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投稿日:2026年10月8日

サプライヤー行動規範の作り方——入れる項目、同意の取り方、違反したときの扱い

この記事のポイント(結論先出し)

サプライヤー行動規範は、自社の方針のうち仕入先に期待する行動を書き出したものである。政府の人権尊重ガイドラインは、人権方針に取引先への期待を明記し、調達指針などの手続に反映することを要件に挙げ、仕入先に行動規範に基づく自己評価を頼む例も示している[1]。作るときは、他社の文書を写さず自社の重点課題から項目を選び[1][2]、発注する側の約束(合意した数量・納期を勝手に変えない、など)も同じ文書に入れる[1]。同意は署名を集めて終わりにせず、確認の方法と違反時の手順(改善を求め、取引停止は最後の手段)まで決めておく[1]。遵守の確認のために費用や人手を仕入先に一方的に負わせると、取適法の不当な経済上の利益の提供要請の線にかかりうる[3]。

行動規範は「仕入先に何を期待するか」を書いた文書

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大手の取引先から「当社のサプライヤー行動規範に同意してください」と書類が届くことは珍しくなくなった。自社でも作ろうとすると、他社の行動規範を集めて項目を並べるところから始めがちだが、それでは自社が何を確かめたいのか、違反したときにどうするのかが決まらないまま、署名だけが集まる。

行動規範の位置づけは、政府の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(2022 年 9 月)を読むと分かりやすい。ガイドラインは、企業が表明する人権方針が満たすべき 5 つの要件として、経営陣の承認、社内外の専門的な情報・知見の参照、従業員・取引先などへの人権尊重への企業の期待の明記、公開と周知、そして人権方針を定着させるために必要な事業方針と手続への反映を挙げ、事業方針と手続の例として行動指針や調達指針を挙げている[1]。サプライヤー行動規範は、この「取引先への期待」と「調達指針」を一つの文書にしたもの、と考えると作りやすい。

人権デュー・ディリジェンス(自社と取引先での人権への悪い影響を見つけ、防ぎ、確かめ、説明する一連の取組)全体の進め方は調達で進める人権デュー・ディリジェンスの記事にまとめてある。この記事は、その中で使う行動規範という文書の作り方と運用に絞る。

作る前に決める 3 つのこと

1. 自社の方針との関係

行動規範は単独で作るものではなく、自社の人権方針や調達方針から出てくるものである。ジェトロの「ビジネスと人権」早わかりガイドは、人権方針に書くことが考えられる項目の例として、位置づけ(経営理念や行動指針との関係)、国際的に認められた人権を尊重する旨のコミットメント、適用範囲、期待の明示、人権尊重責任と法令遵守の関係、自社における重点課題、取組を実践する方法を挙げている[2]。行動規範の冒頭に「どの方針に基づく文書か」「どの取引先に適用するか」を書いておくと、後で改訂するときの拠り所になる。

2. 他社の文書を写さない

政府ガイドラインは、同業他社の人権方針を形式的な調整だけでそのまま自社の方針とすることは適切ではないと注記している[1]。行動規範も同じで、取引先から受け取った規範を下請けの仕入先にそのまま流すと、自社の事業に関係の薄い項目が並び、本当に確かめたい項目が埋もれる。どの国・どの工程・どの材料の仕入先にリスクがあるかを先に洗い出し、重点課題を決めてから項目を選ぶ。ジェトロのガイドも、ビジネスモデルを地域や業種の観点から分析し、特に取組が必要な人権課題を方針に明記することを勧めている[2]。

3. どこまでの仕入先に求めるか

ガイドラインのいう「サプライヤー等」は直接の取引先に限られない[1]。一方で、2 次以降の仕入先まで自社が直接同意を取るのは現実的でないことが多い。行動規範では、直接の取引先に守ってもらうことと、直接の取引先にその先の仕入先へ同じ内容を伝えてもらうことを分けて書く。後者は「伝える努力」なのか「同意を取る義務」なのかで仕入先の負担が大きく違うので、言葉を選ぶ。

