食品のガラス転移温度と貯蔵安定性の関係解析

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ガラス転移温度とは何か

食品の品質保持や長期保存を考える際、「ガラス転移温度(Tg)」という物理化学的特性が重要な意味を持ちます。
ガラス転移温度は、アモルファス状態にある物質が、硬くてもろい「ガラス状」から、柔らかく粘性のある「ゴム状」へと物性が変わる転換点の温度です。
この現象は、特に糖類やデンプンなど非結晶性の高分子に顕著に見られます。

食品の場合、成分の多くが水分、糖質、タンパク質、脂質、無機質など多様ですが、加工や乾燥工程を経ることでアモルファス構造をとることが少なくありません。
その際、ガラス状で保管するか、ゴム状で保管するかによって、微生物の増殖や酵素活性、酸化反応、物理的品質劣化の進行度合いが大きく変化します。

ガラス転移温度が食品の安定性に及ぼす影響

ガラス状態での保存特性

食品がガラス転移温度以下の「ガラス状態」にある場合、その内部の分子運動は極端に制限されます。
このため、水分や気体の拡散速度は著しく低減し、酵素反応や微生物の代謝活動もほとんど進行しません。

たとえば粉ミルクやインスタントコーヒー、冷凍デザートなどの多くは、水分活性や温度がガラス転移点より低い条件で貯蔵されます。
こうすることで、風味の変質・色の変化・リジンなどの栄養素損失といった品質劣化を抑制することができるのです。

ゴム状態での保存リスク

一方で保存環境の温度や湿度が高くなり、ガラス転移温度を越えて「ゴム状態」になると、分子運動が活発になりさまざまな反応が促進されます。
結晶化しやすくなり、香気成分の揮発や褐変、粘着性の発現などが生じやすくなるのです。
特に糖質系の食品では吸湿によって急激にTgが下がるため、湿度管理が不十分だとすぐにゴム状になり、品質が著しく損なわれます。

各種食品のガラス転移温度例

単糖・二糖のTg

代表的な糖質であるグルコース、フルクトース、スクロースのガラス転移温度は無水状態であればおおよそ45℃~65℃とされます。
ただし、1%の水分でも大きくTgが下がり、5~10℃程度しか保てない場合も多いです。
特にアメやキャラメルなどは水分含有量を厳密に抑え、堅いガラス状を維持しているのです。

食品由来のアモルファス物質のTg

デンプン、コリン脂質、タンパク質の一部もアモルファス構造をとりますが、乾燥食品であれば約50~100℃の範囲にTgを持ちます。
しかし水分が1%添加されると、Tgは一気に20~30℃ほど低下します。
インスタント麺などはこの特性を利用して保存時の食感維持や品質安定化が図られています。

食品保存におけるTg管理の重要性

パウダー・タブレット製品への応用

ココアパウダー、粉末スープ、健康食品のタブレットなど、粉末形態製品は吸湿によって結塊や溶解性悪化が起こることが知られています。
これはTg低下→ゴム化→結着強化→ブロッキングという一連の過程が主要因です。
そのため、保存に際しては水分活性(Aw)がTgを規定する最も重要な要素として管理されています。

脱水剤や適切なパッケージ、乾燥剤による湿度制御が不可欠となります。
特に冷蔵・冷凍庫保管の場合も、庫内が多湿でTgを下回る状況になると品質の維持が困難となります。

凍結・冷蔵食品のガラス転移温度

アイスクリームやシャーベット、冷凍果実などはガラス転移温度の概念が極めて重要です。
氷点下でも糖類や塩類の濃度が高い場合、Tgは冷蔵温度帯まで下がってしまいます。
保管温度がTgを超えると着色や氷晶成長、食感悪化が進みます。
理想的には食品のTgよりも5~10℃程度低い温度帯での保存が推奨されます。

Tgと貯蔵安定性の数値的な関係

Tgと反応速度の関係

ガラス状態とゴム状態の間では、分子拡散や化学反応、酵素活性の速度が著しく異なります。
ガラス状態下では、食品内部の分子移動が制限される結果、反応速度は10^(-6)~10^(-12)倍にまで低下します。
このため、脂質酸化、非酵素的褐変(Maillard反応)、ビタミンや香気成分の分解進行は大幅に抑制できます。

Tg超過と劣化促進

Tgを超えてゴム状態になると、わずか10℃の温度上昇でも反応速度が数倍~数十倍になるケースがあります。
このため短期間でのフレーバーロス、変色、物理的結塊が進行しやすくなります。
食品メーカーではTgの測定と保存温度選定をセットで行い、賞味期限の設定やロット管理の基準として利用しています。

ガラス転移温度を測定する方法

DSC(示差走査熱量測定)

最大の指標となるのが、DSC(Differential Scanning Calorimetry:示差走査熱量測定)です。
食品サンプルを徐々に昇温または降温しながら、温度-熱流曲線上で熱容量の非連続的な変化点(ステップ)としてTgを検出します。
この手法は微量のサンプルで再現性よく測定でき、工業・研究用途問わず広く利用されています。

物理的観察法、他の分析法

その他の手法には動的粘弾性法、NMR、赤外分光法、X線散乱法などがあり、構造変化や分子運動性の観点からガラス転移特性を補完的に解析します。
簡易的には、食品の固さ・粘性・結塊挙動を観察することでガラス状態/ゴム状態の推定を行う場合もあります。

水分活性(Aw)とTgの関係

食品のガラス転移温度は組成の違いだけでなく、含水率や相対湿度によって大きく変動します。
低水分域ではTgが高く、わずかな吸湿でも急低下するケースが多いです。
特に粉末製品ではAwが0.3未満を保つことが高Tg状態確保に有効とされます。

包装や乾燥プロセスで水分制御を強化し、「保存中はTg未満の状態にする」という方針が安定流通の基本となります。

ガラス転移温度を活用した高品質食品の設計

加工プロセスとTg設計

菓子・スナック・冷凍食品・レトルト製品などでは、原材料の組成や乾燥・冷却条件を最適化し、なるべく高いTgで製品化する手法がとられています。
またパッケージ設計や流通温度帯の最適化といった、Tgを軸にした一貫マネジメントが欠かせません。

新規食品開発におけるTg指標の重要性

さらに食品新製品の開発段階では、耐熱性、耐吸湿性、食感保持などの要求特性に合わせてTgを事前測定し、保存・輸送プロセス設計まで含めて最適条件を割り出します。
この考え方は、個々の商品の特性に合った”最適保存温度”や”推奨賞味期限”など品質管理基準の根拠にもなります。

まとめ:ガラス転移温度と貯蔵安定性の深い関係

食品のガラス転移温度は、分子レベルの物質運動と直結し、保存中の品質安定性を大きく左右します。
Tg以下でのガラス状態を維持すれば、劣化反応の進行を著しく抑え、長期間高品質を維持できます。
反対にTgを超えてゴム化すると、反応速度の増大とともに物理的・風味的劣化が急速に進行します。

乾燥・冷却・湿度制御・パッケージング、それぞれの工程でTgを意識した管理は、食品の高付加価値化と持続可能な供給のために、今後ますます重要となっていくでしょう。
最先端の食品工学や包装技術、温度管理システムの進展とともに、Tgの観点から最適な食品保存戦略を立案し、消費者へ安心・安全で美味しい食品を届けることが求められています。

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