投稿日:2025年12月3日

市場クレームの再現ができず原因追求に苦しむ現場の本音

はじめに──「再現できないクレーム現象」と現場の葛藤

製造業において、顧客からのクレーム対応は避けては通れない重要な業務です。

なかでも現場を悩ませるのは、「市場で出た不具合が社内で再現できない」というケースです。

これは生産部門、品質管理部門、調達、バイヤーといった幅広い人々が頭を抱える問題でしょう。

再現ができなければ、再発防止も原因究明もできず、モヤモヤとした不安だけが現場に残ります。

本記事では、再現できないクレーム対応で現場が直面する課題、本音、そして業界の「昭和的体質」が根強く残る背景まで、プロの現場目線で徹底解説します。

バイヤーを志す方、サプライヤーとしてバイヤーの視点を知りたい方にも、実践的なヒントになる内容をお届けします。

市場クレームとは?─現象の“再現性”がカギを握る

市場クレーム発生の現実

市場クレームは、納入した製品や部品が市場・顧客先で不具合を起こし、メーカーへフィードバックされる現象を指します。

工場出荷時には問題がなかったはずの製品が、ユーザー環境でトラブルを引き起こすことで、バイヤーやメーカーへ報告が届きます。

調査報告を求められた現場では、まず「現象が自社内で再現するか」を最初のステップとします。

現象を再現できれば、原因究明もロジカルに組み立てることが比較的容易ですが、往々にして「症状が実機レベルでしか出ない」「一部の顧客だけ」「再現条件が不明」などの難解なケースも珍しくありません。

再現できない場合の現場の苦悩

不具合の再現実験を何度も繰り返しても現象が出ない。

顧客から預かったサンプルでも、社内検証では不具合痕跡すらつかめない。

このような状況は、調達購買や生産管理、品質管理担当者の士気を大きく下げる要因となります。

一方、「明確な原因報告を顧客に提示しないと受け入れてもらえない」というプレッシャーも。

その狭間で現場はジレンマを抱えています。

現場はなぜ再現重視?昭和時代から続く“現象主義”の落とし穴

昭和的な「現象主義」と現代のギャップ

日本の製造業は“事実・現象ベース”の検証や報告を重視してきました。

古くからの慣習に従い、「現場で見る・触る・匂う」といった五感に頼る職人技も評価されてきた背景があります。

明確な現象再現ができなければ、「不具合は発生したが、どこが原因かわからない」とされ、調査が進まなくなるのが通例です。

しかし市場環境や完成品のシステム化、グローバルSCM(サプライチェーンマネジメント)など、ものづくりを取り巻く変化に対して、現象主義だけでは立ち往生する場面が増えてきました。

「完璧主義」も足かせに

日本の製造現場は、責任感の強さゆえに「100%の再現」「100%の原因究明」にこだわる傾向があります。

特にバイヤーサイドから「これは本当に解決できたと言えるのか?」という徹底した追求がなされ、現場は妥協を許さず調査に明け暮れます。

しかし現象が0.01%の確率でしか表れない場合、現場の人的・時間的コストが膨大になります。

それでも原因不明のまま幕引きをすることに強い抵抗が働くため、調査の長期化・形骸化・心理的な疲弊という課題が表面化します。

再現できない現象に挑むために-ラテラルシンキングのすすめ

斜め上の発想(ラテラルシンキング)で原因追及

再現できない市場クレームの解決には、従来の“縦割り的”なロジカルシンキングだけでは突破できません。

ときにラテラルシンキング(水平思考・斜め上からの発想)が必要となります。

例えば「組立工程には問題がなくても、その製品が運ばれる物流環境(輸送途中の衝撃・温度変化)が原因になっていなかったか」という視点。

あるいは「顧客が想定外の使い方をした」「システム全体で他部品との相互作用があった」など、自社の技術領域外、もしくはバリューチェーン全体の動きを俯瞰して仮説を立てることも有効です。

