電熱装置の温度制御技術と窯炉産業での効率化事例

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電熱装置の温度制御が求められる背景

生産現場では品質の均一性とエネルギーコストの削減が常に課題となります。
とりわけ窯炉産業では原料の組成や焼成曲線が微妙に異なるため、温度の数度の差が歩留まりに直結します。
電熱装置はガスや重油燃焼炉と比べて立ち上がりが早く、部分的なゾーン制御が容易という利点があります。
しかしヒーター素子の劣化や外乱熱負荷によって設定温度と実温度が乖離すると、焼成ムラや過熱による欠陥が発生します。
そこで高精度な温度制御技術を導入し、リアルタイムでヒーター出力を最適化することが重要になります。

温度計測センサーの選定と配置

温度制御の精度は計測センサーの性能と配置で決まります。
代表的なセンサーには熱電対、白金測温抵抗体(RTD)、非接触型赤外線センサーがあります。
窯炉内部は高温域での温度分布が不均一なため、複数の測温点を設定しゾーンごとに制御ループを持たせます。
熱電対はコストが低く応答性も高いですが、長期使用でドリフトするため定期較正が必須です。
RTDは高精度ですが高温域では寿命が短くなる傾向があるため、800℃を超える場合は熱電対と併用するケースが多いです。

センサー配置のポイント

炉壁近傍は放射と対流の影響で温度変動が大きいため、製品が置かれる中央付近にもセンサーを設置します。
また大型トンネル窯では入口と出口で温度が段階的に変わるため、長手方向に一定間隔でセンサーを配列し、搬送速度と連動させる方式が効果的です。

PID制御の最適化と高度化

現在もっとも汎用的に用いられるのはPID制御です。
比例(P)、積分(I)、微分(D)の各パラメータをチューニングすることで、目標値への追従性と定常偏差を最小化します。
窯炉は熱容量が大きく、外乱応答が遅れるため、D動作を強くしすぎるとオーバーシュートが発生しやすくなります。
近年は自己学習型PIDやモデル予測制御(MPC)を組み合わせて、材料や炉の状態に応じてパラメータを自動更新する仕組みが広がっています。

ソフトスタートとランプ制御

急激な昇温はヒーターの寿命を縮めるだけでなく、被焼成物に熱応力を与えます。
ランプ制御機能を使い、あらかじめ設定した時間で段階的に温度を上げると、ヒーターのピーク電流を抑えられ電力契約のデマンド料金も低減できます。

電力制御デバイスの選択

電熱装置ではサイリスタ(SCR)制御、位相制御、ゼロクロスSSR(ソリッドステートリレー)が主流です。
サイリスタは連続的に電力を可変できるため微細な温度制御が可能ですが、力率低下と高調波の発生に注意が必要です。
ゼロクロスSSRはオンオフ制御のみですがノイズが少なく、単純な加熱ゾーンであれば最適です。
最近はIGBTを用いたパルス幅変調(PWM)インバータでヒーターを駆動する方式も登場し、より高効率なエネルギー利用が可能になっています。

高調波対策と省エネ

サイリスタ位相制御は高調波電流が電源設備に悪影響を及ぼす場合があります。
無効電力補償コンデンサや高調波フィルタを併設し、総合力率を改善するとともに設備容量の最適化を図ります。
これにより契約電力の見直しができ、実質的な省エネとコスト削減につながります。

窯炉産業における効率化事例

ここからは実際に電熱装置の温度制御技術を導入し、成果を上げたケースを紹介します。

セラミック焼成ラインでの歩留まり改善

ある電子部品メーカーではファインセラミック基板を1,400℃で焼成していました。
従来はガス炉を使用していましたが温度分布がばらつき、焼成後に曲がりや反りが頻発していました。
電熱式トンネル窯へ更新し、各ゾーンに3点ずつ熱電対を配備しMPC制御を導入した結果、温度差±2℃を達成しました。
歩留まりは92%から98%へ向上し、不良削減による年間コスト削減額は1,200万円になりました。

ガラス溶解炉のエネルギー消費20%削減

ガラス瓶メーカーでは溶解槽を1,550℃で運転しており、燃焼炉と比べ電気炉は一般的に効率が高いものの、夜間電力を最大限活用する必要がありました。
そこで負荷予測アルゴリズムを使って昼夜の温度セットポイントを自動で最適化し、昼間はわずかに温度を下げる一方、夜間にピークを持ってくる運転に変更しました。
さらに位相制御からPWMインバータ駆動に切り替え、力率を0.95まで改善しました。
結果として年間エネルギーコストを20%削減し、CO₂排出も1,000トン削減しました。

粉末冶金炉での連続モニタリング

粉末冶金のサインタリング炉では酸化を防ぐため不活性ガスを充填します。
温度むらは品位低下を招くため、光ファイバー温度センサーによる面計測を導入しました。
データはクラウドに蓄積しAIで異常検出を行い、温度プロファイルが予測範囲を外れると自動的に出力を制限します。
予防保全により炉停止回数を年6回から1回に減らし、生産ロスを大幅に抑制しました。

遠隔監視とデジタルツインの活用

IoTプラットフォームと接続することで、炉内温度、ヒーター電流、消費電力量をリアルタイムで可視化できます。
デジタルツインを構築し、炉の熱伝導モデルと電気特性モデルを組み合わせると、将来の負荷変動をシミュレーション可能です。
メンテナンス時期の予測や生産計画との連動が進み、計画外停止による損失を最小化できます。

導入時の注意点とROI試算

電熱装置化には初期投資が大きく、電源設備の増設や配線工事も必要です。
しかしエネルギー効率向上と品質改善による利益で3〜5年程度で投資回収できるケースが多いです。
ROIを試算する際はエネルギー単価、歩留まり改善率、メンテナンス費用削減額を細かく算入します。
特にCO₂排出量削減は将来的な炭素税への備えとしても重要な評価指標になります。

今後の技術展望

SiCやGaNデバイスを用いた高周波インバータの普及で、さらなる電力制御の高効率化が進むと見込まれます。
またヒーター素子も従来のニクロム線からカーボン系、セラミック系へ移行し、高温域と長寿命を両立させています。
AIによる自律制御は製品のレシピ変更に即応し、少量多品種生産でも最適な温度プロファイルを自動生成できるようになります。

まとめ

電熱装置の温度制御技術はセンサー選定、PID・MPC制御、電力デバイス、デジタルツインと多岐にわたります。
窯炉産業での効率化事例が示すように、適切な導入により歩留まり向上とエネルギーコスト削減を同時に達成できます。
今後は半導体電力素子とAIの進化が加わり、さらに高精度で持続可能な製造プロセスが実現するでしょう。

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