熱可塑性樹脂含浸によるホワイトアッシュ材の超耐水性化

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熱可塑性樹脂含浸とは何か

熱可塑性樹脂含浸とは、加熱により軟化する樹脂を木材内部まで浸透させ、冷却固化によって内部組織を強化する改質技術です。
従来の熱硬化性樹脂含浸に比べ、再加熱で再溶融が可能でリサイクル性が高い、可塑化加工ができるなどの利点があります。
近年、スポーツ用具や造作材に多用されるホワイトアッシュに適用することで、超耐水性を付与する研究が急速に進んでいます。

ホワイトアッシュ材が抱える耐水性の課題

ホワイトアッシュは北米原産の広葉樹で、比重が高く弾性率に優れ、野球バットや家具材に利用されます。
しかし辺材部の吸水性が高いため、屋外や高湿度環境では寸法変動やかび、腐朽のリスクが避けられません。
含水率の急激な変動は反り・割れを誘発し、製品品質を著しく低下させる要因となります。

従来の防水処理との比較

表面塗布型のウレタン塗装やオイルフィニッシュでは、傷がつくと浸水経路が生じ内部に水が侵入します。
また熱硬化性樹脂含浸は寸法安定性に優れますが、硬く脆くなり加工性が大幅に損なわれます。
熱可塑性樹脂含浸は、内部まで一体化した撥水層を形成しつつ、木質感と加工性を保つ点で次世代の改質方法として注目されています。

超耐水性をもたらすメカニズム

熱可塑性樹脂は加熱により低粘度となり、真空加圧下で木材細胞壁間や導管にまで浸透します。
冷却固化後は連続相として存在し、水分子の移動経路を物理的に遮断するため吸水率が劇的に低下します。
細胞壁内に樹脂が定着することで膨潤・収縮を抑制し、結果として反り・割れ・ねじれのリスクが減少します。

代表的な樹脂の種類

・ポリエチレン(PE):軽量で耐薬品性に優れるが、低極性ゆえ接着性が課題。
・ポリプロピレン(PP):耐熱性が高くコストが低い。プラズマ処理で親和性を改善できる。
・ポリカーボネート(PC):高い衝撃強度と透明性を付与でき、意匠性が要求される製品向け。
・バイオベースポリエステル:植物由来でカーボンニュートラル評価が高く、サステナブル建築分野で採用が進む。

処理プロセスの流れ

1. 乾燥前処理

含浸効率を高めるため、含水率8%以下まで過乾燥します。
加熱乾燥では樹脂の熱履歴と重ならないよう80~100℃を上限とします。

2. 真空加圧含浸

真空槽で‐0.09MPa程度まで減圧し、細胞内空気を抜きます。
その後樹脂溶液を注入し、0.6~0.8MPaで30~60分加圧するのが一般的です。

3. 過剰樹脂の除去

遠心脱液またはロールプレスで表面過剰分を除去し、重量増加率を指定範囲(30~80%)に調整します。

4. 加熱硬化・冷却

樹脂ごとの融点+20℃程度で30分以上保持し、冷却段階で樹脂を固化させます。
このとき内部応力を残さないよう緩冷が推奨されます。

性能評価:数値で見る超耐水性

吸水率の低減

未処理ホワイトアッシュを24時間浸漬した場合の吸水率は約28%ですが、熱可塑性樹脂含浸材では5%以下に抑えられます。
JIS A 1325の耐水浸せき試験では、3サイクル後の質量増加率が1%未満との報告例もあります。

寸法安定性

幅方向の膨潤率は未処理材で4.5%、含浸材では0.6%程度まで低減します。
これにより長期使用時のドアの開閉不良や床材の突き上げを未然に防ぐことができます。

機械的強度

静的曲げ強度(MOR)は10~15%向上し、特に衝撃吸収が要求されるスポーツ用品で高い効果が確認されています。
一方、過含浸による内部脆化を避けるため、樹脂剤量の最適設計が重要です。

用途拡大が期待される分野

屋外デッキ・外装材

紫外線安定剤入り樹脂を用いることで退色を抑制し、天然木ならではの温もりを保ったまま長寿命化が可能です。

浴室・サウナ用内装

高湿度環境下でも寸法変動が少ないため、カビや腐朽菌の発生リスクを軽減します。
ヒノキ材に比べ芳香性は劣るものの、堅さと重厚感を求める高級スパで採用が進んでいます。

船舶・マリンレジャー用品

軽量かつ高い耐衝撃性を活かし、カヌーのパドルやヨットの内装家具にも応用可能です。

高耐久スポーツ用具

野球バットやラケットフレームで、吸湿による性能低下を最小化できる点がプロ選手に評価されています。

コストと環境負荷のバランス

熱可塑性樹脂含浸は装置投資とエネルギーコストがネックとなります。
しかし長寿命化によるライフサイクルコスト低減、樹脂リサイクルによる廃棄量削減効果を加味すると、総合的な経済性は高いと試算されます。
さらにバイオベース樹脂の活用や再含浸プロセスを取り入れることで、カーボンフットプリントを約30%削減できるとの研究結果も報告されています。

導入時のチェックポイント

樹脂選定の最適化

耐水性、耐候性、透明度、価格を総合比較し、用途に応じた樹脂配合を設計します。
難燃性付与が必要な場合はハロゲンフリー難燃剤の併用が推奨されます。

含浸率と物性のトレードオフ

高含浸率は耐水性能を高めますが、重量増加と加工性低下を招きます。
最終製品の使用環境に合わせて、重量増加率40%前後を目安に試験製作するのが一般的です。

後加工・接合方法

表面が樹脂でシールされるため、接着剤の選定が変わります。
エポキシ系やポリウレタン系の高機能接着剤を用いれば、ラミネートやフィンガージョイントも問題なく行えます。

将来展望と研究課題

超耐水性だけでなく、抗菌・消臭機能を付与する多機能化が次のテーマとなっています。
ナノセルロースを併用したハイブリッド含浸で、軽量化と高強度化を同時に実現する試みも報告されています。
さらに樹脂の生分解性を高めつつ長期耐久性を担保する、相反する要求を満たす材料設計が求められます。

まとめ

熱可塑性樹脂含浸によるホワイトアッシュ材の超耐水性化は、吸水率の劇的低減、寸法安定性の向上、加工自由度の維持という三拍子を実現する次世代木材改質技術です。
屋外建築、浴室、マリン用品など高湿度環境で天然木の質感を活かしたい分野において、大きな市場ポテンシャルを秘めています。
コストと環境負荷の課題はあるものの、リサイクル性や長寿命化による経済メリットがそれを上回るケースが増えています。
持続可能な建築材料の需要が高まる今、熱可塑性樹脂含浸ホワイトアッシュは、木材利用の可能性を拡張する有力なソリューションとして注目されるでしょう。

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