投稿日:2025年10月12日

Tシャツのシワを抑える防縮加工と縫製テンションの調整

Tシャツはなぜシワになるのか―製造業の視点から考える

Tシャツはカジュアルウェアとして世界中で愛されていますが、購入者やバイヤーが悩むポイントのひとつが「洗濯後のシワ」や「型崩れ」です。
なぜTシャツはシワになるのでしょうか。
その理由は素材特性と縫製工程に隠されています。

綿が主流であるTシャツは、吸水性と柔らかさが魅力です。
しかし、綿素材は水分を含むと繊維が膨張しやすく、繊維どうしがずれやすいため、乾燥後にそのままの形で固まります。
この現象が、いわゆる「シワ」の原因です。

さらに、縫製時の糸の引っ張り(テンション)が強すぎたり弱すぎたりすると、パーツごとに伸び縮みが異なり、バランスよく仕上がりません。
これもシワや型崩れの重要な要因です。

防縮加工とは?Tシャツ製造の現場で必須の工程

防縮加工の基本と意義

Tシャツは洗濯するたびに縮みやすい――これは消費者もよく知る「あるある」です。
この縮みを防ぐために「防縮加工」という工程が導入されています。
防縮加工とは、水分や熱で生地が収縮するのをあらかじめ抑える加工です。

最も歴史のある方式は「サンフォライズド加工(Sanforized)」と言われています。
これは生地に事前に水分を与えて意図的に縮ませ、さらに特殊なローラーで圧縮させることで、製品化後の縮みを抑制します。

プレシュランク加工の導入メリット

近年では、海外生産・大量生産が一般化し「予め縮ませる」工程(プレシュランク加工)が標準化されつつあります。
この作業を事前に工場で徹底することで、消費者が自宅で洗濯してもほとんど寸法変化しなくなります。
つまりバイヤーにとっては「クレーム率低減」「リピート率向上」という大きなメリットになるのです。

縫製テンションが与える影響とその管理の難しさ

縫製テンションとは何か

Tシャツ製造の現場で非常に重要な要素の一つが「縫製テンション(糸の引っ張り具合)」です。
例えば首回りのリブ、袖、胴体の接合部。
高すぎるテンションで縫ってしまうと布地がつっぱり、洗濯後に波打ちやすくなります。
逆にテンションが低すぎると、仕上がりにゆるみが出て型崩れやヨレを引き起こします。

アナログな現場が抱える縫製テンションの課題

昭和時代から続く多くの縫製現場では、熟練工の「手感覚」が主流です。
「これくらいがちょうどいい」といったベテランのノウハウは簡単にマニュアル化しづらく、品質のばらつきが発生しがちです。

そこで最近注目されているのが、電子制御式のミシンやテンション管理装置の導入です。
デジタルでテンション値を可視化し、設定値に満たない場合はアラームを発する仕組みを取り入れる事例が増えています。
依然として「人の目と手」のチェックが求められるものの、安定した品質への一歩として今後の拡大が見込まれます。

サステナブル時代の「防縮」「テンション」。メーカー現場での新潮流

環境対応型の防縮加工

従来の防縮加工には大量の水や薬剤、高エネルギーが必要でしたが、近年は環境規制が強まり「エコ加工」への転換が進んでいます。
水消費量を抑えたスチーム式プレシュランク、非化学物質を使ったバイオ加工の導入例も増えています。
これにより、環境に配慮しつつも高品質なTシャツを製造できる環境が整いつつあります。
欧州など意識の高いバイヤーからは、むしろ「環境型工程」の有無がサプライヤー選定基準になる例も増えています。

縫製テンションの可視化と自動化

工場自動化(FA)やIoTの進展とともに、縫製テンションコントロールも多品種少量生産に対応できるよう進化しています。
たとえば、テンションセンサーと連動したAI画像解析で糸の張り具合・仕上がり状態を自動判定するシステムです。
データ蓄積によって「最適なテンション値」や「作業者ごとの違い」が即時に分析でき、人依存からの脱却を加速させる動きもあります。

バイヤー・サプライヤー双方向の意識変革

バイヤー目線で見るべき「真の品質指標」

防縮加工や縫製テンション管理がいかに進化しても、実際の品質評価は使う側で決まります。
バイヤーとしては「見た目」や「価格」だけでなく、「洗濯後の寸法安定性」や「シワの発生頻度」などの実使用データに着目する姿勢が重要です。
最近では、生産現場からの「寸法変化率」など客観的指標を入手し、改善依頼やリスク管理に積極的に活用している企業もあります。

サプライヤーとして取るべきアクション

一方でサプライヤーの立場では、こうした品質管理情報や加工プロセスの「透明化」が求められています。
現場でのチェックシート化、自社開発の防縮実験結果やテンション管理レポートの提出など、データを見せられる体制づくりが競争力強化へ直結します。
「昭和的な職人技術」から「データで証明する品質管理」へのアップデート。
これが今後のサプライチェーンでの勝敗を分けるポイントになるでしょう。

工場現場・管理職目線での「今、できること」

Tシャツに代表される日常アパレルの価値は、見た目やブランドだけでなく「長持ちして使いやすいこと」に集約されます。
防縮加工も縫製テンションも、その成果は日々の地道な改善の積み重ねから生まれます。

管理者の立場で意識したいのは、現場スタッフへの工程教育と、マニュアル・デジタル双方の活用です。
たとえば「なぜここではこのテンション値を維持すべきなのか」「どの加工がなければどんなクレームに直結するのか」をしっかり伝え、意識を高めます。
同時に自動化・IT化を躊躇なく取り入れていくことが、今後の品質アップ・省人化につながります。

まとめ―昭和アナログから次世代製造業へ。

Tシャツという日常アイテムですら、防縮加工や縫製テンションひとつで快適性・長持ち度・見栄えに大きな差が生まれます。
歴史のあるアナログな現場力と、データ・デジタルで進化する新たな製造力。
この「良いとこ取り」がこれから目指すべき方向です。

バイヤーを目指す方も、サプライヤーの立場でバイヤーの考えていることを知りたい方も、「防縮加工」と「縫製テンション」の本質を見極め、時代に合った現場力で差別化をはかる――これこそ令和の製造業が目指すべき新たな地平線だといえます。

現場から、未来の製造現場へ。
一人ひとりが現場眼と数字眼をもって挑戦し続けることが、世界の“ものづくり”をリードする力に変わるはずです。

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