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投稿日:2026年1月19日

ANSI B11が求める機械安全対策の基本

はじめに:ANSI B11とは何か

製造業に関わっている方であれば、「ANSI B11」という単語を一度は耳にしたことがあるかもしれません。
ANSI B11は、米国機械製造業界において策定された「機械の安全」に関する規格群であり、世界の工場の安全基準の柱ともいえる規格です。
日本をはじめとするアジアの現場でも、グローバル化の波に押され、この規格内容への理解と適応が必須となってきています。

現場での機械安全と聞くと、「最低限の柵やスイッチを付けておけば問題ない」と考えがちですが、ANSI B11が求める水準は、単なる“安全装置”の有無だけではありません。
現場の実態や運用状況、新技術との融合までを幅広く包括し、リスクベースでの安全管理が徹底されることを要件としています。

本記事では、20年以上の製造現場経験、調達・生産管理・品質管理・自動化の知見を持つ筆者の視点から、ANSI B11が求める機械安全対策の本質や、実際にはどのような点が現場で“ボトルネック”となるか、そしてアナログ的な体制が色濃く残る昭和的現場でどのようにアプローチすべきかまで、実践的に解説します。

ANSI B11の基本的な仕組みと背景

ANSI(American National Standards Institute)は、米国国家規格協会のことで、「B11」は主に産業機械の安全性(Machinery Safety)にフォーカスした一連の規格グループです。
この規格の構成は複数のサブパート(例:B11.0、B11.19など)から成り立ち、設計、製造、据付、運用、保守と、機械の“ライフサイクル”すべてにわたる安全対策を要求しています。

なぜANSI B11が求められるのか

・作業員の生命・健康の保護
・国際的な商取引の推進(グローバル調達・輸出入対応)
・生産停止や事故・損害による事業リスク低減
こうした理由から、現代の製造業にとって、工場設備や機械導入に際して“安全リスクの見える化”と“適切な対策”が決して他人事ではない時代に入っています。

ANSI B11の安全対策が指す要点

ANSI B11は、「危険源(Hazard)」と「リスク(Risk)」を区分して捉え、機械に内在する危険を“適切な対策で低減した状態”まで落とし込むことを強く求めています。

危険源の特定とリスクアセスメント

ANSI B11では機械毎に、どのような危険源(例:移動部の巻き込まれ、切断、はさまれ等)が潜在しているか、そしてそれに対するリスクレベルを可視化する「リスクアセスメント」が必須です。
単なる“危険箇所リストの記載”で終わらせるのではなく、
・作業者のアクセス頻度
・メンテナンス作業時の取り扱いパターン
・自動化設備と手作業のインターフェース部分 など
現場の“リアル”な視点で危険箇所をあらゆる角度から抽出します。
これには現場担当者だけではなく設計者、管理職、調達バイヤー、現場作業者、保全担当者ら多職種を巻き込んだチームアプローチが有効です。

許容可能なリスクレベルまでの低減

潜在的な危険源ごとに、ANSI B11では
1. 技術的な保護方策(囲い、カバー、非常停止装置、安全インターロック等)
2. 管理的な方策(安全手順、標準作業、教育訓練)
3. 個人用保護具(PPE)
この3ステップが「階層的(Hierarchy)」に求められます。

重要なのは、「このカバーがあればOK」ではなく、「最善の保護策が機械設計段階で盛り込まれているか」→「それでも残るリスクは現場でどんなオペレーションを通じて潰せているか」→「それでも対応が困難なリスクはPPE(個人用保護具)でカバーするしかない」という論理構成です。

製造業現場への具体的適用例・失敗例

現実問題として、現場にこの「階層的リスク低減」思想が完全に根付いている企業ばかりではありません。
特に日本の昭和的な製造の強みであった「職人の現場力」や「人の勘と経験」は一方で、機械安全という文脈では“暗黙知”や“思い込み”に足を取られる原因ともなります。