3現主義から5現主義への進化

従来の現場「3現主義(現場・現物・現実)」に「現象」「現地」を足して、より幅広い視点で現象解明にあたるアプローチが増えてきました。

「現象」:どんな変化・異常・症状が起きているかを全方位から捉える

「現地」:国内外問わず、実際の市場や顧客環境での使用状況を徹底的に調査

このような多角的アプローチが、再現困難な市場クレームの糸口をつかむカギになることがあります。

対策のヒント:現場の工夫と実践例

多角的な情報収集と「仮説と検証」の反復

再現の難しい現象に対しては情報の“量”と“質”の確保が大切です。

納入先での製品保管・流通ルートや、ユーザーの使い方録画・聞き取り調査、現場作業員のヒアリング、関連部品の過去トラブルとの関連性など、関係者を巻き込んだ徹底的な情報網羅が重要です。

仮説を複数立て、ひとつひとつ丁寧に検証していくプロセスも欠かせません。

また、「どうしてもわからなかったが、ここまでの調査からこの範囲まで原因を絞り込めた」「これだけの再現試験を重ねたが発現しなかった」など、現時点での到達点を丁寧に説明・可視化することもクレーム解決の一歩となります。

IOT・センサー活用の新潮流

伝統的なアナログ業界でも、IOTやデジタル技術による「未然防止型」の事例が増えています。

例えば製品にセンサーやログ機能を追加し、異常が起こったとき自動で状況データを収集する仕組み。

トレーサビリティを強化し、不具合が起きた瞬間の環境・履歴情報にアクセスできるようにすることで、現象再現できなくても原因推定の精度を格段に高められます。

こうした先端技術の導入により、「目に見えない不具合」へのアプローチ方法も変わりつつあります。

品質保証体制と客観的エビデンスの構築

「現象が再現できない=解決できない」ではありません。

再現できなかった事実自体を、工場出荷の品質保証システムやデータによって担保し、「製品設計上・管理上はこれだけの根拠で問題ない」と客観的エビデンスを伝える努力が肝要です。

バイヤー側も、「現象再現のために調査が長期化し、サプライヤーと不毛な押し付け合いになる」事態を避けるべく、ゴールイメージを明確に示し、現実的な対応方針を共有することが求められています。

現場目線での今後の提言

アナログ文化からの脱却、現場知恵との融合

昭和時代から続く「現象主義」と「納得解志向」は、日本のものづくりの強みでもあります。

しかし今後は、客観的なデータ・エビデンスの活用や、現象そのものに固執しすぎない柔軟な判断軸も重要です。

伝統の職人技・現場知恵は、IoT・DX(デジタルトランスフォーメーション)といった最先端の技術や情報と“掛け合わせる”ことで、さらに武器になります。

そのバランス感覚を組織全体で磨いていく必要があります。

バイヤー・サプライヤー・ユーザーの三位一体で“問題解決型SCM”へ

一社だけで問題解決に挑もうとせず、バイヤー・サプライヤー・ユーザーが「現場のリアル」を率直に共有し合う。

そのうえで「真に納得できる解決策はなにか?」をチームで考える文化の醸成が今後のものづくりの進化に繋がります。

責任追及・忖度・タテ社会といった昭和的な構造から一歩踏み出し、“問題解決型SCM”として全体最適に取り組む時代です。

まとめ─再現できない現象と“向き合い続ける”ものづくり現場へ

市場クレームは現場の大きな負担であり、特に「再現できない現象」に直面した際の心労や挑戦は計り知れません。

しかし一方で、この難題にどう向き合うかが、現代日本のものづくり現場に突き付けられている問いでもあります。

現象主義からデータ主義へ、そしてチームワークやIoT・DXの活用を通して、「絶対再現」だけに縛られない、柔軟で現場に根付いた問題解決力を醸成していきましょう。

この取り組みが、アナログ文化が色濃く残る製造業界を、次の時代へ導く羅針盤となるはずです。

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