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量産品の仕様解釈違いで顧客検収が通らなかったケースと事前防止策

目次
はじめに:量産品での仕様解釈違いはなぜ起こるのか
製造業の現場では、新製品の立上げから量産への移行は、プロジェクトの大きな山場のひとつです。
その中でも、顧客検収の場面で「仕様解釈の違い」が原因で、せっかく生産した量産品が受け取ってもらえない、納品できないという事象は決して珍しくありません。
特に、昭和のアナログな慣習や、曖昧なコミュニケーションが色濃く残る企業文化の中では、同じ図面、同じ仕様書を見ても、各担当者で捉え方が異なりやすい土壌があります。
私は20年以上、現場の管理や調達、品質部門の責任者として多くの「仕様解釈違い」を目の当たりにし、ときにはその火消しに奔走してきました。
本記事では、実際に私たちの現場で起きた量産品の仕様解釈違いの「検収不合格」事例を紹介し、なぜトラブルが発生するのか、事前にどう防止すべきか、深く実践的に掘り下げていきます。
製造の現場で働く方、また調達やバイヤー、サプライヤーの立場関係なく、少しでも参考になる内容をお伝えします。
実際に起きた量産品の仕様解釈違い:典型的なケーススタディ
事例1:寸法公差の認識ズレによる量産品全数NG
ある大型機械の部品量産プロジェクトで、私たちは顧客指定の図面に基づき寸法公差を厳格に管理し、試作後に図面通りサンプルを提出。
試作品承認後、当初は問題なく進みました。
しかし、量産1000個の初回納入で顧客から「全数NG」との連絡がありました。
理由は【ある部位の寸法公差】に対して、顧客側では「片側公差±0.1」と解釈。
我々は「中心公差±0.15」(JISの基本に準拠)を採用していました。
担当者同士の口頭のやりとりや、承認試作サンプルの検査記録・計測器の違いも加わり、この微妙なズレが多数のNGを生みました。
事例2:材質グレードの指定違いからくる耐久性不足
耐摩耗性が要求される特殊ギアについて、図面上は「S45C」「表面硬化処理」とのみ記載。
当社では従来の流れで「深度0.6mm、HV550以上」の焼入れと判断しました。
一方、顧客の技術部門では「深度1mm、HV700以上」を想定。
納品後、顧客での現場耐久評価にて即座に不合格となり、仕様違いによる設計見直しと全数手直し、場合によっては損害賠償リスクまで発展しました。
事例3:表面処理(塗装・メッキ)の「見た目」基準差から量産リワークへ
家庭用電化製品の外観パネルで起きた例です。
我々は「外観主要面A、Bに外観異常なきこと」の仕様を重視し、通常の工程で量産。
納品後、「光の当たり加減で小さなムラが見える」「ライティングテストで薄い色ムラが確認できる」と顧客から想定外の指摘を受けました。
一見、当社検査基準上は問題ない品でしたが、顧客品質要求には合致しませんでした。
結果、量産ロットの大半を手直しする羽目となりました。
製造業でなぜ仕様解釈ミスが発生するのか?
