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客先クレーム対応が社内政治に左右される厄介な実態

目次
はじめに:製造業における客先クレーム対応のリアルとは
製造業の現場で長く働いていると、さまざまな種類のクレームに直面します。
軽微な品質不良から、納期遅延、大きなリコール対応まで、その内容や規模は多岐にわたります。
しかし特に厄介なのは、「お客様へのクレーム対応が、品質改善や再発防止ではなく、社内政治によって大きく左右されてしまう」という実態です。
この問題は、現場で誠実に働く従業員やマネジメントだけでなく、バイヤーやサプライヤー双方に大きなストレスを与えます。
この記事では、あまり表に出ない、しかし現場では根深く存在している“社内政治”によるクレーム対応の実態について、20年以上の現場経験で得た知見をもとに解説します。
同時に、調達・購買、生産管理、品質管理、自動化推進などの各部門がどのように関与し、どんな力学のもとで“最適解”が歪められていくのか。
そして、アナログな昭和的体質が未だに残る現場で、どうやって健全なクレーム対応を目指せるかのヒントもご紹介します。
客先クレーム対応の理想と現実
理想的なクレーム対応プロセスとは
本来、客先クレームが発生した際には、原因の徹底究明と対応策の早期立案が最優先されるべきです。
客観的な事実収集から、問題箇所の特定、社内外への説明、是正・予防活動の徹底、それを確実にクローズまで持っていくこと。
この一連のサイクルがスムーズに回れば、サプライヤーとしての信頼も損なわれませんし、製造現場としてもその後の業務改善にダイレクトに活かせます。
また、これこそがバイヤー(調達担当者)側の求める対応でもあります。
現実にはびこる“社内政治”という見えない壁
実際の現場ではこうした理想はなかなか実現しません。
「社内のどの部門に責任があるのか」「誰が矢面に立つべきか」といった力学が生まれ、現場の議論が本質から逸れることが多々あります。
特に多いのが、以下のような状況です。
- 設計部が原因でも、生産現場や品質保証が尻ぬぐいをする
- 営業部門が顧客との関係悪化を恐れ、現場には無理な納期や無茶な方法で“収束”させようとする
- 管理部門が「これ以上トラブルを拡大するな」と圧力をかけ、根本原因追及より速報値や形式的な報告を優先する
こうした“社内メンツ”や“面倒ごと回避”が、現場の正しい判断を歪めてしまうケースを数多く見てきました。
なぜ社内政治がクレーム対応を支配するのか
責任回避と保身がもたらす負の連鎖
日本の老舗大手メーカーや、まだアナログ色の濃い現場では、「品質問題は現場のミス」という固定観念が根強く残っています。
たとえば設計の不備や調達部品の問題が明らかなのに、生産部門が「現場でなんとかしろ」と押し付けられる。
このような責任の押し付け合いは、真の問題解決を遠ざけ、現場の士気を削ぐ最大の要因です。
また、部門同士の力関係や、社内で強い発言権を持つ“キーマン”の意向により、情報が歪曲・隠蔽されることもあります。
「部長がこう言っている」「他案件で忙しいから後回し」などと、本来優先すべきクレーム対応が後回しになる現象もよく見かけます。
「お客様第一」が本当に機能しない理由
製造業の理念としては「お客様第一」「品質最優先」を掲げていても、現場レベルでは“組織防衛”が優先されがちです。
なぜこれほどまでにお客様第一の思想が形骸化しやすいのでしょうか。
その理由のひとつは、“評価指標”のあり方にあります。
品質や納期遅延の報告件数を“指標化”しすぎることで、「とにかく報告件数を減らす」=「不具合を隠すか大事にしないようにする」といった逆転現象が生まれます。
また、「社長にバレたら大変なことになる」という過度なトップダウン体質が、さらに現場の口を重くしてしまうのです。
事例から読む:客先クレーム対応が社内政治に振り回された実態
1. 顧客毎に“忖度”される対応の違い
大手自動車メーカーからのクレームには“即対応・役員まで同行”がルール化。
