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工程内検査が属人的になりやすい構造

目次
はじめに:工程内検査の属人化とは何か
工程内検査とは、製造プロセスの各段階で製品や部品の品質を確認し、不良品の流出を防ぐための重要な活動です。
しかし、現場ではこの工程内検査が「属人的」になりやすいという問題に長年直面しています。
属人的とは、特定の個人の技術や経験、勘に依存して検査の精度やスピードが大きく左右されてしまう状態を指します。
この属人化はなぜ起こるのでしょうか。
そして、それがもたらすリスクや課題、さらに打開策はどこにあるのでしょうか。
本記事では、製造業の現場で20年以上培った経験から、工程内検査が属人的になりやすい構造的な要因を掘り下げ、昭和から続く製造現場特有のアナログ文化、時代に即した改善の方向性までを、現場目線とバイヤー目線の両方から分かりやすく解説します。
属人化を生む“現場構造”のメカニズム
スキル伝承の曖昧さと職人気質
日本の製造業では「現場力=ベテランの経験」といった構図が強く根付いています。
長年勤め上げた熟練検査員の目視や触診、音、さらには手の感覚に頼る検査手法は、不良発生の抑制に大きな役割を果たしてきました。
しかし、職人芸と言われるこれらのノウハウの多くは、標準化されることなく“暗黙知”として個人に蓄積されがちです。
現場でのOJT(On the Job Training)は機能するものの、文書化やデータ化された明確な基準や手順書は後回しにされやすい傾向があります。
また、口伝や「見て覚える」文化が根強く残る現場では、異動・退職などによるノウハウの流出も大きなリスクとなります。
この結果、検査精度や工程の安定性が特定個人に依存し、属人化のスパイラルが生まれやすくなるのです。
設備・工程ごとのバラツキとアナログ管理
製造工程と一口に言っても、現場や工場ごとに使われている装置・ラインの設計やレイアウト、製品仕様、ロットサイズ、そしてマニュアルの有無など状況は多岐にわたります。
統一基準が作りにくい中小規模工場や、手作業工程が多い職場では、検査項目や記録方法も手書き・口頭指示で済まされる場合が目立ちます。
例えば、目視検査の良否判断や寸法測定の合否判定、部品の傷・汚れの認識範囲など、記録が残りにくい部分ほど検査担当者の主観や個人差に左右されやすくなります。
更に、これらの工程管理が紙ベースやローカルなExcelで管理されていれば、複数作業員間での情報共有やナレッジ蓄積・引き継ぎも困難を極めます。
現場の人手不足・人材流動性の高まり
近年は人手不足や高齢化によって、製造現場への新規人材の確保や定着が大きな課題となっています。
未経験の若手や派遣社員・パートタイマーなど、現場を頻繁に出入りする人材構成になりやすく、きめ細かな検査基準の理解や熟知には時間がかかります。
育成期間の短縮、即戦力化志向の高まりと、現場のスピード感が求められる中では、現実的には「とりあえずベテランに頼る」体制が常態化せざるを得ません。
この状況も属人化に拍車をかけています。
属人化がもたらすリスク・弊害
製品品質のバラツキと不良流出
属人的な検査体制が続くことで、最も大きなリスクは製品品質のバラツキと不良流出です。
熟練者は高い精度で不良を見抜けても、経験の浅い作業者や代替要員では見落としやカウントミス、軽微な不良の合否判断にバラつきが生じやすくなります。
万一検査をすり抜けた不良品が顧客へ流出した場合「なぜ見逃したのか?」との追及に対し、個人の責任範囲やあいまいな基準ばかりが問題視され、現場の信頼が大きく損なわれてしまいます。
現場負担と士気低下
属人化した検査業務は、その分特定個人への過度な業務負担やストレス増加を招きます。
「〇〇さんがいないと現場が回らない」といった事態に陥ることも少なくありません。
また、曖昧な基準のまま検査を任されることへの不安や、「上手くやらなきゃ」というプレッシャーがモチベーション低下の一因にもなりえます。
業界のアナログ文化とDX推進の壁
工程内検査が属人化している現場では、今後せっかくデジタル技術やAI検査、自動化システムを導入しようとしても「現場のやり方と合わない」「ベテランの目にはかなわない」という抵抗感が強まり、DX(デジタル・トランスフォーメーション)推進の大きな壁となります。
