投稿日:2025年12月24日

制御盤内腐食がトラブル頻発につながる理由

はじめに ― なぜ今「制御盤内腐食」なのか

製造業の現場では、設備の安定稼働が絶対条件です。

その心臓部ともいえるのが「制御盤」。
制御盤は各種センサーやアクチュエータ、PLCなど、工場の神経系ともいえる装置群を制御し、ひとつでも具合が悪くなれば即、設備停止や品質トラブルを招きます。

昨今、IoTやスマートファクトリーなどが叫ばれ、工場の自動化と情報化は著しく進化しつつあります。
しかし、一方で現場では「昭和」から抜け出せないアナログ管理や長年の慣習がいまだ色濃く残る分野が存在します。
制御盤もそのひとつであり、「とにかく正常に動くこと」「壊れたら修理・交換」という発想から抜け出せていない企業も多いのが実情です。

本記事では、制御盤内の腐食がどのようにトラブルを引き起こすか、その根本的な理由や、アナログ的な管理ゆえの問題点、そしてバイヤーやサプライヤー目線の実践的な対策も交えて、現場経験に基づいて深く掘り下げて解説します。

制御盤の役割と、現場で何が起きているか

制御盤は機械設備の心臓部です。
そこには回路ブレーカ、リレー、PLC基板、各種接点、配線端子台といった重要部品が収められ、それぞれが絶妙なバランスで協働しています。

現場には数十年以上稼動している「レジェンド盤」も多数存在します。
定期的な更新が困難で「とりあえず延命」で済まされる場合が少なくありません。

そして制御盤の置かれる環境は工場ごとに異なり、油煙、湿気、振動、粉塵、薬品ミストなど多様なストレスにさらされ続けています。
それでも何十年も「動いて当然」「壊れたら直せばいい」で見過ごされてきたのが、腐食・劣化問題なのです。

腐食が制御盤にもたらすリスク ― 見えない敵の真の怖さ

制御盤内腐食の主犯は「湿度」と「浮遊成分」

制御盤内の腐食の根本原因は、電気的な部品が湿度や空気中の化学成分(塩分、硫黄化合物、塩素ガスなど)に長期間さらされることです。

例えば、食品工場では洗浄水や塩分成分の多い空気が侵入しやすく、化学工場では樹脂ガスや酸性ミスト、機械工場では金属粉や切削油ミストなど、環境ごとの腐食因子が多彩です。

これらは扉の隙間や配線貫通部などからじわじわと盤内へ侵入します。
そして制御機器の電子基板や端子台、単なる配線の接点までも時間をかけて蝕んでいきます。

腐食がもたらす直接的なトラブルの例

腐食が進むと、以下のようなトラブルが発生します。

– 端子や配線の接触不良
– リレー・コンタクタの動作不良(開閉できない、チャタリング)
– 誤信号・誤動作(ノイズ混入、短絡など)
– PLCやセンサー回路の異常
– ヒューズやブレーカの溶断

たとえば、端子台の接触部に酸化膜が形成されると接点抵抗が増大し、過熱や焼損につながります。
初期には一時的な誤動作として現れますが、次第に恒常的な不良、そして最悪の場合は数百万円規模の設備故障・生産停止になることもあります。

また、厄介なのは腐食の進行が「見えない」「なぜか再現しない」点です。
端子台や基板上の微細な腐食は目視点検が難しく、偶発的に接触が途切れたり復活したりする「不定期・突発型トラブル」となって、現場担当者を悩ませます。

なぜ腐食トラブルが「頻発」するのか ― 昭和の壁とアナログの罠

「壊れてから直せばいい」文化の落とし穴

昭和から続くアナログ文化が根強い現場では、メンテナンスは「壊れてから直す」のが一般的でした。
制御盤の点検といえば、端子の増し締めや目視点検、それと定期的な拭き掃除程度。
問題が発生しても「たまたまだろう」「次は大丈夫かもしれない」と先延ばしされがちです。

しかし現代の製造ラインは工程間の連携や自動化が進み、「1つの設備停止=ライン全体の停止・数千万規模の損失」につながりかねません。
腐食の進行を見抜けないまま、突発停止や品質不良が頻発する構造になっているのです。

点検・監視の難しさ ― IT・IoT導入の盲点

IoTやセンシング技術の導入が進んでも、制御盤内部の「接点の腐食」や「部品内部の劣化」を自動で検知するソリューションはまだ少数派です。

特に中小企業や老舗工場では、長年使ってきた設備にITセンサーを後付けするのは費用面でも技術面でもなかなか進みません。
これが、腐食によるトラブルが「なぜか何度も」「局所的だが頻繁に」発生する根本要因となっています。

