紙の厚みと強度の関係―最適な製造パラメータの設定

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紙の厚みが強度に与える基本的な影響

紙の厚みは重量や質感だけでなく、引張強度、耐破裂強度、耐折強度といった機械特性に直接影響を及ぼします。
一般に、厚みが増すと紙は剛性を獲得し、折り曲げや圧縮に対して強くなります。
一方で、厚みを闇雲に高めると資材コストや乾燥コストが増大し、印刷適性が低下する場合もあります。
そのため、最適な強度を得るには厚みと他の製造パラメータをバランスさせることが不可欠です。

密度と厚みの相互作用

同じ厚みでも、密度が高い紙は繊維が緊密に絡み合っているため、引張強度が高くなります。
逆に密度が低い場合、軽量化や断熱性には優れるものの、破裂強度が低下するリスクがあります。
厚みだけを指標にすると最適化を誤るため、坪量(g/㎡)やバルク(cm³/g)と合わせて評価することが重要です。

曲げ強度と引張強度の違い

曲げ強度は厚みの3乗に比例するため、薄紙を折り曲げ用途に用いると大幅な強度不足を招きます。
引張強度は厚みに加え繊維配向にも影響されるため、ラベル紙など長手方向の引張負荷が大きい用途では、単純な厚み増加より繊維配向の制御が有効です。

強度を左右するその他の要素

紙の最終強度は厚みだけで決定されるわけではありません。
以下の要素が複合的に作用します。

繊維配向

抄紙ネットの走行方向に平行な繊維が多いほど、機械方向(MD)の引張強度が高まります。
一方でクロス方向(CD)の強度が不足し、包装紙のように多方向から力が加わる用途ではバランスが崩れます。
撹拌条件やジェット-ワイヤ角度を調整して配向を最適化することで、厚みを増やさずとも強度を底上げできます。

添加剤と充填剤

湿潤紙力増強剤(PAE樹脂など)は水素結合を補強し、薄紙でも高い湿潤強度を実現します。
炭酸カルシウムやクレーは不透明度を向上させますが、過剰に添加すると繊維間結合を阻害し、破裂強度が低下するため注意が必要です。

含水率

紙は吸湿性が高く、含水率が上がると繊維同士の摩擦が減少し強度が低下します。
製造後の保管環境や流通条件を想定し、含水率6〜8%を維持するカレンダー調整が推奨されます。

製造工程別に見る厚み制御のポイント

厚みは抄紙から乾燥までの各工程で変化します。
工程ごとの要点を押さえれば、狙い通りの厚みと強度を両立できます。

抄紙工程でのスラリー濃度

スラリー濃度が高すぎると繊維の均一分散が阻害され、厚みムラが発生します。
0.3〜0.6%の濃度を目安にし、ワイヤ挙動を安定させることで均一な紙層を形成できます。

プレス工程での圧力管理

プレス圧を高めると水分除去が進み密度が上昇しますが、その分厚みが縮みます。
目標厚みに対して−2〜−5%程度の余裕を持たせ、プレドライ後のリバウンドを計算に入れると品質が安定します。

乾燥工程での温度プロファイル

急激な高温乾燥は表面だけが先に乾き、内部水分との温度差でシートが反りやすくなります。
段階的に温度を上げることで紙内部の水分を均一に除去し、厚みと強度を維持できます。

最適な製造パラメータを設定する手順

厚みと強度を同時に満たすためには、体系的なアプローチが求められます。

目的と使用環境の明確化

パッケージ用途なら耐破裂と耐折が重視され、印刷用途なら表面平滑性も重要です。
最終製品の使用環境(湿度、温度、荷重)を具体的に定義し、必要な強度指標を定めます。

実験計画法によるパラメータ探索

スラリー濃度、プレス圧、乾燥温度を因子とし、ラテン方格法などで実験を行うと、少ない試行で最適条件を特定できます。
得られたデータを回帰分析し、厚みと各強度値の関係式を構築することで、目標スペックに合わせたパラメータを数値的に算出できます。

オンラインモニタリングとフィードバック制御

ベータ線厚み計やレーザー測定器を用いてリアルタイムに厚みを監視し、プレス圧やスチームスプレーを自動調整するシステムが有効です。
AIアルゴリズムを導入すると、過去データを学習して変動要因を予測し、先手の制御が可能になります。

ケーススタディ:包装用クラフト紙の厚みと強度最適化

実際の製紙工場で行った事例を紹介します。

パラメータ設定例

目標スペックは坪量70g/㎡、厚み110µm、破裂強度350kPa以上と設定しました。
DOEにより導出した最適条件は、スラリー濃度0.45%、プレス線圧100kN/m、乾燥出口湿分5%でした。
加えて、湿潤紙力増強剤を1.2%添加し、繊維配向比をMD:CD=1.8に調整しました。

成果と得られた知見

厚みばらつきは±2µm以内に収まり、破裂強度は平均370kPaを達成しました。
坪量を据え置いたまま強度目標を超えたため、原料コストを3%削減できました。
繊維配向の微調整が厚み以上に強度へ寄与し、最終的な品質安定に大きく貢献したことが判明しました。

今後の課題と技術動向

デジタル化と新素材の登場により、厚みと強度の最適化手法は進化を続けています。

ナノセルロースの応用

数%のCNF(セルロースナノファイバー)を混抄するだけで、引張強度を20〜30%向上させる報告があります。
厚みを据え置いたまま高強度化できるため、軽量化と高性能を両立する次世代紙として注目されています。

AIによるリアルタイム最適化

製造ラインに設置したIoTセンサーのデータをAIが解析し、厚みや水分の変動を秒単位で予測する取り組みが進んでいます。
AIが示す最適プレス圧やスチーム量を即座に反映することで、人間の経験に頼らない品質保証が実現可能になります。

まとめ

紙の厚みと強度は密接に結びついていますが、厚みだけを操作しても期待通りの強度は得られません。
密度、繊維配向、添加剤、含水率など多面的な要素を考慮し、工程ごとに適切な制御を行う必要があります。
実験計画法とオンラインモニタリングを組み合わせれば、短期間で最適な製造パラメータを確立できます。
今後はナノセルロースやAI制御の活用により、より薄く、より強い紙の製造が現実的になります。
厚みと強度のバランス最適化は、資源効率と品質向上の両立を図る製紙業界の重要テーマであり、継続的な技術革新が求められます。

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