ヨーグルトドリンクの分離を防ぐための安定化剤の活用

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ヨーグルトドリンクで分離が起こる理由

ヨーグルトドリンクは乳タンパク質と水分、脂肪、糖質、フレーバー成分など複数の相で構成されています。
発酵により酸性に傾いた系では、タンパク質同士が結合しやすく、時間経過や振動、温度変化に伴って凝集・沈殿を引き起こします。
結果として上層に水様相、下層に固形分が沈む“ホエイ分離”が発生します。
見た目の劣化だけでなく、飲み口の変化や風味の低下を招くため、市場競争の激しいRTD(Ready To Drink)製品では致命的な品質問題となります。

安定化剤とは何か

安定化剤は、系内の成分を均一に分散・保持し、製品寿命中の分離や沈殿を抑制する食品添加物の総称です。
ヨーグルトドリンクにおいては、乳タンパク質の網目構造を補強したり、粘度を付与して粒子運動を制限したりする役割を担います。
同時に、口当たりやコーティング性の改善、香味成分の保持など副次的なメリットも得られます。

代表的な安定化剤の種類と特徴

ペクチン

果実由来で消費者受容性が高く、酸性領域で優れた安定化能を示します。
乳タンパク質と弱く結合し、疎水性領域にネットワークを形成することでホエイ分離を抑制します。
低メトキシ型はカルシウムイオンと架橋しゲル化するため、粘度調整と二次安定化が可能です。

CMC(カルボキシメチルセルロース)

中性域から酸性域まで広範に使用され、比較的低濃度で粘度を付与できます。
耐熱性が高く、UHT滅菌プロセスでも粘度低下が少ない点が利点です。
ただし金属イオン感受性があり、硬水使用時には分子鎖のスクランブルが起こりやすいため要注意です。

グァーガム・タラガム

水和速度が速く、高い粘度を形成します。
タンパク質との相互作用は弱いものの、全体のレオロジーを高めることで沈降速度を抑えます。
シロップ系フレーバーや果肉を含む場合にも相乗効果が見込めます。

加工デンプン

酢酸架橋やリン酸架橋により耐熱・耐酸性が向上したタイプが市販されています。
粉末流動性が良く、瞬時溶解性を付与できるため乾粉ブレンドに適します。
口当たりにクリーミーさを与える半面、過度に添加すると重たさを感じるのでバランスが重要です。

配合設計のポイント

安定化剤の最適濃度はpH、可溶性固形分、タンパク質量、脂肪分、充填温度など多因子に依存します。
ラボスクリーニングでは0.1%刻みでレンジ試験を行い、目視分離・遠心分離・レオロジー測定を併用すると迅速に絞り込めます。
複数の安定化剤を組み合わせる“ハイブリッド設計”は、粘度過多を抑えながら安定性を向上させる王道アプローチです。
例として、ペクチン0.3%+CMC0.05%の組み合わせは国際的に確立した処方で、低粘度かつクリアな飲み心地を実現します。

天然由来・クリーンラベルへの対応

添加物に対する消費者の関心が高まる中、天然由来素材やクリーンラベルへの転換が進んでいます。
シードガム(バジルシード、チアシード)は膨潤に伴いゲル層を形成し、視覚的訴求と安定化機能を同時に満たします。
難消化性デキストリンは水溶性食物繊維として機能性表示との相性が良く、軽い増粘作用を持つため副次的に分離抑制が期待できます。
ただし天然素材はロット差が大きい場合があり、製造スケールアップ前に原料規格と品質保証体制を必ず確認します。

法規制と表示の留意点

日本では食品添加物公定書において安定化剤の使用基準が定められています。
例えばCMCは「限定および最大量規定」がなく、適量使用が認められますが、ペクチンは“既存添加物名簿収載品”として表示が必要です。
一括表示では「安定剤(ペクチン)」のようにカッコ内に物質名を記載します。
海外輸出を行う場合は、EUのE番号、FDAのGRASリスト、中国のGB規格など、仕向け地ごとの基準を必ず参照します。

製造プロセスへの組み込み方法

乾粉プレミックス方式

糖類や脱脂粉乳、フレーバー粉末と一括ブレンドし、高剪断ミキサーで予備分散させます。
粉塵飛散が抑えられ、ダマ形成を低減できるため大型プラントで採用される手法です。

液状スラリー方式

安定化剤を温水に溶解し、シロップタンクでプレゲル化させてから発酵ヨーグルトとブレンドします。
粉溶解の問題を回避できるほか、粘度開発を工程内で段階的にコントロールできるメリットがあります。

UHT滅菌との相性

ヨーグルトドリンクは後殺菌型が主流で、120〜140℃の短時間処理が行われます。
熱に弱いガム類は粘度低下やゲル破壊を受けやすいため、耐熱型ペクチンや架橋デンプンなどの選択が望ましいです。
また、シェアリング(剪断)を与えすぎると分子鎖が切断され、目的の粘度が得られないケースがあるため、ホールドチューブ長とポンプ圧力を最適化します。

分離トラブルシューティング

・充填後24時間以内に分離が出る場合
 →pH再確認。目標pHが4.2より高いとタンパク質帯電が弱まり凝集しやすい。酸度調整を優先。
・輸送時に発生する分離・粘度低下
 →温度履歴のログを確認し、コールドチェーン維持を徹底。ガム濃度を増やすのではなく温度対策が先決。
・クリーミーさ重視で粘度を上げた結果、飲み口が重くなった
 →複数ガムのハイブリッド比率を見直し、せん断希釈性の高いペクチン主体に切り替える。

品質評価指標

官能評価だけでなく、粒子径分布(レーザー回折法)、ゼータ電位、動的粘弾性測定を組み合わせることで、理論的裏付けを持った処方開発が可能です。
加速試験では40℃7日間での分離高測定や遠心2000G×30分を行い、実使用期間中の安定性を予測します。

まとめ

ヨーグルトドリンクの分離防止は、乳タンパク質の挙動を理解し、適切な安定化剤を選定・配合することがカギとなります。
ペクチンやCMCを中心に、ガム類や加工デンプンを組み合わせることで、低粘度でも高い安定性を実現できます。
天然由来素材やクリーンラベル対応を視野に入れつつ、法規制・表示ルールを遵守することがブランド信頼性につながります。
製造プロセスではプレミックス方式や液状スラリー方式を使い分け、UHT滅菌条件との相性を検証することが欠かせません。
科学的な品質評価と継続的なトラブルシューティングを通じて、消費者に選ばれる高品質なヨーグルトドリンクを提供しましょう。

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