バイヤー・サプライヤーの立場で考える「腐食リスク管理」

バイヤーの視点で抑えておきたいポイント

調達・購買部門としては、制御盤納入時の「腐食対策仕様」をしっかり押さえることが重要です。
製造現場が「とにかく壊れなければよい」という思考から「安定稼働・品質ファースト」へと進化するなら、以下のチェックポイントが不可欠です。

– 盤筐体の防塵・防水等級(IP規格)を現場環境に適合させる
– 耐腐食性ケーブルグランド、防滴パッキンの使用
– 盤内の除湿ユニット(ペルチェ素子、乾燥剤)の設置
– 内部部品の耐環境グレード指定
– サージ保護や絶縁強化、部品の表面処理などの仕様付与
– 定期点検・交換周期の明確化

コストだけで選定・発注すると、後から制御盤内部の無数の端子部品やリレーが「意外にも腐食に弱い」もので設計され、数年でトラブル多発する恐れがあります。
機能仕様ばかりに目が行きがちですが、「腐食リスク」への投資こそが真のコスト削減につながるのです。

サプライヤーが意識すべき「バイヤーの隠れた要望」

制御盤メーカーや部品サプライヤーの立場としても、納入現場ごとの環境リスクを的確に把握し、腐食トラブルを未然に封じる工夫が評価ポイントとなります。

– 顧客先(設置場所)の環境ヒアリングを徹底
– コーティング実施、耐薬品性部品の提案
– 配線処理の標準化・誤配線・端子締付不良の防止教育
– メンテナンス性向上(掃除のしやすさ、ドレン機構)

導入後のクレーム対応コストを減らすためにも、初期段階から腐食対策を標準仕様として盛り込む価値があります。

バイヤーが本当に求めているのは「高性能・高機能」よりも、「突発トラブルのない安心・安定運用」であり、そこを制御盤の新規設計や提案時にストーリーとして伝えることがビジネスチャンスを広げます。

現場で今日からできる腐食対策 ― 実践5選

1. 盤内部の温湿度・露点管理

小型温湿度ロガーを制御盤内に設置し、一定期間モニタリングしましょう。
想像以上に「結露」状態になっていることが判明する場合が多々あります。
露点を下げるために除湿器・ヒーター・強制換気の検討が有効です。

2. 定期的な端子増し締めと接点クリーニング

目視点検だけでなく、接触部の増し締め、専用クリーナーによる接点清掃をルーチン化しましょう。
端子台やリレーの劣化・変色・サビはトラブルの予兆です。

3. 部品交換と設計見直しサイクルの短縮

「壊れるまで使う」から「耐用年数で計画的に交換する」考え方にシフトします。
古い盤は思い切って一部モジュール更新も検討できます。
見えない費用(突発停止コスト)を見える化すると、経営も動きやすくなります。

4. 環境に即した封止や塗装、カスタマイズ

現場の腐食要因に応じて、金属部品の特殊コーティングや樹脂化、端子へのグリースアップなども有効です。
サプライヤーと積極的に協議し、現場ごとの最適仕様を検討しましょう。

5. 担当者の教育と情報共有

制御盤トラブルが多発する現場では、ともすれば「運用担当だけの責任」「一時的な現象」と片付けられがちです。
チーム全体で腐食・劣化について知見を共有し、点検・報告体制を強化することで再発を未然に防ぎやすくなります。

制御盤の腐食対策は「攻め」のコストカット策

「とりあえず今は動くから問題ない」という油断が、重大トラブルの温床になっています。
制御盤内腐食は地味で目立たない問題ですが、実は工場停止や多額の損失も引き起こす非常に本質的なリスクなのです。

バイヤーは長期視点で「安定稼働」のための腐食リスク低減に投資することが、トータルコスト削減、そしてバリューチェーン最適化にもつながります。
サプライヤーは現場環境やバイヤーの潜在的ニーズをつかみ、「腐食ゼロ」へのソリューション提案が今後ますます評価されることでしょう。

これからの製造業に求められるのは、ITやAIだけでなく、こうした地味な「現場の見えないリスク」の徹底排除です。
古き良きアナログと最新技術の融合、そして地道な改善活動こそが、日本のものづくりを次世代へ進化させる原動力となります。

制御盤内の腐食対策、一度足元を見直してみてはいかがでしょうか。

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