投稿日:2025年12月5日

配線スペースを軽視した結果、量産で配線が入らない致命的設計ミス

配線スペースを軽視した設計が量産時に引き起こす致命的な問題

製造現場で何度も痛感した「配線スペース」の重要性。
なぜ配線スペースを軽視すると、量産の段階で致命的な設計ミスにつながるのか。
今回は、製造業の現場視点でその本質に迫りつつ、現場ベースで根付くアナログ志向の落とし穴、そして今、業界が変わろうとしている兆しについて解説します。

配線スペースとは何か~単なる“余白”ではない

設計図面上の「空白」が現場を救うキモになる

配線スペースとは、設計図面上で配線・ハーネス・コネクタ・束線・配線固定具などを組み付けるために、筐体内部または盤内に確保する「物理的余裕空間」を指します。

この配線スペースは、単なる余白と思われがちですが、実際にはバイヤー・サプライヤー・生産技術・現場作業者・品質管理それぞれの視点すべてにインパクトを与えます。

設計段階でこの「余白」を軽視すると、量産段階で配線自体が収まらない、作業者の手が入りにくい、ハーネス同士の干渉・断線・ショートリスクが高まる等、後戻りのできないトラブルに直結します。

製品コストと品質の根源は設計初期段階の“スペース感覚”

製造現場で厳しく言われるのが「設計段階のスペース管理が甘い製品は量産に向かない」ということです。

理由は、製品コストの大半は設計初期段階でほぼ決まってしまうためです。
スペースをケチり、余分な部分をミニマイズした“省サイズ志向”が裏目に出ると、
・配線が物理的に収まらない
・後工程で無理な配線作業が発生する
・高密度配線による熱のこもり、信頼性低下
・現場の「手作業」が増え、人件費増、異物混入、工数膨張
・最悪の場合仕様変更や型改修で設計やり直し(=数百万~数千万単位の損失)
といった、取り返しのつかない損失が発生します。

なぜ、配線スペースが軽視されるのか~昭和の設計思想と現代のギャップ

“設計の勝手” VS “現場の現実”

私が長年工場長として現場を見てきて、設計部門と生産部門の間でおきがちな最大の溝は「設計部門が描く図面上の理想」と「現場で実際に作業するリアリティ」の大きな乖離です。

特に配線スペースに関しては、以下のような設計優先の思想が根強くあります。

・外観寸法の要求を最優先(例:顧客要求、設計試算会議でサイズ最小化を評点化)
・パーツ点数、コスト削減のため部品を詰め込みたい
・設計図には配線図をきちんと載せたつもりだが、立体的な作業スペースまでイメージしていない

こうした「紙の上の省スペース」が優先され、結果として現場では
「どこから配線を通したら良いかわからない」
「工具が入らない」
「コネクタと筐体が10mmも離れている(またはゼロクリアランス)で配線が刺さらない」
という“現場泣かせ”の製品が繰り返し生まれています。

“みんなで作る”がまだ根付かないアナログ体質

多くの製造業で今なお残るのが、部門間の「たこつぼ」体質です。
設計部が描いた図面を、製造部が後追いで修正・対応する……いわゆる“設計現場分離主義”は今も根強く残っています。

デジタルツールの3D-CADやシミュレーション技術が普及している現代ですら、設計部門が「配線スペースはまあ現場でなんとかなるだろう」と大雑把に捉えてしまう傾向が消えきれていません。

それは、設計部門が現場作業を実際に体験する機会が乏しいこと、「設計=アイデア、現場=実作業」と割り切る人員配置と評価制度、そして何より
「現場はどうにかする“ものづくり根性”」
に支えられているからです。

配線スペース設計の失敗事例~誰にでも起きる“現場の地獄”

失敗事例1:ライン停止を招いた筐体加工作業

私が実際に体験した事例では、医療機器の量産立ち上げ時、ハーネスの通し経路が設計図では綺麗に見えるものの、社内モックアップで実際に配線を通したところ、
「10mmのクリアランスでしかもコネクタの角度合わせができない」
「工具が斜めにしか入らない」
という状況に直面。

