

ナタネ油はオレイン酸が多く、酸化に強い性質を持ちます。
癖が少なく用途が広いため、揚げ油、ドレッシングなど多様な食品に加工されています。
化粧品では肌なじみの良さからクリームや乳液に利用されます。

オリーブ油

オリーブ油は高いオレイン酸含有量とその風味により、プレミアムな食用油として人気です。
ポリフェノールやビタミンEの抗酸化作用が注目され、肌や髪の保湿・保護成分としても化粧品に多数配合されています。

パーム油・ココナッツ油

パーム油は世界の植物油脂生産量1位です。
飽和脂肪酸が多く熱安定性に優れ、菓子や即席麺、クリーム類など加工食品に使用されます。
ココナッツ油も飽和脂肪酸が主成分で、泡立ちや乳化性が良いため石鹸やシャンプー基剤にも最適です。

食品市場における植物油脂の活用

食品分野では、植物油脂の特性を活かし様々な用途で活用されています。
健康志向の高まりとともに、その役割や製品価値も変化しています。

サラダ油や揚げ油として

サラダ油は多くが植物性原料で作られています。
ナタネ油、大豆油、ヒマワリ油などは軽い風味と酸化安定性があり、家庭用だけでなく業務用にも広く流通しています。
また、トランス脂肪酸低減やノンコレステロールといった健康志向の商品も登場しています。

揚げ油では酸化安定性の高い品種が重宝されます。
業務用途では脱臭・脱ガム処理を徹底し、連続加熱にも耐える油脂製品が求められています。

加工食品・冷凍食品への利用

植物油脂はマヨネーズ、ドレッシング、マーガリン、ショートニングなどの原料としても不可欠です。
冷凍食品やスナック菓子、焼き菓子に練り込むことで、食感や風味、保存性を向上させる役割も担います。

近年はアレルギー対応やトランス脂肪酸を問題視する消費者ニーズを反映し、「機能性油脂」として、高オレイン酸タイプやオメガ3脂肪酸強化品なども開発されています。

植物油脂と健康・栄養

植物油の多くにはリノール酸やオレイン酸など身体に良い脂肪酸が含まれています。
また、天然のビタミンEやポリフェノールを多く含むため、抗酸化機能や生活習慣病予防効果も期待されています。
特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品にも応用されており、今後も健康志向食品との結びつきが深まると予想されます。

化粧品市場での植物油脂の利用

植物油脂のやさしさ・保湿力は美容成分としても高く評価され、国内外の化粧品メーカーが高純度化処理した植物油脂を基剤や美容成分として活用しています。

クリーム・乳液への利用

オリーブ油やホホバ油、マカダミアナッツ油などはエモリエント作用や抗酸化力が認められており、クリームや乳液の主成分として用いられます。
高純度の脱臭処理を徹底することで、敏感肌用化粧品や赤ちゃん用製品にも配合が可能となっています。

ヘアケア・ボディケア製品

アルガン油やアボカド油、ココナッツ油などは毛髪の保湿・ダメージケア、ボディオイルによる肌の保護・保湿効果に優れています。
石鹸やシャンプーの原料としての使用時も、豊かな泡立ちや天然由来の安心感が好まれており、オーガニック・ナチュラルコスメ市場での需要が高まっています。

シリコン代替・クリーンビューティ分野

消費者の「クリーンビューティ(安全性・環境性への配慮)」志向の高まりを背景に、従来石油系合成成分やシリコンを使っていたアイテムを植物油脂で代替する動きが進んでいます。
テクスチャーや仕上がりの良さを追求しつつ、肌や環境にやさしい処方開発が活発化しています。

今後の展望と課題

植物由来油脂原料の精製技術は、さらなる高品質化や環境負荷低減、サステナビリティ対応に向けて進化し続けています。
一方で、食品・化粧品市場での拡大のためにはいくつかの課題も存在します。

環境問題・認証取得の重要性

特にパーム油では森林破壊や生物多様性への懸念から持続可能な調達(RSPO認証など)が求められています。
今後はトレーサビリティやフェアトレード、オーガニック認証の取得が差別化ポイントとなるでしょう。

安定供給と品質管理

気候変動や地政学的リスクによる原料価格の変動も大きな課題です。
多様な原料の調達先確保と品質管理、そして価格安定化のための取引・流通体制が求められます。

新しい機能性と商品の開発

健康への機能性に加え、アレルギー対応、低刺激性、無臭化など、より高度な精製技術と成分分別技術が必要です。
バイオリファイナリー(生物由来原料の多用途精製技術)や、発酵・酵素プロセスを用いた新しい油脂原料の開発も進んでいます。

まとめ

植物由来の油脂原料は、高度な精製技術によって安全・高品質化が進み、食品や化粧品市場で広範に活用されています。
低環境負荷やサステナビリティに対応しつつ、人々の健康や美容ニーズの多様化にも応えていくことが期待されています。
今後も先端技術や認証制度との連携を強化し、より付加価値の高い製品開発とグローバル市場への展開が加速すると考えられます。

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