貴社の強みや特徴を一言で表現
詳しくは、下記リンクより詳細をご覧ください👇
有機エレクトロルミネッセンス(OLED)材料の励起状態寿命と発光効率の関係
有機エレクトロルミネッセンス(Organic Light Emitting Diode; OLED)は、発光性能や柔軟性、省エネルギー性を生かしてディスプレイや照明の分野で急速に普及しています。
OLEDデバイスの心臓部は有機発光材料であり、その発光効率と長寿命性は材料選択や分子設計に大きく依存します。
これらの特性に深く関与するのが、「励起状態寿命」です。
OLED材料は電圧を加えることで、電子と正孔が再結合してエネルギーを持つ状態(励起状態)に遷移し、そこから元のエネルギー準位に戻る際に光(フォトン)を放出します。
この光放出過程がエレクトロルミネッセンスです。
励起状態寿命とは、励起状態が維持されている平均時間を指します。
発光効率は、材料がいかに効率的に電気的エネルギーを光に変換できるかを示す指標であり、励起状態寿命と密接な関係を持っています。
OLED材料で発生する励起状態は、主に「一重項励起状態(S1)」と「三重項励起状態(T1)」に分類されます。
一重項励起状態はスピンが反平行な場面、三重項励起状態はスピンが平行な場面で発生します。
電流注入型OLEDの場合、電子・正孔対の生成比率は一重項:三重項=1:3で理論的に決まっています。
一重項励起状態からの発光は「蛍光(フルオレセンス)」、三重項励起状態からの発光は「燐光(フォスフォレセンス)」または“熱活性化遅延蛍光(TADF)”として知られています。
蛍光材料の場合、一重項励起状態の寿命は一般的にナノ秒(10⁻⁹秒)オーダーと非常に短く、電極からの再結合で生じた大部分の三重項励起状態は失活してしまい、発光効率(内部量子効率)は最大でも25%程度しか得られません。
対して、燐光材料やTADF材料では三重項をも発光過程に取り込むことが可能になります。
燐光分子では三重項励起状態からの放射遷移が促進され、寿命はマイクロ秒からミリ秒と比較的長くなります。
TADF材料では三重項励起状態から熱的エネルギーによって一重項励起状態に逆変換(RISC: Reverse Intersystem Crossing)することで、すべての励起状態を光に変換可能です。
発光効率を定義すると次のようになります。
外部量子効率(External Quantum Efficiency, EQE)=発光素子から外部に放射された光子数/素子に注入された電子数
内部量子効率(IQE)は素子内での総発光効率です。
この過程で励起状態の寿命が大きく関与します。
励起状態寿命が極端に短いと、発光する前にエネルギーが熱失活として失われるリスクが増えます。
逆に、寿命が極端に長ければ、他の励起状態と相互作用しやすくなり、「励起子―励起子消滅」や「励起子―キャリア消滅」など非発光過程が起こりやすくなります。
そのため、発光過程に最適な励起状態寿命は材料応用の目的によって設計されることになります。
蛍光OLEDは一重項励起子のみを利用し、励起状態寿命は通常1〜10ナノ秒程度です。
寿命が短いため、励起子間の相互作用による非発光消滅過程は起こりにくく、高密度駆動下においても効率が維持されやすい傾向があります。
しかし、三重項励起子は発光せず失活するため内部量子効率は約25%に制限され、近年では高効率化のため限定的にのみ使用されています。
金属錯体を含む燐光材料は、三重項励起状態からの発光を促進します。
三重項励起状態の寿命は一般的にマイクロ秒〜数百マイクロ秒と長くなります。
理論的にはすべての励起子(一重項、三重項)を発光に利用できるため、最大100%近い内部量子効率が実現可能です。
しかし、寿命が長いことで励起子同士の消滅や、キャリアによる消滅(Triplet-Triplet Annihilation, TTA/Triplet-Polaron Annihilation, TPA)が高密度駆動時に生じやすくなり、装置の高輝度化や長寿命化において設計上の課題となります。
また、発光開始までの応答が遅れることもディスプレイ用途で問題視されます。
熱活性化遅延蛍光(TADF)材料は、三重項励起状態から一重項励起状態へ逆転移(RISC)することで、高効率な発光を実現します。
材料設計によってRISC効率や励起状態寿命のコントロールが可能であり、三重項励起子の寿命は数〜数十マイクロ秒程度が一般的です。
TADF材料における励起状態寿命の最適化は慎重を要します。
寿命が短すぎると十分なエネルギー移動が起きず、逆に寿命が長すぎれば消滅過程により効率が落ちます。
近年はRISCプロセスを高速化し、励起状態寿命をできる限り短縮しつつTADF効率を高める分子設計が進展しています。
OLED材料開発では、素子の効率向上と長寿命化の二つの課題を同時に解決する必要があります。
分子の対称性やπ共役構造、ドナー・アクセプター間のエネルギーギャップなどを調整することで、励起状態の安定化および寿命の最適化が可能です。
TADF分子では、ドナー・アクセプター間の重なりを抑えつつ適度なエネルギーギャップ(ΔEST)を持たせることで、三重項から一重項へのRISC速度を調整できます。
発光分子単独では高集積状態で消滅反応が起こりやすくなります。
そのため、適切なエネルギー準位を持つホスト材料と組み合わせて、励起子の拡散や分布の均一化、消滅過程の抑制が図られています。
発光層を中心に、電子輸送層、正孔輸送層、ブロッキング層など多層膜構造を導入することで、キャリアバランスの最適化や励起子の不要なリーク防止、消滅の最小化を実現できます。
近年では、長寿命のTADF材料や、マルチレゾナンス構造を活用した高効率・高安定化分子、新型燐光分子(Hyperphosphorescent materials)、自己修復機能を持つ自己組織化分子など、新たな技術が急速に実用化されています。
これらは励起状態寿命と発光効率のバランス設計に新しい可能性をもたらしています。
ディスプレイや一般照明を含む実用的なOLEDデバイスでは、単に発光効率が高いだけでなく、高輝度条件下でも劣化せず、数万時間に及ぶ寿命が求められます。
そのため、
1. 励起状態寿命を適切な領域に最適化する
2. 発生する励起子の消滅経路を最小限に抑える
3. 励起子拡散長、拡散挙動をコントロールする
という、マルチレベルの設計が常に求められます。
例えば、青色発光素子は他の色素子よりも励起エネルギーが高く、活性材料の分解が起きやすいことから、励起状態寿命の最適化と分子の安定設計が不可欠です。
近年はTADF材料の青色発光分子や新型金属錯体、さらには燐光・TADFハイブリッド型の多色発光素子など幅広い技術が開発されています。
また、外部量子効率をさらに高めるため、光取り出し技術やマイクロレンズ、導光フィルムなどのデバイスアーキテクチャも併用されるようになっています。
有機エレクトロルミネッセンス材料における励起状態寿命と発光効率の理解は、今後のディスプレイ、照明、自動車、医療機器などさまざまな分野での応用に大きく貢献すると期待されています。
特に、低コストで高信頼性の青色発光材料の確立、長寿命かつ広色域を実現する白色OLED、さらにはフレキシブルデバイス、透明ディスプレイへの応用展開が急速に進んでいます。
今後は、より高度な分子工学やナノ構造デザイン、環境負荷が低いグリーン材料の探索も進展すると考えられます。
OLED材料開発において、励起状態寿命のコントロールと発光効率の最大化は、不変の課題であり、材料科学とデバイス工学が両輪となり、あらゆる産業応用をリードしてゆくでしょう。

詳しくは、下記リンクより詳細をご覧ください👇
You cannot copy content of this page