入れる項目

人権・労働の項目は、ガイドラインが示す範囲が出発点になる。ガイドラインは、企業が尊重すべき人権として国際人権章典と「労働における基本的原則及び権利に関する ILO 宣言」の権利を挙げ、具体的には強制労働や児童労働に服さない自由、結社の自由、団体交渉権、雇用と職業における差別からの自由などへの影響を検討する必要があるとしている。ILO 宣言の原則には、2022 年 6 月の ILO 総会の決議で安全で健康的な作業環境が加わった[1]。

そのうえで、製造業の調達で使う行動規範の項目を、根拠の強さとあわせて整理すると次のようになる。右の列の「提案」は規格や法令の要求ではなく、実務での入れ方の提案である。

区分 書く内容の例 拠り所
人権・労働 強制労働・児童労働の禁止、差別の禁止、結社の自由と団体交渉権、外国人労働者の旅券を取り上げないこと 政府ガイドライン・ILO 宣言[1]
安全衛生 安全で健康的な作業環境、労働時間の管理 ILO 宣言(2022 年追加)[1]
法令遵守 所在国の法令を守ること。法令が人権の保護に足りない場合の考え方 政府ガイドライン[1]
環境・化学物質・品質・情報セキュリティ・腐敗防止 自社の事業に関係するものだけを選ぶ 提案(重点課題から選ぶ)
その先の仕入先 同じ内容を伝えること、どこまで求めるか 提案
情報提供への協力 自己評価への回答、照会があったときの期限と範囲 提案(自己評価は政府ガイドラインの例[1])
相談窓口 仕入先とその従業員が懸念を伝えられる窓口 政府ガイドライン(苦情処理の仕組み)[1]
発注する側の約束 合意した数量・納期を一方的に変えない、価格の協議に応じる、など 政府ガイドラインの措置の例[1]・振興法の振興基準の事項[4]

旅券の項目は、ガイドラインが措置の例として、技能実習生の旅券を保管していたことが発覚した場合に、サプライヤーにも取扱いの有無を確かめて違法であることを周知し、取りやめを求める例を挙げていることによる[1]。製造業の仕入先で外国人労働者を受け入れている現場では、抽象的な「強制労働の禁止」より、こうした具体的な行為を書いたほうが確かめやすい。

EU や米国の規制を意識して、強制労働の禁止と、当局や顧客から照会があったときの情報提供を規範に入れる場合の書き方は、EU 強制労働製品禁止規則の記事で扱っている。情報セキュリティの要求を仕入先に求めるときの線はサプライチェーンのセキュリティ対策評価制度の記事を参照してほしい。

「発注する側の約束」を同じ文書に入れる理由

行動規範は仕入先に守ってほしいことを並べる文書だが、ガイドラインは、自社が悪い影響を引き起こしたり助長したりしている場合の措置の例として、サプライヤーの生産設備や生産能力に基づく発注計画をサプライヤーと協議しながら立てること、事前に合意した数量・納期で発注し、サプライヤーの同意なしに数量や納期を変更しないことを調達方針に明記し、調達部門の従業員に定期的に研修をする、という例を挙げている[1]。短納期の発注や急な数量変更が仕入先の長時間労働を生むなら、原因は発注する側にある。

受託中小企業振興法に基づく振興基準も同じ方向を向いている。法律が振興基準に定める事項には、発注書面の交付その他の方法による発注分野の明確化と発注方法の改善、対価の決定の方法、納品の検査の方法その他取引条件の改善が入っている[4]。2026 年 1 月の改正で、中小企業同士など取適法の対象外の取引も、振興法による支援や指導・助言・勧奨の対象になった[5]。取適法の対象外でも、相手が自社より規模の小さい中小企業なら、発注の出し方は振興基準に照らして見られうる。仕入先に求めるだけの行動規範は、こうした発注側の責務の半分を書き落としている。

