投稿日:2025年8月31日

金型・治具の所有権と保管先を契約に明記するためのテンプレート集

はじめに:金型・治具の所有権、契約明記の重要性

製造業の現場において、金型や治具は製品の品質・生産性に直接影響を与える重要な資産です。

とくに多品種小ロット生産が主流となった現代では、これらの資産の管理や所有権の明確化が、メーカーとサプライヤー双方のリスク低減と業務効率化を実現するカギとなります。

ですが、昔ながらの口約束や「慣例」に頼った対応が多い業界特性も根強く、昭和時代から続く曖昧な取り決めが、思わぬトラブルや損失の原因となる事例も少なくありません。

この記事では、現場目線・管理職目線双方から実践的な観点で、金型・治具の所有権と保管先を契約に明記するためのポイントと、すぐに使えるテンプレート集をお届けします。

バイヤーを目指す方、現役バイヤー、サプライヤーとして交渉力を高めたい方にも役立つ内容を詰め込んでいます。

なぜ「所有権」と「保管先」を明記する必要があるのか

よくある現場のトラブル事例

製造工程で使う金型や治具は、数十万から数千万円のコストがかかり、一度作れば長く使われることも多いです。

しかし、プロジェクトの終了や製品廃盤、サプライヤー交代・倒産などの節目で
「この型は誰のもの?」
「どこに、どうやって保管している?」
「次の量産や修理の際、引き渡し請求はできるのか?」
といったトラブルが頻発してきました。

現場で私自身も経験したことがありますが、
所有権や引き渡し条件が曖昧なままだと、
・型を他案件へ転用される
・無断で廃棄や改造される
・保管中の修繕費を巡る紛争
・追加発注時に高額な「型返還料」や「保管料」を請求される
といったトラブルが発生します。

令和時代のコンプライアンスとDX推進

また、下請法やBtoB契約の標準化、デジタル化社会への対応が求められる今、金型・治具の「所有権・保管先」が契約書や仕様書、合意書類に明記されていないと、
・監査時に指摘、取引停止リスクの増大
・ファクトベースの経営判断ができない
・サプライチェーン全体の信頼性低下
といったリスクも無視できません。

実践的!金型・治具の所有権/保管先明記テンプレート集

現場でよく使われてきた(が実はあいまいな)言い回しではなく、法的効力や交渉力もふまえたテンプレート例を紹介します。

1. 所有権条項【基本形】

【例文】
本取引により製作された金型・治具その他関連資産の所有権は、発注者である○○株式会社に帰属するものとし、納入・検収完了時点で移転する。

2. 保管先条項【基本形】

【例文】
本金型・治具の現物は、委託先たる△△製作所(以下「サプライヤー」という。)の安全な倉庫・工場内にて、発注者からの要請があるまで適切に保管するものとする。

3. 引き渡し要請・返還義務条項

【例文】
発注者は、必要に応じて書面通知により、サプライヤーに対し金型・治具の引き渡し・返還を求めることができる。
サプライヤーはこれに速やかに応じるものとし、遅延や損傷が生じた場合は発注者に補償責任を負う。

4. 保管・維持負担の明確化条項

【例文】
金型・治具保管にかかる通常の維持・清掃・簡易修繕費用はサプライヤーが負担する。
但し、長期未使用(1年以上)の場合および特別な修繕が必要とされた場合は、都度協議の上費用負担を定める。

5. サプライヤー保管料の設定例

【例文】
発注者の責に帰さない理由で長期保管となる場合、金型・治具1台あたり月額○○円の保管料を別途協議のうえ決定する。

6. 廃棄・処分に関する合意条項

【例文】
発注者の書面承認なく、金型・治具の改造・廃棄・第三者譲渡は行わないこととする。
不要となった場合の廃棄費用負担および手続きは、発注者・サプライヤー間で協議を行うものとする。

現場の“あるある” 曖昧な表現例と解消アプローチ

よくある曖昧な記載例

・「型はウチで作らせてもらうので、保管は任せてください」
・「発注元と型代は折半なので共同名義にしましょう」
・「まあ、製品を続ける限りウチで面倒見ます」 

結局、どちらが所有権を持つか、用途限定か自由転用か、保管環境の責任範囲は……と突き詰めていくと灰色ゾーンが多発します。

厳格な契約が現場を守る理由

感覚値や“なあなあ”文化に頼らず、文書化・契約化しておくことで
・法的根拠を持つ
・後任人材/異動交代時も資産の混乱が起きない
・突然の事業停止、倒産、自然災害・盗難リスク時も権利保全ができる
など、現場・経営双方の安心材料になります。

所有権明記とデジタル管理の相乗効果

近年は、金型・治具にも資産番号管理やバーコード/QRコード付与を行い
・現物資産台帳の整備
・保管場所・定期点検の記録
・トレーサビリティの確立
を合わせて推進する企業が増えています。

テンプレートだけでなく、こうしたデジタル連携とセットで契約/現物のギャップを最小化するマネジメントが極めて重要です。

旧時代からの意識変革と業界全体の未来

昭和的な「モノ言わぬ資産」としての金型・治具から、令和デジタル社会にふさわしい「権利化された共有資産」としての取り扱いへの転換が求められています。

バイヤーとしては、「とりあえず型作ってもらえばOK」という表層的な視点から、
・事業運営のレジリエンス(強靭性)確保
・ライフサイクルコストの透明化
・SDGs観点での資源循環管理
まで見据えた契約設計が必須です。

サプライヤーにとっても、「保管と運用のコスト意識」「自社の資産・管理義務」「中長期の利益分配設計」といった戦略的視点が、単なる下請けからの脱却=パートナーシップ強化に直結します。

まとめ:賢い契約で現場力と企業価値を引き上げる

金型・治具の所有権・保管先を明記することは、単なるリスク回避策ではありません。

調達購買、工場運営、品質保証、コストマネジメント――
あらゆる現場活動の根幹となり、
・ムダなコスト・トラブルを防ぐ
・現場での判断力強化
・顧客や社内外の信頼性向上
にも貢献します。

テンプレートはあくまでも「叩き台」。大切なのは、案件ごとに現場目線で協議し、自社・取引先の実態に即した内容に「アップデート」する姿勢です。

今こそ、属人的な“慣例”から脱却し、現場発のイノベーションで業界の新たな地平線を切り拓いていきましょう。

皆さんの現場や契約実務に、この記事が少しでもお役に立てば幸いです。

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