射出成形と圧縮成形の技術比較とそれぞれの応用範囲【業界向け】

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射出成形と圧縮成形の基本原理

射出成形は溶融した熱可塑性樹脂を高圧で金型キャビティへ射出し冷却固化させる方法です。
材料を可塑化するスクリューシリンダー、型締装置、高速で開閉可能な金型が主構成要素となります。

圧縮成形は主に熱硬化性樹脂やゴムを対象とし、金型内で材料を直接加熱・圧縮して硬化させます。
プリフォーム状の材料を金型に置き、上下から圧力を加えるプレス機構と、加熱用ヒーターが中核です。

両者はともに金型内で形状を与えるという点で共通しますが、材料物性、圧力・温度プロファイル、硬化・冷却のメカニズムが大きく異なります。

技術比較:主要パラメータ別の評価

プロセスフローとサイクルタイム

射出成形は材料加熱、射出、保圧、冷却、金型開放、取り出しの一連工程が数十秒から数分で完了します。
冷却フェーズが支配要因となり、薄肉・小型部品ほどサイクルは短縮可能です。

圧縮成形は加熱、プリフォーム投入、圧縮、硬化、冷却、離型の順です。
熱硬化性樹脂は化学反応硬化を要するため数分から十数分を要しますが、近年の高速硬化樹脂やインダクションヒーターの導入で短縮が進みます。

材料適性

射出成形は熱可塑性樹脂全般に対応し、PP、ABS、PC、PA、PBT、LCPなどのエンプラやスーパ―エンプラも量産実績があります。
フィラー配合や長繊維強化グレードも成形でき、リサイクル材の利用率も向上しています。

圧縮成形は熱硬化性樹脂(BMC、SMC、フェノール)、ゴム、CFRPプリプレグ、天然繊維強化コンパウンドなどの高充填・高粘度材料に適合します。
ガラス繊維の長さを保持したまま成形できるため、高強度・寸法安定性が求められる構造部材に強みがあります。

金型構造と公差管理

射出成形金型は冷却回路、スライドコア、ホットランナーなど複雑な機構を組み込めます。
高精度加工と金型温調によりミクロンオーダーの公差管理が可能で、ギアや光学部品など精密用途での採用率が高いです。

圧縮成形金型は上下型で構成され、空気抜き溝やプリフォーム位置決めピンを備えます。
樹脂の流動は射出より穏やかなため樹脂応力が小さく、そり変形が抑制されますが、機械加工後の二次仕上げが必要になる場合があります。

コスト構造

射出成形は金型費が高額ですがサイクルが短く自動化が容易なため、量産ロットでの単価低減効果が大きいです。
ランナー・スプルーからのロスが発生するものの、ホットランナー化やリグラインド再利用で歩留まり向上が図れます。

圧縮成形は金型費が比較的低く、少中量生産でコスト優位を示します。
一方、プレス装置の加工圧力や加熱システムにより設備投資が増すケースもあります。
材料歩留まりは高いですが、硬化後のフラッシュ除去・トリミング工程がコスト要因となります。

業界別応用範囲

自動車分野

射出成形はバンパー、インストルメントパネル、コネクタハウジング、EV向けバッテリーケースのインサート成形など多岐に採用されています。
軽量化と部品点数削減を両立できるため、マルチマテリアル化やハイブリッド成形との組み合わせが加速しています。

圧縮成形はSMCドア、CFRPルーフ、EV向け構造部材で用いられ、衝突安全性と軽量性を両立します。
耐熱性に優れるフェノール樹脂圧縮成形品はモーターコアインサートやブレーキピストンに適用実績があります。

電気・電子分野

射出成形は高流動LCPを用いたコネクタ、BGAパッケージ、薄肉筐体など微細部品で主流です。
EMIシールドや難燃対応グレードが豊富で、5G基地局や車載ECU需要が拡大しています。

圧縮成形は半導体封止でのトランスファ成形が代表例です。
エポキシモールドコンパウンドをプランジャで圧縮注入し、繊細なワイヤボンドを保護します。

医療機器分野

射出成形はディスポーザブルシリンジ、カテーテルハブ、PCRプレートへクリーン成形が行われています。
ISOクラス7以上のクリーンルームと全電動成形機による微量ショット制御が普及しています。

圧縮成形はシリコーンゴム製医療用バルブやマスクシーリング部材に採用されます。
インサート材との接着強度が高く、滅菌耐性に優れることが評価されています。

航空宇宙分野

射出成形はPAEK系スーパーエンプラで配管継手やインテリアパネルを軽量化しています。
難燃・低発煙グレードがFAA規制を満たしつつ機械加工品からの置換が進みます。

圧縮成形はCFRPトポロジー最適化部材やサンドイッチパネルを高剛性化する主要プロセスです。
RTMやオートクレーブと比較し、成形サイクルが短くエネルギー効率に優れます。

プロセス選定のガイドライン

1. 年間生産量が10万個を超える大量生産では射出成形を基本選択とします。
2. ガラス長繊維40%以上で構造部品を狙う場合、圧縮成形が優位です。
3. 肉厚差が大きいデザインは射出成形でウェルド、ボイドのリスクが増すため、材料再設計か圧縮成形への置換を検討します。
4. 成形品寸法公差±0.02mm以下を要求する場合、精密射出成形一択ですが、後加工許容なら圧縮成形でも可です。
5. 初期投資を抑えたいスタートアップや試作段階では、3Dプリンティングと組み合わせた簡易型射出またはソフトツーリング圧縮成形で柔軟性を確保します。

環境対応とリサイクル性

射出成形におけるバイオマスPE、化学リサイクルPET、ケミカルフォーミング技術はCO2削減策として注目されています。
一方圧縮成形のSMCやCFRPはマトリックスが熱硬化性のため回収が課題でしたが、リサイクルカーボンファイバー(rCF)と熱可塑性マトリックスのハイブリッドSMCが実用化されつつあります。

最新技術動向

射出成形領域ではAIによる条件設定最適化、可視化センサー付きスマート金型、電磁誘導加熱による高光沢化が進みます。
圧縮成形では可変硬化炉・動的型温制御が実装され、CFRP部品の2分サイクル量産が実現可能となっています。
また、両プロセスのハイブリッドとして、プリプレグ圧縮後に射出オーバーモールディングを行うインモールドハイブリッドが拡大しています。

まとめ

射出成形と圧縮成形は材料適性、サイクルタイム、コスト構造、製品品質において一長一短があります。
熱可塑性樹脂の大量生産なら射出成形、長繊維複合材や熱硬化性樹脂の構造部品なら圧縮成形が代表的な適用領域です。
部品の機能要件、ロットサイズ、投資計画、環境対応目標を総合的に評価し、最適なプロセスを選択することが競争力強化の鍵となります。
今後も装置の電動化、デジタルツイン、リサイクルマテリアル対応などの革新が両技術を進化させ、製造業のサステナブル化を後押しすると期待されます。

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