同意の取り方

行動規範への同意を得る形は、大きく分けて次の 3 つがある(ここからは実務の提案)。

1. 配布と周知
行動規範を公開し、取引開始時や改訂時に送る。署名は取らない。全ての仕入先に一律に届けられるが、相手が読んだかどうかは分からない。

2. 同意書(確認書)への署名
規範を読み、守ることに同意した旨の書面を返してもらう。誰が同意したかは記録に残るが、署名が集まっても中身が守られているとは限らない。

3. 契約に組み込む
基本取引契約書に、行動規範を守る義務と、違反があったときの改善の要求・解除の条項を入れる。ガイドラインは、取引先に自社の調達指針を守る義務を課し、不履行が確認されたら改善措置を要求でき、それでも守られない場合に解除できる、という規定を例に挙げている[1]。条項の置き方は基本取引契約書とはの記事、契約書の作り直しで印紙が要るかどうかは基本取引契約書の収入印紙の記事を参照してほしい。

どの形を選ぶ場合も、ガイドラインの注意は同じである。発注に当たって、契約上の立場を利用して取引先に一方的に過大な負担を負わせる形で人権尊重の取組を要求した場合、下請法(2026 年 1 月から取適法)や独占禁止法に抵触する可能性があり、要請する企業は取引先と十分な情報・意見交換を行い、理解や納得を得られるように努める必要がある、とされている[1]。署名を返さなければ取引を減らす、と受け取られるような送り方は避ける。仕入先から「この項目は自社の規模では対応できない」と返ってきたら、それ自体が話し合いの材料になる。

守られているかの確かめ方と、費用の線

同意を取った後は、確かめる段階に入る。ガイドラインは支援の例として、サプライヤー行動規範の内容に基づく自己評価を依頼して回答を評価し、評価が低かった項目について一緒に改善の方法を協議する進め方を挙げている[1]。自己評価アンケートの配り方、現地調査をどこまでやるか、費用を誰が持つかについてのガイドラインの考え方は、調達で進める人権デュー・ディリジェンスの記事の「自己評価アンケートと監査の使い方」と「仕入先に取組を求めるときの線」の節にまとめてある。ここでは、行動規範の文書の側で決めておくことに絞る。

一つ目は、自己評価の質問を行動規範の項目と 1 対 1 で対応させることである(実務の提案)。規範に「外国人労働者の旅券を取り上げない」と書いたなら、質問も「従業員の旅券を会社で預かっていますか。預かっている場合、本人が求めればすぐに返していますか」のように同じ行為を聞く。規範の項目と質問がずれていると、回答が良くても規範が守られているかは分からず、回答が悪くても規範のどの項目に反しているのかが言えない。項目ごとに確かめる方法(自己評価・書類の提出・現地での確認)を規範の別表として並べておくと、どの項目を現地で見るかを仕入先と事前に話し合える。現地での確認のやり方はサプライヤー監査のやり方、結果の点数化はサプライヤー評価の項目と点数化の記事で扱っている。

二つ目は、確かめるための費用と人手の分け方を規範か契約に書くことである。取適法は、委託事業者が中小受託事業者に自己のために経済上の利益を提供させて、その利益を不当に害することを禁じている(第 5 条第 2 項第 2 号)。公正取引委員会のテキストは、代金の支払とは独立して行われる金銭の提供や作業への労務の提供もこれに含まれるとし、負担額と算出根拠、使途、提供の条件などを明確にしないで提供させる場合は問題になるとしている[3]。第三者監査や認証の費用、監査に付き合う人手を仕入先に負わせるなら、何のための負担で、誰の利益になり、いくらで、どう決めたかを書面に残す(実務の提案)。