ここで、実際の現場でよく見かける失敗例、成功例を対比しながらご紹介します。

【失敗例】安全カバーを取り外して作業

たとえば、NC旋盤やプレス機の安全カバーが現場で「邪魔だ」と外され、露出状態で作業が続くことがあります。
その背景には「生産性(スピード)重視」「昔からこうしてきた」という思考停止も見られます。
ANSI B11の観点で言えば、一時的な生産効率向上は認められても「本質的なリスク低減」になっていません。

【成功例】人ごとの操作ミスを防ぐ安全設計

最近の組み立てラインでは「二重ボタン操作しないと機械が始動しない」インターロック式スタートボタンや、「蓋を開けると自動で停止する」安全スイッチが標準です。
作業者の意識に頼らず、「機械自体の論理回路(設計)でヒューマンエラーを防ぐ」という思想は、まさにANSI B11で強調されるリスク低減の本流です。

新しい地平線:リスクアセスメントの定量化とデジタル化

昭和的な現場管理が変われない最大要因は、「安全は数値化・見える化が難しい」という先入観です。
ところが、リスクアセスメントをデジタルで記録・管理できる専用ツール(リスクマネジメントシステム)が普及し始め、現場の安全管理も加速度的に進化しています。

リスクアセスメントの数値化

例えば、「発生頻度」「被害の重大性」「検出困難性」を数値化し、算出されたリスク優先度(RPN)で評価する方式は、ISO12100やISO13849だけでなく、ANSI B11でも推奨される手法です。
人間の主観に囚われない、「次に対応すべきリスクは何か」の羅列と優先順位づけが明確になります。

IoTやAIとの連携によるリアルタイム安全管理

自動化が進む現場では、IoT(センサ、カメラ)やAI画像解析によって「危険エリアへの立ち入り」「設備の異常状態」をリアルタイムに検知し、機械を自動停止させるシステム構築が現実味を帯びています。
バイヤー視点ではサプライヤー選定の際、「こうした先進的な安全機能を標準装備しているか?」が新たな評価ポイントともなっています。

Why – なぜANSI B11が今、製造現場で不可欠なのか?

製造業を取り巻く社会的な環境は大きく様変わりしています。
米国市場への進出やグローバルサプライチェーンの再編成に伴い、「現場の安全水準」が一企業・一工場を越えて、商取引やブランド価値を左右する時代です。

たとえば大手ユーザーや欧米系企業がサプライヤー監査に入った際、「ANSIやその他国際規格への適合性」を必ず問われるようになっています。
これからバイヤーを目指す方、サプライヤーの立場で取引先の期待値を満たしたい方にとって、ANSI B11の本質理解と自社現場への浸透は“最低条件”であり、差別化要素にすらなっています。

ANSI B11準拠のためのステップ

1. リスクアセスメント(現状分析)
2. 技術的・管理的・個人用保護の対策検討
3. 是正・改善案の実行(カバー追加、シーケンス変更、現場教育 等)
4. ドキュメント化と継続的なモニタリング
このPDCAサイクルを地道に繰り返すことが、結果として「事故ゼロ」「産業事故によるコストゼロ」へと近づきます。

まとめ:昭和からの脱却と新たな価値創造へ

ANSI B11が求める安全対策は、単に「装置を囲え」という旧時代的な命令ではなく、リスクを科学的・定量的に分析し、“全員参加”で現場を守ることに根本があります。
時代に置いてけぼりのままでは、グローバルな競争に勝ち残ることも、若手人材の定着も叶いません。
現場目線から始めるリスクアセスメント、その実践こそがベテランの「現場力」と「新しい管理」の最適解であり、次世代への価値創造に直結すると言えるでしょう。
今こそ、一歩先を行く現場に転換し、製造業全体の安全意識と競争力を高めていくことが、日本発ものづくりの新たな夜明けの一歩になるはずです。

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