投稿日:2025年9月24日

工場改善の全体像をデザインで表現できない問題

はじめに:なぜ「工場改善の全体像」はデザインで表現できないのか

製造業の現場に長年身を置いて感じる悩みの一つが、「工場改善の全体像」をいざ可視化しようとすると、その複雑さゆえにどうしてもモヤモヤとした抽象的な表現になってしまうことです。

最近では、DX(デジタルトランスフォーメーション)が喧伝され、データやIT、デザインの力で“分かりやすく可視化”する流れが様々な産業に押し寄せています。

ところが製造工場の現場では、昭和の時代から続くアナログの文化と、業務の属人化、ITリテラシーのバラツキによって、口で説明すれば済むのに「見える化」したとたん混乱が増すパターンが後を絶ちません。

本記事では、その背景と課題を現場目線から読み解き、「なぜ、工場改善の全体像はデザインで表現しづらいのか?」を深堀りし、明日からの業務に役立つ考え方やアクションをご提案します。

現場が直面する「見える化」の課題構造

現場の感覚が数値や図では伝わらない理由

工場の改善活動は、PDCA(計画・実行・評価・改善)のサイクルが基本です。

しかし、「現状を正確に把握し、どこに改善余地があるのか一目で分かるマップ」を描くことは、言うは易く行うは難しです。

例えば「ヒト・モノ・カネ・情報」の流れを一枚の図面に整理したくても、現場には“勘と経験”に基づくアナログな仕事の進め方が根深く残っています。

そのため、いざフローチャートやバリューストリームマップにしてみると「自分たちの仕事の本質が抜けている」「現場の細かいニュアンスが反映されていない」といった声が必ず出てきます。

特に、5S活動や多能工化、段取り時間の短縮(SMED)など、細やかな現場改善は、単なる数値や定型図だけでは見えにくい積み重ねの成果です。

工場組織文化の壁 – 情報分断・属人化・暗黙知

製造業の多くが今も抱えている根深い構造上の課題が「分業+属人化+暗黙知」です。

工程ごと、生産ラインごと、担当者ごとに“縄張り意識”や“自分の流儀”が形成され、他部門・他工程のことは「お任せ状態」になりがちです。

従って、デザインの力でバリューチェーン全体を「見える化」しようとしても

– 「ここは私の担当外」
– 「そんな細かい情報は知らないし、必要ない」

などの声が飛び交い、改善活動の全体像を本当の意味で連携させ続けるのが非常に難しくなります。

また、現場ではベテランが“目で見て・触れて・聞いて”体得したノウハウを新人にOJTで伝える文化が根強く、図や手順書に落とし込むと却って「かえって伝わらない」ジレンマが発生しがちです。

「全体像のデザイン化」が失敗する現場あるある

改善活動が「一部最適」の寄せ集めに終わる

現場改善会議でよく耳にするのが

「ウチの部署は頑張ってるのに、隣の工程が(遅延・不良・過剰)で足を引っ張られる」

という嘆きです。

これは個別最適の集合が全体最適に繋がらない、典型的な例です。

工程ごとに異なる指標(例えば生産性、歩留まり、品質コストなど)を目的化してしまうと、「全体で見てどこに本当のボトルネックがあるのか?」が分からなくなります。

その結果、「見える化ツール」や「業務プロセスチャート」を整備しても、各自が部分だけに注目してしまい、全体がちぐはぐな成績表になってしまうのです。

「綺麗な資料」はできても、現場に浸透しない

DX推進やコンサルティング会社による改善提案でありがちなのが

・カラフルなバリューチェーンマップ
・洗練された業務フロー図
・ダッシュボード風のモニタリング画面

など、「見た目は分かりやすい資料」が作成されるものの、現場メンバーは釈然としません。

なぜなら、「誰が、何を、いつ、どうやって改善するのか」のリアリティが抜けているからです。

現場のステップや制約条件、ヒヤリハットのような“アヤフヤさ”が、図面には絶対に現れません。

ひとたび業務がイレギュラー対応に迫られると、綺麗な資料はあっさり棚上げされ、“いつものやり方”に逆戻りしてしまいます。

なぜ工場の「現場改善」はデザインで掴めないのか?

