投稿日:2025年10月25日

中小製造業がマーケティング視点を導入するための顧客体験マップ作成法

はじめに:中小製造業にマーケティング視点が必要な時代

かつて製造業は「品質が良ければ売れる」「価格を下げれば勝てる」という時代が長く続いていました。

しかし、市場の成熟やグローバル競争の激化により、単に良いものを作れば売れる時代は完全に終わりを告げています。

今こそ、マーケティングという視点を本気で現場レベルにまで落とし込み、顧客志向で経営の舵取りを行うことが求められています。

しかし、日本の中小製造業の多くは昭和時代からの下請け構造、属人的な営業ノウハウ、アナログ的な情報管理から脱却できていません。

この固定観念を打ち破る鍵のひとつが「顧客体験マップ」の作成です。

本記事では、製造現場で20年以上歩んできた私の体験も踏まえ、「現場でも即活用できる顧客体験マップの作成法」に迫ります。

顧客体験マップとは何か?製造業における本質的意義

顧客体験マップの定義と、その効果

顧客体験マップ(カスタマージャーニーマップ)とは、顧客が製品やサービスと接する一連のプロセスを時系列で「見える化」したものです。

「どんなきっかけで商品を知り、どのように情報収集し、購買や導入、アフターフォローに至るのか」、といった顧客の行動や感じる課題、不安、満足ポイントを絵や図、ストーリーボードとして表現します。

これにより、自社の内側の論理ではなく「お客様が実際に何をどう感じ、どこでどう迷っているか」を多角的に把握し、改善や新規提案、差別化戦略に直接反映しやすくなります。

顧客体験マップが製造業に与えるインパクト

多くの製造業では、現場ごとの最適化や“いつものやり方”が優先され、全社的な視点で「顧客にどんな価値を届けているか」を考える時間や機会が非常に限定されがちです。

顧客体験マップは、現場部門から営業、調達、設計、品質保証、トップマネジメントまで、「顧客体験」という共通言語を持つことで、断絶された部門間の意識を一体化する効果ももたらします。

さらに、デジタル化・自動化が叫ばれる昨今、アナログで属人的になりがちな業務フローを、俯瞰してデジタル連携につなげるための基礎資料としても役立ちます。

顧客体験マップを導入すべき3つのシグナル

自社の課題として、以下のようなことに心当たりはないでしょうか。

  • 見積もり依頼から受注までやたら時間がかかる・失注理由がよく分からない
  • 客先や現場からの「こんなこと、もっと早く知りたかった」という声が後を絶たない
  • 営業以外の現場部門が「自分たちが誰のため、どんな価値を届けているか」を実感できていない

これらは、マーケティングや顧客体験を意識しない組織にありがちな問題です。

これらのシグナルがひとつでも当てはまるなら、顧客体験マップを取り入れることでムダや機会損失を大幅に改善できる可能性があります。

顧客体験マップ作成の5ステップ:製造業向け実践マニュアル

ステップ1:メインの「顧客像(ペルソナ)」を定める

最初は自社の一番のターゲット顧客を明確化します。

例えば、バイヤー(購買担当者)、技術者、経営者クラス…実際の名字や顔が浮かぶくらい具体的に「モデル顧客」を設定してください。

「資材バイヤー歴10年、品質重視、毎朝まずメールで情報を収集…」等、そのリアリティが、その後の議論の精度を高めます。

ステップ2:顧客の全体プロセスを「見える化」する

下請け型の場合でも、以下のような流れを図にして整理しましょう。

1. 問題・ニーズ発生
2. 情報収集・比較検討(ネット、展示会、口コミなど)
3. 打ち合わせ・見積もり依頼
4. 納期・価格・提案の調整
5. 発注・納品
6. アフターサポート・改善要望

