投稿日:2025年9月7日

価格とCO2の二軸評価で“安いだけ”購買から脱却する

はじめに:製造業に求められる新たな購買基準

製造業の現場では長年、「最も安いものを仕入れる」ということが美徳とされてきました。
特に日本のものづくりを牽引してきた昭和世代からは、「コストダウン=利益」という思想が色濃く残っています。
しかし、ビジネス環境がグローバル化し、SDGsやESGといった持続可能性も企業価値を左右する現代においては、単に安いだけの購買では企業の競争力は守れない時代となっています。

今、調達購買部門には「価格」と「CO2(二酸化炭素排出量)」という二軸での評価が強く求められています。
この記事では現場目線を交えつつ、なぜ“安いだけ購買”から脱却せねばならないのか、そして具体的にどうすれば良いのかを紐解いていきます。

安さだけにこだわるリスク―昭和のやり方はなぜ限界なのか

安さが生産リスクを生む時代

「安ければ安いほど良い」と考えてしまう背景には、すぐ目に見える“コストダウン”への社内プレッシャーや、数字で評価されるという購買現場特有の事情があります。
しかし、価格だけを最重視して調達先を選んだ結果、近年様々なトラブルが起きています。
品質不良によるライン停止、納期遅延、取引先の倒産、そして社会的信用の失墜――これらは全て“安さ至上主義”の副作用です。

特に昨今は、「安価な海外調達だから安全」という時代でもなくなりました。
コロナ禍や地政学リスク、国際輸送の混乱は、調達コストよりもサプライチェーン全体の持続性やリスク分散の重要性を我々に突き付けています。
製品の「値段」だけでなく「価値」を評価する視点が不可欠です。

ESG投資・サステナビリティの潮流

もう一つ見逃せないのが、サステナビリティやグリーン調達の浸透です。
上場企業だけでなく、中小企業や部品サプライヤーにまで、CO2排出量の見える化・削減、ESG対応が求められる時代となりました。
「安い海外仕入れで利益が出ればOK」という昭和的な調達では、むしろ将来的に市場や大手顧客から排除されてしまうリスクすらあります。

価格×CO2排出量 今なぜこの二軸が重要か

二軸評価にシフトする世界

欧州ではScope3(サプライチェーン全体のCO2排出量)の開示が義務化され、日本企業もバリューチェーン全体での環境負荷低減が問われるようになっています。
この流れは大企業だけでなく、下請・中小規模のモノづくり現場にも波及しています。

実際、グローバル自動車メーカーでは部品ごとの「サプライヤーCO2削減提案」や「LCA(ライフサイクルアセスメント)」の提出が新たな取引条件に加わりつつあります。
つまり、安いだけの業者選定は今や“経営リスク”となっているのです。

購買が経営戦略のコアに

「コストだけでサプライヤーを選ぶ」から、「価格×CO2」で“トータル価値”を評価しようという流れにシフトしています。
たとえば同じ製品でも、地元企業から仕入れることで輸送によるCO2排出が少ない場合や、再生エネルギーを使った工程を持つサプライヤーの選定が、長期的な企業価値向上につながります。
これは購買が“経営戦略の中核”に据えられるようになった象徴です。

現場・バイヤー目線での「二軸評価」の実践法

サプライヤー情報の可視化と収集

まずは取引先サプライヤーの情報を“見える化”することがスタートです。
以下のような観点で情報を整理・収集しましょう。

– 製品ごとの価格、コスト構造
– CO2排出に関する数値(工場・工程単位がベスト)
– 原材料の調達元や輸送距離
– 再生エネルギー利用状況、環境認証取得の有無
– 品質保証体制およびヒューマンリスクの有無

自社内で全てを調べ上げるのは不可能でも、主要パートナーからヒアリングし、比較表・データベース化することが第一歩です。

二軸での点数化・ランキング化

「価格」と「CO2排出量」、あるいは「価格」と「サステナビリティ評価」など、各項目を点数化/重み付けして客観的に比較しましょう。
たとえば下記のようなマトリクスを作成できます。

| サプライヤーA | サプライヤーB | サプライヤーC |
|:—|:—|:—|
| 価格評価 | 8/10 | 10/10 | 6/10 |
| CO2評価 | 9/10 | 5/10 | 10/10 |