構造的・文化的な背景
昭和から続く製造業の業界風土には、「自分たちの標準」や「今まで通り」が深く根付いています。
現場と設計、バイヤーとサプライヤーの間で用語や尺度、何を重要視するかについて、無意識のうちにズレが生じることも稀ではありません。
・図面や仕様書自体が曖昧もしくは二義的である
・過去実績や口伝、手順書頼みによる属人的な解釈
・検査・評価基準のすり合わせ不足
・材料・表面処理・公差など基準値の決め方がバラバラ
これらが現場では「不文律」となり、正式仕様書と現実の運用ルールが齟齬をきたす温床となっています。
コミュニケーションと協働の壁
調達バイヤー、営業、設計、メーカー現場、品質管理と、製造プロセスには多くの部門が関与します。
しかし、部門ごとに「自分の理解」が優先されがちで、他部門との本質的な仕様認識共有が疎かになりやすいのも問題です。
また、日々多忙なスケジュールの中で「仕様の細かな差異」まで綿密にコミュニケーションを取る余裕がないのも現実です。
量産品での仕様解釈違いを未然に防ぐ実践的な予防策
1. 図面・スペックの明文化徹底
あいまいな記載、過去の慣例用語は「百害あって一利なし」です。
・図面、仕様書は誰が読んでも明確に理解できる単語・数値を使う
・「JIS B 0405に準拠」など客観的な根拠を引用する
・過去取引実績や「前回通ったから」ではなく、逐一エビデンスを最新化
・素材、表面処理、公差、外観など重要管理点(CTQ)は備考欄でさらに具体的に明記する
受発注や設計段階から「不明点は必ず質疑する」姿勢も大切です。
2. 量産前の事前すり合わせ(キックオフミーティング)
口頭やメールだけでは情報の抜け、誤認が生じます。
製品開発や量産立ち上げ時には必ず【サプライヤー・バイヤー・設計・生産管理・品質部門】を集めて実際のモノを前に詳細なすり合わせを実施してください。
・図面と現物を照らし合わせ、「どこを重視するか」「どこまで許容範囲か」を相互確認
・検証サンプルの測定法や使用検査治具も、事前に条件を合わせておく
・判定基準(A面、B面の傷の程度、色差、肌荒れなど)は具体的な写真サンプルで合意形成
・議事録は必ず回覧し、後でも参照できる形で残す
3. 試作承認と量産初品時の「御用聞き思考」脱却
顧客やバイヤーの「言いなり(御用聞き)」ではなく、プロの視点を持ちましょう。
疑問点があれば、現物や根拠データを必ず提示し「ここまでで良いか?」と確認。
特に初回量産時は「イレギュラー特例」が発生しやすいので、都度パトロールを怠らないことです。
4. “曖昧/グレーゾーン”の部分は分けて契約・記録に残す
図面や仕様書でどうしてもグレーな記述が残る時は、「何をどこまで保証し、どこまでは責任範囲外か」を分因しておく工夫が肝要です。
・試作承認時の検査記録や結果写真
・「リスク有り」「例外運用あり」など但し書き付きで書面に明記
・バイヤー/調達担当を交えてリスク分散的な合意を作る(例:保証期間、補償上限、再納品条件)
サプライヤーとしても、自分の守備範囲を明確にしておけば想定外のトラブルリスクを削減できます。
DX推進が生む「透明な仕様共有」新時代
最近では、設計書類・品質記録・取引履歴などを電子化し、PDM(製品データ管理)やPLM(製品ライフサイクル管理)システムを活用する企業が増えています。
これにより、「誰が、どの時点で、どう解釈したか」を一元的に履歴管理することが可能になっています。
・図面データと承認履歴をクラウド共有
・AIによる部位ごとの仕様確認や差分抽出
・スマートファクトリーでの現物とデジタル基準値の突き合わせ
などにより、昔ながらの「あいまいな伝言ゲーム」は減りつつあります。
しかし、「運用する人間次第」であることも忘れてはいけません。
調達バイヤー・サプライヤーの立場から見る本質的なポイント
バイヤー・調達担当者へ
・「サプライヤーならこれぐらい分かっているだろう」という思い込みは一番危険です
・注文前、図面発行前に、必ず仕様説明とQ&A確認会を設ける癖をつけてください
・製品の使い方シーンや重視点を具体的に伝えると、サプライヤー側も提案しやすくなります
サプライヤー・製造現場担当者へ
・図面/仕様の不明点、不整合は絶対に「自己判断」せずダブルチェックを徹底しましょう
・難しい交渉案件ほど、問題点・リスクは必ず文書化し「後出し禁止契約」の姿勢で
・「できません」とはっきり言う勇気、そして代案を事前に提示するプロ意識が肝要です
まとめ:今こそ「予防的な仕様共有」が製造業の競争力になる
量産品での仕様違い・検収不合格は、単なる伝達ミスの積み重ねのようで、企業にとっては大きな損失と信用低下に直結します。
この問題は、いまだにアナログ的な運用が残る製造現場でこそ起きやすいものですが、「誰が」「どう間違えやすいか」を現場目線で知ることが一番の未然防止策になります。
DX推進やデータ活用も大切ですが、最終的には「人の思考・行動」「現場の実践」が核心です。
バイヤー、調達、設計、サプライヤーが互いの立場や制約、価値観を理解し合い、「知っているだろう」「常識だろう」の壁を超えるかどうか。
ここからこそ、明日の製造業はさらに強く賢くアップデートしていくことができると、私は信じています。
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