この一連の流れを時系列で線にし、各ポイントで顧客側が「何を知り」「何に困っているか」を吹き出しや表で付記します。

ステップ3:現場の“暗黙知”を徹底ヒアリング

現場・営業・設計・品質・調達それぞれのメンバーに「実際のお客様が困った事例」や「うまくいった事例」を洗い出しましょう。

ここが昭和型組織とデジタル型組織の分岐点です。

単なるアンケートではなく、リアルな現場エピソードや「たった一言のヒアリングから大口受注につながった」などの生きた経験を集めてください。

その体験こそ、競合他社に真似できない自社だけの価値となります。

ステップ4:障壁やジレンマ、業界特有の“沼”ポイントを可視化する

製造業の現場には、現場独自のジレンマや“理不尽な商習慣”が多々存在します。

たとえば、

  • 「担当者が変わると見積もり評価基準が毎回変わる」
  • 「品質保証書は出せるが、“本当は現場ではそんなデータ取っていない”が通例」
  • 「口頭指示優先で、結局なぜか図面や仕様書が古いまま進行する」

こうしたポイントを“沼ポイント”としてマップ化しましょう。

これこそ中小製造業の生きたノウハウであり、改善余地の宝庫なのです。

ステップ5:小さな改善ポイントを全社で1つ実行する

マップのゴールは「全体を一気に改革すること」ではありません。

関係部門で1つ、「ここを変えてみよう」という小さなアクションをまず試してみましょう。

たとえば「見積もりから納期確定までのメールテンプレートを統一する」「打ち合わせ議事録を2時間以内に必ず送信する」などです。

小さな成功体験が次の現場変革のエネルギーとなります。

顧客体験マップ作成による“現場力”の向上

「現場から顧客起点へ」意識改革がもたらすメリット

属人的な現場では「営業がすごい」=「優良客が来る」「困りごとを電話1本で何とかしてくれる」と、暗黙の信頼関係や職人気質が前面に出ます。

これは美徳である反面、個人依存しすぎると、組織の総合力・再現性が高まりません。

顧客体験マップによって、

  • 何が顧客の満足/不満足ポイントか
  • 自社の強み・弱みがどこにあるか
  • 誰がどのタイミングで「バトン」を受け取り、渡しているか

が一目瞭然になり、部門ごとに責任感と改善意識が高まります。

これをきっかけに、調達・生産管理・品質管理・現場の連携も強化され、「ウチの現場は何のために進化するのか?」という経営の問いに全員で向き合える環境が生まれます。

昭和からの脱却と、デジタル時代の中小製造業マーケティング

顧客体験マップは、単なる流行のマーケティング手法ではありません。

「現場・作業員・職人だけが知っている知見」「営業のすごい個人技」「昔からのアナログなやり取り」を、全社で“見える化”し、競争力に変えるための起点です。

特に中小製造業では、デジタルマーケティングどころか「HPへの問合せは紙でプリントアウト、FAXで担当者回覧」などの実態が根強く残っています。

ここを、“自社の大きな伸びしろ”と前向きにとらえ、顧客体験マップをデジタル導入や業務標準化、「サプライヤーからバイヤーへの提案力強化」につなげるチャンスにしてください。

まとめ:顧客体験マップが中小製造業にもたらす「カイゼン文化2.0」

中小製造業がマーケティング視点を導入する最大の鍵は、“現場に根差した本当の顧客の声”を業務改善・事業戦略・人材育成へつなげることです。

顧客体験マップはそのための羅針盤です。

昭和のやり方を否定する必要はありません。

むしろ、現場が蓄積してきた職人気質や顧客への“気づかい”をデジタルデータや共通言語に落とし込み、若い世代や他職種でも価値を理解しやすくする。

それが、令和の中小製造業が生き残り、飛躍するための新しいカイゼン文化だと私は考えます。

顧客体験マップの作成、ぜひ現場からトライしてみてください。

そして自社唯一の価値を社内外に発信し、より強い競争力づくりを目指しましょう。

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