違反が分かったときの扱い

行動規範には、違反が分かったときにどうするかも書いておく。ガイドラインは、取引停止を最後の手段とし、まずは関係を維持しながら影響を防止・軽減するよう努めるべきだとする一方、国家の関与によって実態を確認できない場合や、企業の力では影響を防止・軽減できない場合には、取引停止も検討する必要があるとしている[1]。取引停止を急がない理由は、人権デュー・ディリジェンスの記事の「契約に入れる条項と、取引停止の位置づけ」の節で説明した。行動規範に書くときは、場面ごとに対応を段階に分けておくと、仕入先も自社の担当者も迷わない。

場面 行動規範に書く対応 拠り所
違反の疑いを知った 事実を確かめるための情報提供を求める。期限を決める 提案
違反が確認された 改善措置を求め、計画と期限を合意する。必要なら支援を話し合う 政府ガイドライン[1]
改善が行われない 契約の定めに従い解除を検討する(最後の手段) 政府ガイドライン[1]
国家の関与などで確認・改善ができない 取引停止を検討する。違約金などが生じる場合は契約の手順を踏む 政府ガイドライン[1]

違反の扱いを書くときは、取適法の他の禁止行為にも触れないように注意する。たとえば行動規範の違反を理由に、すでに発注した物の代金を差し引くことは、代金の減額として問題になりうる[3]。代金の扱いは行動規範ではなく契約と取適法の枠で考える。

改訂と記録

行動規範は一度作れば終わりではない。ガイドラインは、人権方針について、デュー・ディリジェンスの結果などを踏まえて必要に応じて改定することも有用だとしている[1]。行動規範にも版番号と改訂日を付け、どの仕入先がどの版に同意しているかを記録する(実務の提案)。改訂のたびに全仕入先から署名を取り直すのが重い場合は、改訂点を通知し、異議があれば申し出てもらう形にするなど、運用の手順を決めておく。技術情報やノウハウの扱いを規範に書く場合は、発注時の給付の内容になかった知的財産権やノウハウを含む技術資料を無償で提供させることも、不当な経済上の利益の提供要請として問題になる点に注意する[3]。提案の受け方と知的財産の線は仕入先からの VE 提案の受け方の記事で扱っている。

よくある質問

取引先から、その会社の行動規範への同意を求められた

受ける側では、規範の項目のうち自社で守れていないもの、確かめる方法が決まっていないもの、費用の負担が書かれていないものを洗い出してから返事をする。欧州の規制に基づく依頼の読み方はEU の CSDDD と日本の仕入先の記事にまとめてある。受け取った規範を自社の仕入先へそのまま流す前に、前述のとおり自社の重点課題で項目を選び直す。

仕入先が全部で数百社ある。全社から署名を集めるべきか

ガイドラインは、全ての影響に直ちに取り組むのが難しい場合は、深刻度の高いものから優先して対応するとしている[1]。行動規範の配布は全社に行い、署名や自己評価は、国・工程・取引額などからリスクの高い仕入先を先に選ぶ、という順番が現実的である。

小規模な仕入先から「この規範は守れない」と言われた

ガイドラインは、取引先に一方的に過大な負担を負わせる形で要求しないこと、十分な情報・意見交換をして理解と納得を得るよう努めることを求めている[1]。守れない理由が、規範の書き方なのか、相手の体制なのか、こちらの発注の仕方なのかを分けて聞く。発注の仕方が原因なら、直すべきは自社の側である。

まとめ

サプライヤー行動規範は、自社の方針から仕入先への期待を書き出した文書で、他社の文書を写すのではなく重点課題から項目を選ぶ[1][2]。発注する側の約束も同じ文書に入れ[1][4]、同意の取り方・確かめ方・違反時の手順まで決める。確かめるための費用や人手を仕入先に一方的に負わせないこと[3]、取引停止は最後の手段であることを[1]、規範の本文に書いておく。

出典・参考資料

  1. 責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン(参考資料 Q&A を含む)(ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議/令和 4 年 9 月・厚生労働省掲載)
  2. 「ビジネスと人権」早わかりガイド(日本貿易振興機構(ジェトロ)/2024 年 1 月)
  3. 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
  4. 受託中小企業振興法(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
  5. 取適法・振興法(公正取引委員会)

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