一方で小規模顧客、協力工場からのクレームは「形だけ」対応。
この差は“顧客の立場”だけで決まることがよくあります。
“偉いお客様は手厚く、そうでない場合は軽視”という体質は改善が進みません。
2. 部門間の綱引きで真因究明が迷子に
たとえば、組立工程の「部品不適合」が発端のクレームの場合。
調達部が「発注仕様書通りだからウチは関係ない」と主張し、生産現場が「設計にムリがある」と設計部へパス。
結果、全員が“防御モード”に入ることで議論は平行線、根本原因は闇に消えてしまう。
このパターンは、昔も今も繰り返されています。
3. 現場の“英雄”が理不尽な矢面に
明らかに上流部門(設計や調達)の責任であっても、現場の生産リーダーや品質管理担当だけが“謝罪役”として振り回されることがあります。
現場を熟知しているだけに実質すべての段取りや原因説明、顧客対応まで一手に引き受ける。
結果、業務負荷や精神的負担が増大し、離職やメンタル不調が発生する。
これもよくある構図です。
アナログ文化の壁と、現場力の限界
昭和的「根性論」に潜むリスク
日本の製造現場にはいまだに「現場の頑張りでなんとかできる」「ヒューマンエラーは注意すれば減る」といった昭和的根性論が色濃く残っています。
クレーム対応も「とりあえず現場で手を動かして早く収束」となり、対症療法に終始してしまう。
この文化が温存されている限り、現場は何度も同じ過ちを繰り返し、抜本的な改善にはつながりません。
デジタル化・自動化は万能ではない
一方、最近はIoTやAI、MESといった自動化・DX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みが増え、「システムで客先クレームのトレースや情報共有ができるから安心」といった声も聞こえてきます。
しかし、現場を熟知している立場から言えば、それはあくまで「正しい運用」「誠実な情報開示」「人と人の納得感」が担保された場合に限ります。
デジタルツールを使いこなせない“アナログの壁”と、システム導入で自己保身的な動きが強まる“新たな社内政治”が同時に進行している工場も珍しくありません。
現場から変革を起こすための視点
バイヤー・サプライヤー双方に求めたい“本音対話”
バイヤーもサプライヤーも、“人対人”の信頼関係がクレーム対応の根幹です。
形式的な連絡や表面上の謝罪だけでは、わだかまりは解消できません。
お互いが「本当はどこに落としどころがあるか」「なぜこうなったのか」という腹を割った対話を持つことが大切です。
とくにサプライヤーの現場担当者には、遠慮せずバイヤーに“本音”で改善案や現場の課題を伝える勇気を持ってほしい、というのが筆者の本音です。
それが、誤魔化しや責任転嫁による組織間不信を乗り越えるカギになります。
“自分ごと化”できる現場風土をつくろう
最も理想的なのは、「クレーム発生=誰かのせい」ではなく、自分たちの仕事をより良くするチャンスと捉える“自分ごと化”の風土をつくることです。
そのためには、現場の声が正しく会社全体に届き、経営層から現場までが「なぜ失敗したか」「どうすれば再発防止できるか」をしっかり咀嚼・納得できる情報開示とディスカッションが欠かせません。
それにはミドルマネジメント層やリーダーの意識改革がカギとなります。
まとめ:いま、クレーム対応現場からの変革が求められる
日本の製造業には「現場の力」と「現場の知恵」があります。
しかし、長年のアナログ文化や、社内政治に振り回される現場のリアリティから目を背けていては、いつまでたっても「真の顧客満足」「世界に通用する品質改革」は実現できません。
バイヤーとして悩んでいる方、サプライヤーの現場で孤軍奮闘している方、そして製造業マネジメント層の皆さん。
クレーム対応を“社内メンツ”や“忖度”で解決する時代は終わりです。
現場発の知見を互いにオープンにし、勇気を持って本音をぶつけ合いましょう。
そこから、一歩ずつ真のものづくり改革が始まるはずです。
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