トイレットペーパー市場の動向と消費者ニーズの変化

市場規模の推移と成長要因

トイレットペーパー市場は、日用品の中でも景気変動の影響を受けにくい安定市場といわれます。
2020年の新型コロナウイルス流行に伴う買いだめ騒動を機に、市場規模は一時的に急拡大しましたが、その後は需要の平準化が進み、2023年時点で国内市場規模は約4,500億円前後で推移しています。

成長要因としては、人口減少による総需要の目減りを吸収するかたちで、以下のトレンドが追い風になっています。
・高付加価値商品の拡大（保湿タイプ、香り付き、エンボス加工など）
・環境配慮型商品のニーズ増加（FSC認証や再生紙利用）
・ECチャネルの普及と定期購入サービスの浸透
・訪日外国人の増加によるホテル・商業施設向け業務用需要

国内市場の細分化

メーカー各社は大ロール長、シングル／ダブル、紙質の違いなどでラインアップを広げ、価格競争から価値訴求へ移行しています。
特にシングルタイプはかつて低価格帯が中心でしたが、現在は肌触りの良さを前面に出した高価格帯のシェアが拡大しています。

海外市場との比較

欧米ではダブルやトリプルといった多層紙が主流で、1ロールの長さよりも「厚み」と「柔らかさ」を重視する傾向が強いです。
一方、日本では狭い住宅事情と収納性を重視する生活者が多いため、1ロール当たりの長さが長いシングル紙が根強く支持されています。
この文化差を背景に、日本メーカーは海外進出時に紙幅や芯径を現地仕様に合わせるなど、柔軟な製品設計を行っています。

消費者ニーズの変化

環境意識の高まり

SDGsの浸透により、再生紙やバイオマスインキを採用した商品への関心が急上昇しています。
FSC認証マークの有無を購入基準とする生活者が増え、2023年の量販店POSデータでは、エコ関連訴求商品の売り上げが前年比112％となりました。
特に30～40代の子育て世帯は「子どもの未来のために環境負荷を減らしたい」という意識が強く、SNS上での口コミ効果も大きく寄与しています。

肌触り重視とスキンケア発想

長時間在宅ワークの浸透や美容意識の向上により、トイレットペーパーを「スキンケアの一環」ととらえる層が増えています。
アロエエキス配合や保湿加工を施した商品は、従来比1.5～2倍の価格帯にもかかわらず販売数量を伸ばしています。
皮膚科医監修や弱酸性など医科学的エビデンスを示すパッケージデザインが購買を後押ししています。

価格とコストパフォーマンス

物価上昇が続くなか、消費者は「単価は高くても長持ちするか」「芯なしでゴミが減るか」といったコストパフォーマンスを重視しています。
特大ロールやコンパクト包装が支持され、1ロール当たりの使用可能メートル数を明記するメーカーが増えました。
また、まとめ買い＋EC限定クーポンで割安感を演出する販売手法も定着しています。

ストック・防災意識

コロナ禍や自然災害を経験したことで、トイレットペーパーを「非常時の必需品」と捉える傾向が強まりました。
平時から3～4パックを備蓄し、ローリングストックを実践する家庭が増加しています。
この需要を狙い、圧縮包装や長期保管に耐える防災用パッケージが登場し、自治体や企業の備蓄品として採用が進んでいます。

販売チャネルの変革

ECとサブスクリプション

重くかさばるトイレットペーパーはネット通販との相性が良く、2022年には市場全体の約18％がオンライン経由となりました。
定期配送サービスは「ストック切れの不安解消」と「価格の平準化」が評価され、解約率は日用品サブスク平均より低水準です。
メーカー直販モデルでは、アプリで残量を入力すると配送間隔を自動調整するIoT連携も始まっています。

ドラッグストアとプライベートブランド

ドラッグストアは来店頻度の高さを生かし、プライベートブランド（PB）で値頃感を打ち出しています。
大手チェーンではPB比率が35％を超え、販売データをもとに地域別に紙質や香りを変える“マイクロ PB”の実証実験も行われています。

自動販売機と業務用市場

駅や高速道路のサービスエリアに設置される日用品自販機に、ロール型トイレットペーパーが投入され始めています。
旅行中や急な出張時など、緊急ニーズに対応する販売チャネルとして拡大余地があります。
業務用では、省メンテナンスを目的に「超ロングロール＋オートセンサー式ディスペンサー」がホテルや商業施設で普及しています。

技術革新とサステナビリティ

素材開発の最前線

竹やサトウキビのバガス繊維など非木材パルプの活用が進み、石油系ポリ袋を使わない紙包装への切り替えも加速しています。
加えて、溶解パルプとナノセルロースを組み合わせることで、従来と同等の柔らかさを保ちながら強度を高める技術が確立されつつあります。

製造工程の脱炭素化

トイレットペーパー生産は大量の水とエネルギーを消費するため、CO₂排出削減は重要課題です。
最新工場では、バイオマスボイラーや再生可能エネルギー電力を導入し、2025年までにScope1+2排出量を30％削減する目標が掲げられています。
省水システムとしては、排水リサイクル率を80％以上に高め、製造原単位当たりの水使用量を大幅に低減する取り組みが進行中です。

今後の市場展望と企業戦略

人口減少社会への適応

国内総人口の減少は避けられず、総需要の頭打ちが見込まれます。
メーカーは国内での高付加価値化と同時に、ASEANや北米への輸出・現地生産を強化し、外需で成長を図る戦略をとっています。

ユーザー体験の向上

IoTトイレの普及に伴い、在庫検知センサーとクラウドデータを連携させた「スマート補充サービス」が注目されています。
トイレ空間の香りやBGMと連動し、紙質や香りをカスタマイズするパーソナライズ提案も今後の差別化ポイントになります。

循環型ビジネスモデル

使用済み紙芯を回収し、再生紙原料として循環利用するリサイクルスキームが自治体との協力で進んでいます。
メーカーはリサイクル率の高さを訴求し、環境貢献度を可視化することで、企業向けBtoB需要の獲得を目指しています。

まとめ

トイレットペーパー市場は「生活必需品」という安定基盤を持ちながらも、環境配慮や高付加価値化、ECシフトなどの外部要因で大きく変貌しています。
今後は人口減少による需要縮小リスクを、新技術と海外展開で補いつつ、循環型社会に対応した商品・サービスをいかにスピーディーに提供できるかが、企業の競争力を左右するといえるでしょう。