超臨界流体抽出を利用した食品香気成分の濃縮技術

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超臨界流体抽出とは何か

超臨界流体抽出は、物質が臨界点を超えた温度と圧力条件下で液体と気体の両方の性質を併せ持つ状態、すなわち超臨界状態を利用して目的成分を分離する技術です。
食品分野では主に超臨界二酸化炭素(SC-CO2)が用いられ、低温での処理が可能なため熱に弱い香気成分の濃縮に適しています。
二酸化炭素は無毒・不燃であり、抽出後に常温常圧へ戻せば気体として容易に除去できるため、残留溶媒のリスクが極めて低い点も特徴です。

超臨界二酸化炭素の特性

超臨界二酸化炭素は臨界温度31.1℃、臨界圧力7.38MPaという比較的穏やかな条件で発生します。
臨界点を超えると密度は液体に近く、拡散係数は気体に近い値となり、溶媒としての浸透性と可溶化能力が大きく向上します。
圧力を上げると溶解度が増加するため、圧力調整により抽出選択性を制御できる点が食品香気成分の分別濃縮に有利です。
また、二酸化炭素は極性をほとんど持たないため、非極性〜弱極性のテルペン、アルデヒド、エステル類などを選択的に回収しやすい特性があります。
極性原料の抽出効率を高める際は、エタノールや水を数%添加する共溶媒法が用いられます。

抽出プロセスの基本フロー

超臨界流体抽出装置は、ポンプ、加温器、抽出槽、分離槽、冷却回収系から構成されます。
まず原料を粉砕し、適度な粒径に整えて抽出槽へ充填します。
次に二酸化炭素を高圧ポンプで圧縮し、ヒーターで目標温度に加温しながら超臨界条件へ移行させます。
超臨界状態となったCO2は抽出槽を通過し、原料中の香気成分を溶解しながら流出します。
抽出溶液は減圧または低温化された分離槽へ移動し、気相に戻ったCO2と香気成分が分離します。
このCO2はコンプレッサーで再圧縮し、循環利用することでランニングコストを抑えられます。

バッチ方式と連続方式

小〜中規模の食品加工ではバッチ方式の抽出が採用されることが多く、少量多品種の香料開発に対応できます。
対して大規模プラントでは原料を連続投入し、CO2も連続循環させるシステムが用いられ、抽出効率とスループットを向上させています。

食品香気成分濃縮への応用事例

コーヒー豆からカフェインを除去しつつ芳香成分を残存させるデカフェ処理は代表的な用途です。
緑茶葉のうま味アミノ酸を損なわずに青葉アルコールを濃縮した高香気茶エキスの製造も報告されています。
ホップ香を引き立てるビール用超臨界ホップオイル、柑橘皮から得られるデリモネン高含有エッセンス、香辛料由来オレオレジンの低熱抽出など、多様な商品化例があります。

超臨界流体抽出のメリット

第一に、熱劣化が少ないため香気のフレッシュ感を保持できます。
第二に、有機溶媒を使用しないため残留溶媒リスクを回避でき、ナチュラル志向の商品訴求が可能です。
第三に、圧力制御により成分選択性を高められるため、目的香気の前処理や精製工程を削減できます。
さらにCO2の再利用性が高く、環境負荷と運転コストの両面で優れています。

課題およびデメリット

設備投資が高額であり、高圧容器や安全弁などの法規制遵守が必要です。
二酸化炭素は非極性ゆえに極性の高い糖類やアミノ酸の溶解度が低く、食品素材によっては共溶媒の最適化が欠かせません。
また、抽出後の香気成分は高濃度であるがゆえに揮散しやすく、最終製品への配合時にはマイクロエンキャプシュレーション等の安定化処理が推奨されます。

品質と安全性の評価

得られた濃縮香料はガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS)により成分プロファイルを確認し、熱水抽出品や溶媒抽出品との比較を行います。
官能評価ではヘッドスペース分析に基づく吸香試験を実施し、香り立ちと持続性を評価します。
残留CO2は常温常圧で自然放散するため実質的にゼロとなりますが、最終製品中の溶存ガス量はガスクロメーターで測定し、泡立ちや容器膨張のリスクを管理します。

装置設計におけるポイント

抽出槽は原料の種類や充填率によって流路抵抗が大きく変動するため、均一なCO2フローを確保するディストリビューター板の設計が重要です。
熱対流を抑制し温度勾配を最小化するため、外周部と中心部に独立ヒーティングゾーンを設ける設計が望まれます。
シール材には高圧下での膨潤が少ないPTFEやPEEKを採用し、食品接触材としての安全性を確保します。

省エネ・コスト低減策

前処理として原料の含水率を低減させると抽出効率が向上し、運転時間を短縮できます。
分離槽を多段化し、段階的に圧力を下げながら目的成分を分別することで、再圧縮に必要なコンプレッサー負荷を低減できます。
低圧側のCO2蒸気を熱交換器で回収し、加温器のプレヒートに利用するヒートリカバリー方式も有効です。

今後の展望

近年では超臨界CO2にパルス電場や超音波を併用し、細胞壁破壊を促進するハイブリッド技術が研究されています。
また、可食油脂を超臨界状態で微粒化し、香気成分を同時に溶解させてスプレードライするワンステップマイクロカプセル化も注目を集めています。
規制面では、欧米を中心にクリーンラベル食品への需要が拡大しており、超臨界抽出由来香料のオーガニック認証取得が進むと予測されます。

まとめ

超臨界流体抽出は、低温・無溶媒という条件で食品香気成分を高効率に濃縮できる革新的技術です。
圧力と温度を自在に制御し、目的成分の選択抽出が可能であるため、幅広い食品素材への応用が期待されます。
設備コストやプロセス開発の専門性といった課題はあるものの、環境負荷低減と高品質香料の両立という市場ニーズに合致しており、更なる普及が見込まれます。
研究開発と装置技術の進歩により、超臨界流体抽出は今後も食品香気成分濃縮の主要手段として重要性を高めるでしょう。

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