「複雑系システム」としての工場

工場はモノづくりのための「システム」ですが、その挙動は非常に複雑です。

製品一つに対し、数百個から数千個の部品が調達され、何十もの工程を経て出来上がります。

人の動き、機械の状態、材料の在庫といった膨大な変数が、いつも微妙に揺れ動いているため、一枚の図やグラフで正確に全貌を掴むことは困難なのです。

むしろ、「部分を繰り返し見直し続ける」ことの中から、全体最適への“気付き”が生まれる——これが現場改善のリアルな進化の仕方と言えます。

「デザイン」と「現場のリアル」の分断

デザインの観点は「全体を一目で俯瞰し、課題を発見できる」点で非常に魅力的です。

しかし、現場では

– 作業手順が毎日/毎時間柔軟に変化する
– 臨機応変な人の判断が価値そのものである
– 機械の癖や職人技が品質を左右する

といった「リアル」が支配しています。

この“現場の曖昧さ”こそが、仕組みやマニュアル、デザイン図面だけでは把握しきれないのです。

だからこそ、いくらデザイナーやITコンサルが入り込んでも、実践的な改善アイデアは「現場を見て回り、体験者から尋ねる」こと抜きには導き出せません。

アナログ業界に根強く残る「見えない力」とは何か

現場力・職人技・暗黙知の価値を再認識する

現在の工場運営において、AIやIoT、RPAなどの自動化は飛躍的な進展を加速させています。

それでもアナログ業界の現場では「現場力」「職人技」「経験・カン・コツ」といった“見えない力”が未だ色濃く支配します。

改善の全体像をデザインにまとめようとした時、これらの“現場の知恵”は往々にして無視されます。

たとえば熟練工が寸分のズレなく部品を削り出す工程や、組立ラインでの微妙な調整、異常の事前察知など、可視化しづらい要素こそが競争力の源泉となります。

「脱昭和」のカタチではなく、本質を捉える

アナログな業務プロセスや属人的な運用が多いことで、「デジタル化=脱昭和」と表現される昨今ですが、本来重要なのは“根拠と仕組みを持った現場改善”です。

つまり「昔ながらのやり方」にも必ず合理的な背景や、今だからこそ活きる要素が潜んでいるのです。

全体像を図で描く前にまず、「なぜ今までこのやり方が続いているのか?」を現場から吸い上げることが、改善の第一歩となります。

これからの工場改善は「現場起点×デザイン思考」の往復運動がカギ

バイヤーとサプライヤー、それぞれの視点から読み解く現場改善

バイヤーを志す方や、サプライヤーの立場で「どう現場が改善課題と向き合っているか」を理解したい方は、まず「現場で何が困っているか、何が改善したいのか」を丁寧に観察する力が必要です。

トップダウンで一方的に「デザインすれば分かりやすくなる」「DXで簡単に最適化できる」と捉えてしまうと、現場との信頼関係を築くことは難しいです。

サプライヤー側からすれば、顧客現場の“本音”を汲み取れた提案や、現場担当者の“気付き”を自社でも活用し合うような取り組みができれば、一歩進んだパートナーシップが築けます。

改善ステップは「現場歩き」と「共創デザイン」の反復で深堀りする

実際の工場改善を進める上で効果的なのは、まず現場担当者自身がプロセスの「問題点」と「良い部分」の両方を洗い出し、小さな“部分図”に落としていくことです。

それを徹底した現場ヒアリングや観察、ダイアログを通じて全体の中に位置付け直します。

その上で初めて、DXやデザインの専門家と連携し「個別最適→全体最適」へとシフトしていく必要があります。

この時、資料やチャートの完成度よりも、「現場が自分ごととして改善ストーリーを描けるか」がポイントとなります。

まとめ:現場とデザイン、“往復”が未来の工場を変える

工場改善の全体像をデザインで表現することは一つの理想です。

しかし、現場の曖昧さ、多様性、暗黙知が重層的に絡み合う現実の中では、簡単にパッケージ化できるものではありません。

むしろ、「現場の小さな知恵」や「現場担当者ならではの気付き」こそが、全体最適へのヒントであり、それを丹念に紡ぐことが何より重要です。

現場起点で学び、デザインの力を借りて可視化し、その気付きからまた現場を改善する“往復運動”を地道に繰り返しましょう。

昭和から続いたアナログ文化も、次世代的なデザイン思考と組み合わせることで、新たな工場改善の地平が必ず開けてきます。

「現場のリアル」と「デザイン」の橋渡し役として、現場情報を汲み取りながら未来の工場像を共創していきましょう。

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