食品の超音波吸収測定を用いた乳化安定性評価技術

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超音波吸収測定とは

超音波吸収測定は、数MHzから数百MHzの周波数帯を試料に透過させ、音波エネルギーの減衰量から物性を解析する手法です。
乳化系では、油滴や気泡が音波に散乱・吸収を与えるため、吸収係数は粒子径、濃度、粘度、界面特性に敏感に変化します。
この特性を利用することで、非破壊で乳化安定性を定量評価できます。
音速も同時測定すれば、密度や圧縮率を推定でき、より多角的な品質管理が可能になります。

測定原理

超音波パルスが試料中を進行すると、媒質内部で粘性損失、熱伝導損失、散乱損失が発生します。
吸収係数αは、入射強度I0と透過強度Iの関係I=I0exp(-αx)で定義され、距離xに対して指数関数的に減衰します。
乳化液では油滴の弾性率差に起因する散乱が支配的であり、粒子径が音波波長の1/10付近でピークを示します。
この周波数依存性を解析することで、平均粒子径や分布幅を推定できます。

吸収係数と乳化系の関係

安定な乳化では、粒子が小さく均一で再凝集が抑えられているため、高周波域で滑らかな吸収スペクトルが得られます。
不安定化が進むと粒子径が成長し、ピーク位置が低周波側へ移動し吸収値も増大します。
また、クレーミングや沈降が起こると試料全体の密度勾配が生じ、低周波域での音速分散として検出されます。

乳化安定性評価に超音波を用いるメリット

従来の遠心分離試験や静置観察は時間がかかり、人為的撹拌が必要で試料を破壊します。
超音波吸収測定なら無攪拌で短時間に結果が得られ、連続生産ラインへも適用できます。

非破壊・リアルタイムモニタリング

測定時間は1スペクトルあたり数秒であり、充填前のタンク内でリアルタイム安定性を監視できます。
温度制御を行えば、冷蔵輸送や加熱調理を模擬したストレス試験も瞬時にシミュレートできます。

粒子径分布との相関性

吸収スペクトルから得られた粒子径はレーザー回折法でのD50と高い相関を示します。
高濃度系でも多重散乱の影響が小さく、希釈が不要な点が現場で重宝されます。

測定手順と装置構成

一般的な装置は発信器、受信器、温度制御セル、解析ソフトで構成されます。
共振器型と透過型があり、食品乳化では清掃性に優れる透過型が主流です。

サンプル調製

測定前に気泡を脱気すると散乱の過大評価を防げます。
試料量は数ミリリットルで十分であり、連続ラインではサイドストリームを用いて循環測定できます。

超音波プローブとセル設計

プローブ材質にはSUS316LやPEEKが用いられ、CIP洗浄に対応します。
窓材には石英やサファイアを採用し、高周波でも透過損失を抑制します。
セルギャップは1cm程度に設定し、乱流による分離を防ぎます。

データ解析フロー

まず時系列波形からフーリエ変換で周波数スペクトルを取得します。
対数を取り線形回帰で吸収係数を算出し、周波数対吸収図を作成します。
理論散乱モデル(ECAHモデル等)にフィッティングすると粒子径と体積分率が得られます。
最後に経時変化をプロットして安定性指数を計算します。

食品分野での応用例

低脂肪ドレッシングの品質管理

油滴が小さい低脂肪ドレッシングでは、粘度不足による凝集が問題になります。
充填直後の吸収ピークを基準として保管中のシフト量を追跡すると、7日以内の品質劣化を予測できます。
pH調整やキサンタンガム添加量の最適化にも利用されています。

植物性クリームの泡立ち予測

ホイップクリームは泡立ち性と保形性のバランスが重要です。
超音波吸収で油滴と空気の複合粒子径を測定し、30kHz付近の吸収増加が大きいサンプルは泡の崩壊も早いことが分かっています。
製造ラインでの脂肪固形化度の指標として採用する企業が増えています。

乳タンパク飲料の長期安定性

高温殺菌後の乳タンパクは時間とともに凝集し沈降します。
吸収測定を60℃で加速試験すると、静置3か月分の劣化を1時間で推定できます。
食品ロス削減の観点で賞味期限設定の合理化に寄与しています。

結果解釈のポイント

吸収スペクトルのピーク解析

ピーク高さは粒子濃度、ピーク位置は粒子径に主に依存します。
複数ピークが現れる場合は二峰性乳化を示し、安定化剤の再設計が必要です。

温度・粘度補正の重要性

水相の粘度が上がると粘性損失が増え、吸収係数全体が上昇します。
測定時は温度を±0.1℃で制御し、粘度計データを合わせ込み補正係数を適用すると再現性が高まります。

他手法との比較

静置分離法との違い

静置分離法は肉眼でフェーズ分離を確認するため簡便ですが、微小変化を捉えられません。
超音波は初期段階のオストワルドリッピングを可視化でき、開発期間を短縮します。

レーザー回折法との補完性

レーザー回折は希釈が必要で、界面活性剤の脱着により粒子径が変化する恐れがあります。
両手法を併用すると希釈前後の挙動差を評価でき、処方のロバスト性を確認できます。

技術導入の課題と解決策

高濃度サンプルへの対応

濃度が高すぎると多重散乱で信号が飽和します。
低周波プローブに切り替え、セル厚を短くすることで線形領域を確保できます。
また希釈曲線を事前に作成し補量換算する方法も有効です。

自動化とインライン化

PLCと通信する専用モジュールを組み込めば、ライン速度に同期した自動測定が可能です。
洗浄ステップはバルブ切替による洗浄液循環で無人運転を実現できます。

今後の展望

AI解析との融合

ディープラーニングを用いて吸収スペクトルから直接安定性スコアを出力する試みが進んでいます。
大規模データを学習させれば、装置差や処方差を超えた普遍的モデルが構築できます。

サステナブル原料開発への貢献

動物性脂肪から植物性油脂への切替では、界面膜の脆弱化が課題です。
超音波測定を指標に界面活性剤やタンパクの選択を最適化することで、パーム油使用量削減と食感維持を両立できます。

まとめ

超音波吸収測定は、乳化粒子の散乱特性を利用して非破壊で安定性を評価できる強力なツールです。
リアルタイム監視が可能で、粒子径分布や粘度を同時に推定できるため、開発から生産まで幅広く活躍します。
他手法と組み合わせて課題を補完すれば、より高精度の品質保証が実現します。
AI解析やサステナブル原料への応用も期待され、今後の食品科学を支える重要技術となるでしょう。

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