マグネシウム合金の表面改質技術とその自動車市場での活用

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マグネシウム合金の基礎知識

マグネシウム合金は鉄やアルミニウムよりも約35%以上軽く、比強度が高い軽量金属材料です。
自動車の軽量化ニーズが高まるなか、燃費向上や電動化車両の航続距離延伸に寄与する材料として注目されています。
一方で、耐食性が低く、摩耗やガルバニック腐食、酸化被膜の脆弱性などが課題です。

軽量性と高比強度

比重1.8という軽さはアルミニウム(比重2.7)よりもさらに軽く、構造部材の質量低減に大きく貢献します。
応力‐ひずみ特性も良好で、薄肉形状で同じ強度を実現できるため部品の小型化にも有利です。

腐食・摩耗の課題

マグネシウムは標準電極電位が低く、環境中で酸化皮膜が生成しても不連続になりやすい性質を持ちます。
そのため、塩水噴霧や高湿度環境下では急激に腐食が進行しやすく、部品寿命を著しく短縮させます。
加えて、硬度が低いため摩耗粉が発生しやすく、軸受やギアなど摺動部品への適用は表面改質が不可欠です。

表面改質技術の必要性

自動車用部品は気温変動、ロードスプラッシュ、ブレーキ粉など過酷な環境にさらされます。
軽量性だけを求めてマグネシウム合金を用いても、表面が損傷すれば本来の性能を発揮できません。
そこで、腐食・摩耗を抑え、密着性と導電性など機能を付与する表面改質技術が重要になります。

主な表面改質技術

陽極酸化皮膜(MAO/PEO)

マイクロアーク酸化(Micro Arc Oxidation, MAO)やプラズマ電解酸化(Plasma Electrolytic Oxidation, PEO)は、数百ボルトの高電圧で厚いセラミック皮膜を生成します。
生成皮膜はアルミナやマグネシアが主体で、10~30µm程度の厚みを持ち、硬度はHV1000以上に達します。
耐食性、耐摩耗性が大幅に向上し、塗装下地としても優れた密着性を示します。

化成処理(クロメート・リン酸系)

伝統的な六価クロムを用いたクロメート処理は高い耐食性を発揮しますが、RoHSやREACHで規制対象となりました。
現在は三価クロム、リン酸ジルコニウム、フッ化チタン系など環境負荷の低い化成処理が主流です。
薄膜(1µm以下)ながら自己修復性を有し、後工程の塗装や接着との複合で性能を引き上げます。

無電解めっき(Ni-P・Zn系)

無電解ニッケル‐リン(Ni-P)めっきは鏡面に近い外観と均一膜厚が特徴です。
硬度は熱処理後にHV800程度まで向上し、摩耗部材や金型にも応用されています。
下地に亜鉛やパラジウム活性化を施すことで、マグネシウム特有のガス発生を抑制します。

溶射コーティング(プラズマ溶射・HVOF)

高温高速で皮膜材を基材に吹き付け、厚膜セラミックや金属層を形成します。
プラズマ溶射ではアルミナ-チタニア系皮膜、HVOFではWC-Coなど超硬質層が可能で、ブレーキキャリパやステアリング部品の摩耗対策に採用が進みます。

ハイブリッド膜と有機塗装

PEO皮膜上にフッ素系樹脂やエポキシ塗装を積層したハイブリッド被覆は、塩水噴霧2000時間以上の耐久性を達成します。
カラーバリエーションの自由度も高く、外観部品の意匠性を保ちながら高い保護性能を提供できます。

自動車市場での活用事例

車体フレーム

欧州OEMではフロントエンドキャリアやクラッシュマネジメントシステムにマグネシウム高圧ダイカストを採用しています。
PEO+塗装の複合被覆を施すことで、サイクル腐食試験240サイクルをクリアし、衝突安全性能と耐久性能を両立しています。

パワートレイン部品

トランスミッションケースやクラッチハウジングは従来アルミ製でしたが、マグネシウム合金に置き換えることで約20%の軽量化を実現しました。
Ni-Pめっきや陽極酸化下地の潤滑塗装により、油圧作動油や熱負荷の高い環境下でも長期信頼性を維持しています。

電動車向けバッテリーケース

EVのバッテリーエンクロージャには衝撃吸収性と熱拡散性が求められます。
マグネシウムは優れた比剛性と導熱性を兼ね備え、火災時の温度上昇を抑制します。
溶射によるセラミックバリアコートを施し、熱暴走時のフレームワークとして期待されています。

表面改質の評価方法

腐食試験

塩水噴霧試験(JIS Z 2371)や複合サイクル腐食試験(CCT)で皮膜剥離や発泡を確認し、評価指標は白さび・赤さびの発生面積率です。
電気化学的測定による分極曲線から、腐食電位および腐食電流密度を算出し、皮膜の防食メカニズムを解析します。

摩耗・密着性試験

ピンオンディスクや往復摩耗試験で摩耗量と摩擦係数を測定します。
クロスカット・プルオフ試験により塗膜の密着性を数値化し、工程最適化に反映させます。

耐熱・熱衝撃試験

エンジン周辺部品では150℃以上の高温環境が想定されます。
オーブン加熱と氷水浸漬を繰り返す熱衝撃試験により、皮膜のクラックおよび剥離挙動を評価します。

コストと環境対応

表面改質工程は材料コストに対して15~40%を占めることもあり、いかにコスト増を抑えつつ性能を確保するかが課題です。
クロムフリー化成処理や低温溶射、無電解めっきの排水ゼロプロセスなど、環境負荷を低減する技術開発が進んでいます。
自動車メーカーはLCA(ライフサイクルアセスメント)を重視しており、CO₂排出量算定でも表面処理工程の改善が求められます。

今後の展望とまとめ

次世代電動車やCASE時代の到来で、車両軽量化と部品高度化は加速します。
マグネシウム合金は軽量金属の切り札として、市場規模が2030年には現在比で2倍超に拡大すると予測されています。
表面改質技術は性能向上だけでなく、サプライチェーン全体の環境適合とコスト最適化が鍵になります。
PEOやハイブリッド被覆の量産適用、AIによる腐食寿命予測、常温プロセスの開発などが実用化すれば、適用範囲は車体骨格から内装部材まで広がるでしょう。
自動車業界でマグネシウム合金を成功裏に活用するには、材料設計と表面改質を一体で最適化するシミュレーション主導の開発が不可欠です。
表面改質技術の進化が、マグネシウム合金のポテンシャルを最大限に引き出し、カーボンニュートラル社会の実現を後押しすると期待されます。

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