これに社内方針や、中長期の方針(たとえば今期はCO2重視など)を組み合わせ、“最適バランス点”を探します。

パートナーシップとWin-Win関係の構築

価格競争はサプライヤーの負担増、ひいては品質低下や倒産リスクにも繋がります。
一方で、CO2削減投資の費用はサプライヤーだけに負わせていてはサプライチェーン全体の進歩は望めません。

現場同士の対話や共創が重要になります。
たとえば、「CO2削減を目指す共同プロジェクト」、「原価改善と環境負荷低減のための生産ライン見直し」、「長期契約による安定供給と投資回収」など、バイヤーとサプライヤーの真の“協働”が強いサプライチェーンを作り出します。

アナログ業界でも“二軸評価”は可能か?

昭和的慣習が根強い現場の実態

事実、日本のモノづくり現場は今も多くの部分で“紙文化”や“口頭伝承”、昔ながらの「値切り交渉」が根付いています。
たしかに、一朝一夕にデジタル化や二軸評価が根付くとは限りません。

しかし、そこには“機動力”という強みもあります。
小規模だからこそ、経営層の意思決定が早く、現場との距離が近いです。
昭和的な「顔の見える付き合い」こそ、サステナビリティやパートナーシップの基盤にもなります。

簡単な工夫から始める二軸化

大掛かりな専用ツールが無くても、エクセル管理や月1回のサプライヤー会議から始めれば十分です。
紙データでも構いません。
価格と合わせてCO2(分かればkWhや燃料使用量でもよい)を聞き、年次ランキング化するだけで社内の意識は変わります。
大事なのは“意識のスイッチ”です。

CO2削減に前向きなバイヤー企業は何が違うか

経営層の本気度が最も重要

二軸評価を進める上でカギとなるのは、経営層・購買部門長自身が本気で「持続可能性」を会社の価値観として掲げているかです。
表面的な“数合わせ”や“制度疲労”では、結局安さ重視の現場に引き戻されてしまいます。
CO2削減は企業存続の条件であるという認識が求められます。

目的に合わせた施策が成否を分ける

例えば、「相見積もりによる安さ競争」だけを続けていては、パートナーシップも生産性向上も得られません。
逆に「価格をちょっと譲ってでも、CO2削減計画を評価し長期発注する」という腹を決めた企業こそ、本気度が伝わりサプライヤーも付いてきます。

よくある疑問・壁への“ラテラル”な処方箋

Q: CO2データなんてサプライヤーが出してくれない…

いきなり“正確なCO2データ”を求めてしまうと、相手も身構えてしまいます。
まずは、「電気・燃料のざっくりした年間使用量」を聞くところからスタートしましょう。
また、「CO2削減提案コンテスト」や「現場見学会」を開くことで、双方が学び合う土壌が生まれます。

Q: 価格交渉とどうバランスを取ればいいの?

二軸評価の本質は、「どちらか一方を犠牲にする」のではありません。
たとえば、「CO2削減策でコストが下がるアイデア(省エネ工程や輸送合理化など)」を双方で持ち寄れば、環境にもコストにも結果的にメリットが生まれます。

まとめ:“安さ”を超えて選ばれるバイヤー・メーカーになるために

価格だけに目を奪われていては、もはや顧客や社会から選ばれません。
経営陣、バイヤー、サプライヤー、現場作業者が一丸となり、「価格×CO2」という新たな価値観で競い合い、共に成長できる関係を築くことが、今まさに求められています。

アナログ的な現場でも、ちょっとした「聞いてみる」「比べてみる」から時代の一歩先を行くことが可能です。
二軸評価こそ、変化の激しい今だからこそ製造業にできる“真の競争力”となるでしょう。

これから先も、“安いだけ”の調達ではなく、持続可能な社会と企業成長を成立させる新たな購買活動に挑戦していきましょう。

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