紙の吸水性制御技術と用途別の最適化方法

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紙の吸水性を決定する要因

紙がどれだけ水を吸収するかは、繊維構造、薬品処理、製造条件といった複合的な要素で決まります。
ここでは主要な因子を整理します。

繊維構造と空隙率

紙はパルプ繊維が絡み合って形成される多孔質材料です。
微細孔の体積が大きいほど水が内部に入りやすく、吸水性が高まります。
製造工程で抄紙網上の脱水速度を速めると繊維が密に配列し、空隙率が低下して疎水化に寄与します。

パルプ種と繊維長

針葉樹パルプは長繊維で内部空間が大きく、水の通り道を確保しやすいため吸水性を高めます。
一方、広葉樹パルプは短繊維で紙を緻密にしやすく、インク受理など局所的な吸液を狙う用途では有利です。
リサイクル繊維は膨潤性が低下しているため、同じ坪量でも吸水速度が落ちる傾向があります。

表面化学性とサイズ剤

セルロースは親水基を多く持つため、何も処理しないと水を急速に吸収します。
吸水性を抑える場合は、ロジンサイズやアルキルケテンダイマー(AKD)などのサイズ剤を内添・表面サイズで導入し、繊維表面を疎水化します。
逆に吸水性を増大させたい場合は、界面活性剤で表面張力を下げる、またはカチオン化で水の拡散性を高める技術が選択されます。

吸水性制御の代表的な技術

打解・リファイニングによる物理的調整

リファイナーで繊維を叩解すると、フィブリルが発生し表面積が増え、毛細管が細く長くなります。
これにより初期吸水速度は低下しますが、最終的な保水量は増える方向に働きます。
印刷用紙では表面インクのにじみを防ぐため、適度な叩解度で微細孔を制御します。

サイズプレスと表面サイズ

抄紙機の乾燥部でサイズプレスを通し、スターチ溶液や合成高分子を塗布することで、紙表面の気孔を部分的に埋めて吸水を制御します。
スターチは親水性ですが、架橋剤を併用して架橋密度を高めると疎水性バリア層を形成でき、包装紙の耐水強度が向上します。

内添薬品による疎水化

AKDやアルケニルスクシニル無水物(ASA)は繊維内部に化学結合し、長鎖アルキル基が水分子の侵入を妨げます。
化学パルプに対し0.05〜0.2%程度を添加すると、コブ値で30〜60秒の耐水性能を簡便に得られます。
ピッチトラブルを防ぐため、分散剤やカチオン性ポリマーベースの乳化剤を併用することが重要です。

コーティングとラミネーション

顔料コートは塗工層がインクや水を一旦受容し、基材への深い浸透を抑えます。
さらにポリエチレンラミネートや水系バリアコートを施せば、紙カップや液体容器用の高耐水層として機能します。
近年は生分解性ポリマーや水蒸気硬化型ラテックスでプラスチック使用量を削減する試みが進んでいます。

カレンダー処理による平滑化

スーパーカレンダーで高圧・高温を印加すると、紙表面の凹凸が低減し気孔が封じ込められます。
これにより表面吸水速度が遅くなり、グラビア印刷やオフセット印刷でにじみを抑えられます。
ただし過度なカレンダーは嵩高と通気性を失うため、機能紙では圧力・温度プロファイルの最適化が必須です。

吸水性測定と評価法

コブ値法

ISO 535で規定された方法で、紙片の一面を水に一定時間(通常60秒)接触させ、増加した質量を測定します。
吸水量をg/m²で示し、低いほど耐水性が高いと判断します。

コンタクトアングル法

紙表面に微小水滴を落とし、初期接触角と時間変化を解析します。
接触角が大きいほど疎水性が強く、小さいほど親水性が高いことを示します。
高速カメラと画像解析ソフトで動的吸水挙動を可視化する研究が活発です。

ブレークスルータイム

ろ紙や不織布など厚手の素材では、水が裏面へ到達するまでの時間を測定します。
介護用吸収体や油吸着紙の性能指標として採用されます。

用途別の最適化事例

ティッシュ・トイレットペーパー

吸水量とやわらかさが求められるため、長繊維主体で空隙率を確保しつつ、軽度のクレープ加工で嵩高を付与します。
内添サイズは最小限にとどめ、表面にも親水処方を施して毛細管吸収を促進します。

インクジェット印刷用紙

インクの速乾性とドットの滲み抑制がカギです。
表面にシリカやカオリンを高濃度で塗工し、多孔質層がインク中の水分を瞬時に吸収します。
基材側は内添サイズでバリアを形成し、顔料バインダーにはポリビニルアルコールを用いて色材固定性を向上させます。

段ボール・包装紙

輸送中の湿度変化や結露から内容物を守るため、中程度の耐水性を付与します。
スターチサイズ+AKDのハイブリッド処方でコブ値を40〜50秒に設定すると、耐圧縮強度を保ちながらリサイクル適性も確保できます。

油吸着材

親油性・疎水性が必要なため、セルロース系でもフッ素フリーのシランカップリング剤や疎水化キチンをコートして改質します。
空隙率を90%以上に保つことで、油吸着量20g/g以上を実現できます。
廃油処理後に焼却しても塩素系ガスを出さない点が環境対応として評価されています。

環境対応と今後の展望

プラスチック削減やリサイクル性向上の観点から、紙素材への期待は高まっています。
しかし過度な疎水処理やラミネートはリサイクル工程で分離が難しい場合があります。
そこで、天然ワックス、セルロースナノファイバー、水系ポリマーなどリパルプ可能な改質剤の研究が進行中です。
またデジタル印刷市場では高速インクジェットに対応する超親水層と、裏抜けを防ぐバリア層の多層設計が求められています。
加えて、AIとプロセス制御を組み合わせ、リアルタイムでコブ値や表面抵抗をフィードバックするスマート抄紙機の実証も始まっています。

紙の吸水性制御は、製造工程の微調整と薬品設計によって大きく性能が変化します。
用途ごとの要求特性を的確に把握し、最適な組み合わせを選択することで、機能と環境性能を両立した紙製品を創出できます。

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