投稿日:2025年12月5日

CAD操作の得意不得意で設計速度に大きな差が出る現場のリアル

はじめに:設計現場の「CAD格差」が生む生産性の違い

現在の製造業において、CAD(Computer-Aided Design)の導入は当たり前となりました。
設計図のデジタル化により、設計の効率化やミスの削減が図られる一方で、現場では「CAD操作の得意・不得意」によって作業速度やアウトプット品質に大きな差が生まれています。
この現象は決して新しいものではありませんが、デジタル活用がさらに進む中、企業競争力の根本的な課題となっています。

本記事では、製造業の現場で実際に起こっている「CAD格差」の実態と原因、企業が採るべき対策、昭和から続く“人頼み”文化の課題、そして設計・調達・生産管理など複眼的な視点で、これからの設計現場の未来について深堀します。

CAD操作の得意不得意が明暗を分ける理由

1. 設計工程の根幹がデジタルツールに依存する時代

今や製品設計の9割以上はCADで行われています。
しかし、CADを使う設計者のスキルレベルは千差万別です。
実際の現場では、同じ設計要件を元にスタートしても、操作に習熟した設計者なら数時間でアウトプットできる仕事が、苦手な人では丸一日かかることも珍しくありません。

2. 設計速度がそのままリードタイム短縮・コスト削減に直結

設計業務の速度が上がると、当然ながら製品立ち上げのリードタイムが短縮されます。
それはすなわち、見積や調達、製造部門への引き渡しが速くなり、全体のサイクルがぐっと短くなることを意味します。
一方、操作が遅い設計者がボトルネックになると、その遅れがプロジェクト全体に波及します。

3. 設計以外の部門にも大きな影響

特筆すべきは、設計現場の「CAD格差」が調達購買、品質管理、生産管理といった下流工程にまで波及する点です。
設計が遅れる=図面や仕様書が遅れるため、サプライヤー選定や発注、品質の事前検討も後手に回りやすくなります。
“仕事の遅延連鎖”は現場全体の生産性を下げ、コスト増大にも繋がってしまうのです。

なぜCAD格差は生まれるのか?昭和から続く現場文化も要因

1. OJT頼みの人材育成と属人化

多くの現場に共通しているのが、「見て覚えろ、慣れろ、工夫しろ」といったOJT(On the Job Training)頼みの人材育成です。
本格的なCADトレーニングや継続的なスキルアッププログラムが整備されないまま、現場で場当たり的に運用され続けてきたことで、熟練者と経験の浅い人との「操作ギャップ」が固定化されてしまったのです。

2. “あの人に聞け”に頼る属人的な設計体制

例えば「3Dモデリングがサッとできるのは○○さんだけ」という状況は、どこの工場でもよく見られる光景です。
この属人的な体制は、設計者本人の退職・異動でノウハウが断絶するといった大きなリスクを孕みます。
また、新人や配転されたばかりの社員は「自分なりのやり方で何となくCADをいじっている」状態から抜け出しにくく、スキルの底上げがなかなか進みません。

3. 昭和的な「経験と勘」頼りの風土

製造業は伝統的にアナログ文化が根強い業界です。
“紙図面がないと不安”“データより現物が正しい”といったマインドは、今も現場に残っています。
CADで設計するにも、結局は「過去の紙図面や手描きのメモ」を参照したり、経験値に頼るアナログな工程が点在します。
その結果、「CADが得意な人・不得意な人」「古い流派・新しい流派」の間に壁ができてしまいます。

設計現場が抱える実践的な課題と解決の糸口

1. CAD操作マニュアルの未整備/形骸化

マニュアルの不在、もしくは「数年前に作ったまま放置、現場の実情と乖離している」ことがCAD格差の温床のひとつです。
属人的な操作方法や“自己流のクセ”がまかり通ってしまい、結果として業務標準化が進まないのです。
業者ごとにツールの使い方、データ管理ルール、図面出力フォーマットがバラバラでは、下流の調達・生産管理で混乱が起きやすくなります。

2. 隠れた「声かけ・助け合いコスト」の増大

熟練CADオペレーターが“教える側”に回ることで、自分の設計作業時間が減り、本来の設計タスクが進まなくなるという悪循環も少なくありません。
「ちょっとしたコツを現場で伝える」行為が増えれば増えるほど、全体の速度は下がってしまいます。