業界全体の生産性向上やグローバル競争力強化にも研究の余地が多く残されている分野です。
打開策:新しい地平線を目指して
“現場知”の形式知化と見える化
まず取り組むべきは、長年現場で培われてきたノウハウ・判断基準を「形式知」として誰もが再現できるようドキュメント化・データ化することです。
例えば次のような行動が効果的です。
– 熟練者の作業動画や検査判断の思考過程を撮影・記録し、若手や補助作業者と共有する
– 検査項目ごとの合否事例写真やチェックリスト、パターン別の判定フローを簡易マニュアル化する
– 日誌や検査帳票の電子化により、作業者ごとの検査結果を容易に比較できる仕組みを整える
このように現場知を「見える化」することが属人化解消の第一歩です。
“誰でもできる”検査標準化とサポートツール
次に重要なのが、検査工程の標準化です。
合否判定基準や判定ロジック、測定器具の取り扱い方までを、具体的な手順書やロジック図として落とし込むことで、「誰がやっても同じ判断ができる」仕組み作りを推進します。
最近では、AI画像認識や簡易測定機、テンプレートやガイド治具を活用し、「主観ではなく数値で判断」できる工程設計も進められています。
低コストのIoTセンサーやデジタルカメラを導入し、検査画像を即座にクラウド共有、ベテランと新人が同じ画面を見ながら判断のすり合わせをする、といった先進事例も出てきています。
“現場巻き込み型”の改善サイクル
属人化解消には、現場作業者自身が改善の主体であるという意識づけが不可欠です。
トップダウンではなく、現場の声を吸い上げたボトムアップ型改善活動で、現場のベテラン・若手が一体となり“新しいやり方”を試行錯誤する場づくりが求められます。
品質改善サークル活動やQC(Quality Control)活動、小集団活動を積極的に活用し、検査方法・記録方法を現場レベルで見直す、失敗事例を全員で共有するといった取り組みが有効です。
ITツール導入や新システム切替の際にも、現場代表を巻き込んで検証・評価を進めることで、納得感あるDX推進が実現しやすくなります。
“多能工化”とプロセス自動化の両輪で
今後の製造業においては「人の多能工化」と「プロセス自動化」の両輪での生産体制が求められます。
属人化打破のためには、特定検査員だけでなく複数人が検査業務をこなせるよう、多能工人材の育成・ローテーション化も重視しましょう。
さらに、単純判定や数値測定部分は極力自動化・センサー化を進め、人が面倒を見る工程は「最終判断」や「例外対応」「システムの監督」に集中させるやり方が有効です。
設備投資や環境整備がハードルだと感じる場合は、まずは工程分析や業務分解を徹底し、「どの検査が人依存で、どこなら自動化できるか」を明確化するところから着手してみてください。
バイヤー・サプライヤー双方のために:要求品質と現場力の共栄
バイヤー(購買)の目線で重要なのは、サプライヤー選定時に「検査体制が属人的でないか」「標準化・仕組み化はどこまで進んでいるか」をきちんとチェック・評価することです。
工程標準や記録類、教育訓練体制、異常時の対応力までを事前にヒアリング・現地確認しましょう。
また、サプライヤーの立場としては「うちはベテランに頼り切っています」と正直に話すだけでなく、「今後は標準化・自動化に力を入れ、安定供給と品質向上に努めます」と将来像を明示することが、良好な取引継続に繋がります。
双方が現場力の強化とシステム化のバランスを意識し、建設的なコミュニケーションを深めることが、持続可能なサプライチェーン構築に不可欠です。
まとめ:新しい製造業の価値へ
工程内検査が属人的になりやすい構造は、単純な現場の怠慢や意識の問題だけでなく、日本のものづくり現場が長年培ってきた“職人芸”や“現場知”に起因する部分が大きいです。
しかし、今後グローバル化やDXの波が押し寄せる中で、属人化の弊害を打破し、「誰でも高品質な製品が作れる」仕組み作りは業界共通の急務です。
標準化・デジタル化・多能工化・現場巻き込み型改善など、さまざまなアプローチを“ラテラルシンキング”で複合的に組み合わせ、新しい現場力・検査力を追求しましょう。
私たち現場経験者が率先して変革の旗振り役となることこそ、これからの製造業発展のカギとなるはずです。
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