事前教示制度を活用してHSコードを確定し通関リスクを前倒しで解消

事前教示制度の基礎とその重要性

事前教示制度とは何か

事前教示制度は、輸出入取引において関税率や輸出入の規制項目、HSコード（Harmonized System Code、統一品目分類）など、通関に関わる重要事項について税関に正式な照会を行い、事前に回答を得る制度です。

具体的には、商品のHSコードや関税分類、原産地規則の判断など曖昧になりがちな部分を、正式見解として証明し、通関時のトラブルやリスクを未然に防ぐ役割を担っています。
この制度を活用することで、製造や販売、調達側にあるバイヤーやサプライヤーが「通関段階でリスクに直面しない」という大きなメリットが得られます。

HSコード確定の意義

HSコードは世界共通の物品分類体系であり、本当に正しいHSコードを設定することが、関税率や法規制、優遇措置の適用の判断基準となります。

しかし、現場では「この部品ってどっちの分類になるのだろう？」「複数のHSコードが考えられるが、どれが該当するのか…」という悩みが頻発します。
HSコードの誤認が原因で、後になって追加関税、罰金、輸入差し止めといった重大トラブルに発展するケースが後を絶ちません。

そのため事前教示制度を活用してHSコードを公式ルートで確定させ、通関リスクを“前倒し”で完全に解消しておくことが、製造業の現場における調達購買・海外工場運営・品質管理では極めて重要です。

昭和型アナログ現場に潜む通関リスクと業界動向

なぜアナログ体質がリスクを増幅させるのか

日本の伝統的な製造現場や調達部門では、今なお「前例踏襲」「属人的判断」「紙ベースの手続き」が強く残っています。
現物主義・現場主義が徹底された昭和型産業では、通関実務も担当者の経験や勘に依存し、正式な根拠に基づかないHSコード運用が行われていることも少なくありません。

このようなアナログ体質のままだと、以下のような問題が表面化します。

– 知識や判断がブラックボックス化し、継承が難しい
– 税関側との解釈違いが起きても証拠・記録が残らない
– 海外子会社やサプライヤーに正確な情報を伝えにくい
– 法改正やHSコード改定にリアルタイムで対応できない

時代は国際調達・グローバル生産が当たり前となり、各国ごとに法令や通関解釈が異なるため、アナログな属人運用は非常に危険です。

業界動向：デジタル化とガバナンス強化

今、製造業界ではグローバル基準でのコンプライアンス遵守、サプライチェーンリスク管理、ESG（環境・社会・ガバナンス）経営の重要性が高まっています。
その最前線が「通関業務のデジタル化」「オープンな知見共有」「事前教示制度の積極利用」です。

グローバル本社を構える大手企業ほど、税関の公式見解に基づく通関ガバナンスを徹底し、現場の内製ノウハウやブラックボックス化を徹底排除する流れが加速しています。
これにより、予期しない税関リスクや追加コストの芽を摘み、多地域・多業態との協業やサプライチェーン強靭化を実現しています。

実践！事前教示制度の活用プロセス

1. 該当貨物の選定、スペック・資料の準備

最初に、HSコード分類の判断が難しい貨物や、重要度の高い調達品目など、通関リスクが高いものをピックアップします。

現場の技術担当、生産技術、購買、品質管理担当者が現物や図面、カタログなど「貨物の実態を客観的に説明できる資料」をそろえることが重要です。

2. 税関提出用書類の作成、照会内容の整理

税関の「事前教示申請書」に、貨物の名称、素材、用途、どの分類判断が難しいか等を記載します。

記述が曖昧だとNGなので、現場の設計者・技術者と連携し「客観的な事実」「判断が分かれる背景」「判定理由の候補」まで論理立てて書きます。
過去の品目分類例や国際的なHSコード分類事例も添付できれば、より説得力が高まります。

3. 税関への申請・オンライン申請の活用

各地の税関ホームページからオンライン提出、電子申請が可能です。
eメールや専用システムの活用により、申請から回答取得までのリードタイムも短縮されてきています。

窓口での説明が必要な場合や審査過程での追加資料提出も想定し、適宜フォローアップできる体制も用意します。

4. 税関からの回答入手と根拠文書化

公式な回答（事前教示結果通知書）は、法的根拠を持った税関の見解です。
この文書を社内規定や調達要領の根拠とし、関係者全員で最新情報を共有・管理することが重要です。

また、数年おきのHSコード改定や法令変更情報についてもフォローし、定期的な見直しを怠らない運用も欠かせません。

現場目線で考えるバイヤーとサプライヤーの役割

バイヤーの視点：不確実性の排除が最大の使命

バイヤー（購買・調達担当）は「低コスト、安全、納期厳守」が最優先と思われがちですが、グローバル化の今、一番大切なのは「不確実性＝通関・規制リスクの排除」です。

事前教示でHSコード・関税率・輸入規制を明確化しておけば、

– 追加関税で利益を失う
– 誤分類で輸入停止となりラインストップ
– クレーム対応で顧客からの信頼損失

など、最悪のシナリオを“事前解消”できます。
現場・法務・物流と連携したエビデンスベースの調達戦略こそ、次世代のバイヤーが持つべき“攻めの知恵”です。

サプライヤーの視点：バイヤーが本当に知りたいこととは

サプライヤー（供給者）の立場でも、バイヤーから「きちんと事前教示をとっていますか？」「判定根拠は公式見解ですか？」と問われるシーンが急増しています。

これに対応するには、エンジニアリング的知見（技術仕様を正確に理解し表現する力）、通関実務知識（必要書類の把握と整備）、法令対応力（最新の規制・HS改定リスクを見越す力）はますます重要です。

ひと言で言えば、「調達現場と課題意識を共有できる、ビジネスパートナー型サプライヤー」へと進化することが今後の成長戦略です。

ラテラルシンキングで開拓する新たな価値創造

従来発想の限界を突破するには

「トラブルが起きてから対応する」「前例のままとにかく申告する」という従来発想は、もはや通用しません。

今後は、「バイヤー・サプライヤー・現場技術者・法務・物流」が一体となり、
情報を科学的に検証・根拠化しながら、事前教示制度も積極活用して“リスク完全排除型”の通関マネジメントを推進する必要があります。

また、海外グループ会社や他国サプライヤーにも事前教示の結果・知見を展開し、グローバル共有ナレッジとして蓄積することで、トータル最適・ガバナンス強化が図れるのです。

新たな地平を切り拓く発想

たとえば、

– 調達先選定時のRFI（情報依頼）に「事前教示取得済みであること」をスペック化する
– サプライチェーン全体で事前教示結果やHS分類事例をデジタルDB化し、属人リスクゼロを目指す
– 税関や業界団体と連携・勉強会を実施し、自社独自基準・クロスボーダー規制ノウハウを構築する

など、“知識をオープンに共有し進化させる”ことが、これからの製造業の生き残り戦略になります。

まとめ：事前教示制度こそ、製造業の未来を守るカギ

事前教示制度の徹底活用は、単なるリスクヘッジにとどまらず、調達購買・現場管理・品質保証・グローバル展開のあらゆる局面で、「不確実性の排除」と「科学的根拠に基づく最適化」を実現できます。

昭和型アナログ業務を突破し、デジタル×現場知恵で“根拠に基づくものづくり”を推進することが、令和時代の製造業の競争力となります。

バイヤーはもちろん、サプライヤー側も主体的に「事前教示制度」を自社の武器とし、自らの業務を次のステージに引き上げていきましょう。
それが、予測不能な時代における“製造業の真のガバナンス”であり、業界全体の発展・安全・信頼性向上に直結するのです。