結果、数百台規模の生産立ち上げ時にすべて筐体の再加工と配線リカバリ作業が発生し、
「パーツ追加費用 + 作業応援増員 + 日程遅延」で莫大な損失が発生しました。

失敗事例2:品質検査工程で発覚した高密度配線の断線トラブル

また、別のFA機器メーカーでは、省スペース化を狙って配線用トレイのサイズを極限まで縮小。
結果として、本来配線が束ねて綺麗に収まる設計だったものの、実際の束線は太くなり、高密度配線によってトレイ内で配線同士が干渉。
初回量産品の出荷前検査で通電不良が連発し、原因追及のためすべて分解検査という地獄を見ました。

原因は、設計段階で「現物ハーネスを通してみる」という現場起点の検証を怠ったこと、配線サプライヤーとの情報連携不足、そして生産現場の作業動線を想定できていなかったことにあります。

バイヤー・サプライヤー・現場で役立つ「致命的ミスを防ぐ3つの実践策」

1. 設計初期から「現場モックアップ」またはデジタルシミュレーションを組み込む

設計段階から実際の配線を用いたモックアップ(試作組立)を必ず実施しましょう。

昨今では3D-CADによるデジタルモックアップや干渉シミュレーションも進化しましたが、現物検証を完全に代替するまでには至っていません。

特に
・現場作業員が実際の手順で配線を通す
・指示書通り手が届くか、工具が入るかまで確認する
という“リアルな作業検証”を設計立ち上げの段階から繰り返すことが、最も有効なリスクヘッジ手段です。

2. 配線サプライヤーとの事前協議、共同検証の徹底

配線、ハーネス、コネクタなどを手配するバイヤーの方、サプライヤーに対しては、
「寸法だけの評価」ではなく
「組付け時の作業性・安全性・束線仕様・曲げR・最小曲げ半径・ストレスポイント」
など、現場で起こりうる問題まで事前協議しましょう。

また、納入前評価として一次サンプルの組付け性評価、不具合情報のフィードバック、場合によってはサプライヤー現場の現地確認(GEMBA KAIZENの視点)も重要です。

3. リーン生産方式の導入と設計・製造部門の「壁」打破

設計と現場の壁を取り払うには、リーン生産方式やDFM(Design for Manufacturability)など、設計から製造性・保守性を徹底的に追求するプロセスを導入したプロジェクト運営が不可欠です。

定例会議でのクロスファンクショナルチーム(設計・購買・現場・品質管理)による事前チェック、仮組みワークショップ、不具合情報のオープンなフィードバックループ――
“みんなで作る”ものづくりの習慣を職場に根付かせることが、「スペースミス」による致命的損失を根本からなくす道です。

配線スペースを意識することで得られる本当の価値

工程効率UP=コスト削減&品質向上の好循環

しっかりと余裕を確保した配線スペースがもたらすメリットは、単なる作業性アップにとどまりません。

・配線工数の削減(作業スピード2倍以上・新人でも組み立てやすい)
・作業者のストレス低減による教育期間短縮
・品質リスク(断線・ショート・差し間違い)の激減
・保守・アフターサービス時のアクセス容易化
・製品トラブル発生時の診断性向上
・設計変更時の柔軟性(新機能追加・部品切替時の対応力アップ)

これぞまさに「お客様満足」と「現場満足」の両立です。

まとめ~もう“配線スペース”は軽視できない

配線スペースは決して無駄な余白ではありません。
設計段階で「ここにあと10mm追加しておけば……」という現場の声、そのたった10mmが数千万円単位の損失を防ぐことがあります。

皆さんが設計・現場・購買・サプライヤーのどの立場にあっても、「スペースの余裕=品質・効率・人のゆとり」を意識することが、ものづくりの未来を支えるカギとなります。

昭和から令和へ。製造業の現場も“アナログの知恵”と“デジタルの力”を融合させて、新たな地平線を開拓してまいりましょう。

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