3. 新旧の設計思想の融合が進みにくい

新しい3D CAD操作やシミュレーション、クラウド共有などのデジタルツールは加速度的に進化していますが、「ベテランのノウハウ」と「若手の新技術」が十分に融合されていないケースが多いです。
古参社員が新たなツールにアレルギーを感じたり、逆に若手が“設計の勘どころ”を知らずにミスをするなど、ジェネレーションギャップが新たなトラブルの火種となることもあります。

現場力UP! 今日から始める実践的な対策

1. 定期的なCADリスキリング/スキルマップの作成

設計者一人ひとりのCADスキルを客観的に把握する「スキルマップ」を定期的に更新し、足りない部分は段階的なリスキリング(再教育)に取り組むことが有効です。
短時間でも月1回の勉強会や、実際の現場図面を使ったハンズオン研修など、地道な積み重ねが格差是正の第一歩です。

2. 手順書・操作動画の充実化による属人化の排除

紙のマニュアルだけでなく、業務ごとに「操作動画」「チェックリスト」なども整備することで、いつでも誰でも標準的なCAD操作を参照できる環境を整えます。
ベテランと若手が共同でTipsを出し合うことで、ノウハウの可視化・水平展開が実現しやすくなります。

3. クロスファンクショナルでノウハウ共有の場を作る

設計者だけの閉じた勉強会ではなく、調達・品質・生産管理・製造など、複数部門の視点を交えてCADノウハウを共有することが大切です。
例えば「調達部門が欲しい図面情報」「生産現場で役立つデータ形式」など、下流工程の現場ニーズを設計段階で吸い上げる仕組みを作ることで、全体最適につながります。

サプライヤー・バイヤーそれぞれの現場目線

1. サプライヤー視点:「設計図面から読み取れる“設計者の癖”」

図面の書き方やCADデータの添付内容、指示の細かさには、設計者の能力と“現場の文化”が色濃く反映されます。
「必要な情報が抜けている」「データ形式が統一されていない」場合、サプライヤー側は意思疎通に時間がかかり、品質トラブルにつながりやすくなります。
「誰が描いた設計図か分かる」と言われる現状は、まさに属人化の象徴です。

2. バイヤー視点:「設計速度と購買活動の連動」

設計スピードが発注・見積獲得時期を左右するため、バイヤーは設計部門に「もっと早く正確な情報が欲しい」というプレッシャーをかけがちです。
しかし、実際には現場でCAD格差による遅延が多発しています。
バイヤーが設計部門の苦労や業界のアナログな風土を理解することで、より現実的なスケジュール調整や課題解決につなげる対話が可能になります。

これからの設計現場:AI・自動化で進化する設計プロセス

1. AI CADや自動設計の波が到来

近年、AI技術を活用した「自動モデリング」や「設計ミスの自動検出」などのツールが登場しています。
今後はますます「誰でも一定レベルの設計ができる」世界に近づくと同時に、「人間の応用力・創造力」や「部門連携力」がより差になる時代が待っています。

2. 現場とデジタルの“共存戦略”がカギ

たとえ自動化が進んでも、装置や現場特有のノウハウ、顧客仕様対応など「人間ならではの判断力・現場合わせ力」は依然として不可欠です。
現場のアナログ力と最新技術をどう組み合わせて運用するかが、日本の製造業現場が「新しい地平線」に到達する試金石といえるでしょう。

まとめ:設計現場の地力を底上げするには

CAD操作の得意不得意が、設計現場の速度・品質のみならず、サプライチェーン全体の生産性を大きく左右しています。
OJT頼みの属人化文化から、標準化とナレッジ共有へ。
昭和的な“勘と経験”文化もデジタル時代にどう共存していくか――。

現場目線のリアルな課題を可視化し、部門横断・世代横断の改革を進めていくことが、これからの製造業(設計現場)の競争力向上につながります。
新たな時代の到来を現場主導で切り拓き、“強い現場・強い設計・強いモノづくり”を一緒に実現していきましょう。

You cannot copy content of this page