残業を強いる管理職が令和世代から見限られる実態

はじめに：令和世代が求める職場とは

かつて製造業の現場では、「残業は成長の証」「遅くまで働くのが当たり前」という価値観が根深くありました。

しかし、社会は大きく変化し、令和世代をはじめとする若い世代は、働き方に対する考え方が大きく異なっています。

本記事では、製造業現場における残業文化の歴史的な背景と、その背景が現在も根強く残る要因に触れながら、なぜ今「残業を強いる管理職」が若い世代から見限られているのか、現場目線で実践的に解説します。

バイヤーを目指す方や、サプライヤー側の方がバイヤー心理を理解できる内容も織り交ぜ、今後の業界動向と新しい働き方についても掘り下げます。

現場に根付く「昭和的」残業文化のルーツ

経済成長期の美徳から続く「長時間労働」の遺産

高度経済成長期の製造業現場では、納期至上主義や現場密着の価値観が浸透していました。

トラブルが発生すれば現場に張り付いて解決し、遅れた工程は現場全体で残業して穴埋め。

こうした体制が当たり前とされ、管理職に昇進するためにも率先して残業する姿勢が評価されてきました。

私も入社当時、現場の先輩や上司から「人の倍働け」「葛藤も汗も経験値だ」とよく言われたものです。

属人的オペレーションとアナログ管理の弊害

当時の多くの日本の製造業は、紙帳票や口伝、経験と勘に頼ったオペレーションで進んでいました。

特定の作業や調達工程がその個人の経験値や職人気質に依存し、「自分が残らなければ回らない」と考える管理職も少なくありませんでした。

こうした属人的な運用やアナログ手法こそが、長時間労働が当たり前という土壌を生み出してきたのです。

なぜ令和世代は「残業ありき」を拒絶するのか

合理性・効率性を重んじる新しい価値観

平成末期から令和にかけて、デジタル技術が急速に進歩しました。

データ可視化、工程の自動化、ITによる調達管理などにより、「時間をかけて頑張る」より「短時間で成果を出す」方が合理的と捉える若手が増えています。

彼らは「残業をすればするほど評価される」という価値観に違和感を持ち、無駄・非効率なフローを見直そうと積極的に提案します。

ワークライフバランス実現への社会的要請

1990年代後期以降、働き方改革や政府主導の長時間労働是正が進み、製造現場も例外ではなくなりました。

「仕事のために人生を犠牲にする」という旧来の価値観から、私生活や家族・趣味も大切にするワークライフバランス重視の傾向が主流になっています。

このような時代背景の変化に対応できない管理職が「見限られる」対象になっているのです。

現場で起きている“すれ違い”の実態

残業を“美徳”とする管理職と、“ムダ”と捉える現場

管理職クラスには「手間を惜しまない姿勢こそ後継者育成だ」「昔はよかった」という昭和的精神を維持しがちな層が一定数存在します。

一方で、若手や中途で入社した多様なバックグラウンドの人材は「その残業、誰のため？」「意味の無い会議や報告のために残っている」と率直に違和感を表明します。

このギャップがエンゲージメント低下や、優秀な若手の離職へとつながっています。

現場自動化が進む中での管理職の新たな役割への適応

AIやIoT、RPAなど工場の自動化が進む今、管理職には新たな役割が求められています。

工程監督や日々の叱咤激励から、データを基にした工程改善・意思決定、人事・育成の領域へとシフトしつつあります。

しかし、現場に残る旧来型管理職がこの転換に適応できず「昔ながらの残業指導」で部下に無理を強いるケースも散見されます。

バイヤー・サプライヤー双方に求められる意識変革

バイヤーが見ている「サプライヤーの働き方」

バイヤーは、品質やコストだけでなく、サプライヤーの「健全な労働環境」や「持続可能な運営体制」にも注目する時代になりました。

納期遵守のために恒常的な長時間残業を強いているサプライヤーは、リスク源と見なされる場面も増えています。

逆に「効率的な生産」「デジタル管理による無駄削減」などを実践している企業はビジネスパートナーとしての評価が高まります。

生産性向上と残業削減に向けて取り組むべき施策

生産現場では、IoTを活用した状況把握、工程標準化、設備の自動化などが生産性向上のカギとなります。

一方、調達購買部門では、サプライヤーマネジメントや納期管理のデジタル化、得意先との連携強化を進めることが重要です。

どちらもアナログ時代の「根性論」から「サイエンスと論理のマネジメント」への転換が不可欠です。

令和時代の管理職に求められる条件とは

「精神論」から「仕組みで解決」への移行

ビジネス環境が目まぐるしく変化する現在、「気合や根性」だけで付加価値を生み出すことは難しくなっています。

残業を減らしながら成果を上げるには、仕組みと現場のDX化の推進、工程全体の見直し、KPI運用の合理化が求められます。

管理職は、組織風土改革の旗振り役として、「部下の時間をどう守り、どう成長させるか」という視点で行動する必要があります。

多様な働き方を受け入れるマインドセット

若手の多くはリモートワーク、フレックス導入、副業容認など多様なワークスタイルを志向しています。

こうした変化に柔軟に対応し、成果で評価し、個性を伸ばすマネジメントこそ、これからの管理職像です。

ベテラン管理職が「自分の当たり前」を壊し、部下一人ひとりの価値観と向き合うことができるかが、見限られないための分岐点となります。

現場改革の最前線事例

アナログ現場で始まった実践例

例えば、熟練者でも時間外勤務が常態化していた検査工程で、工程分析とIoTセンサー、AI画像認識導入による検査自動化を実施した企業事例があります。

属人化していたチェック工程を標準化することで、残業時間が削減され、検査担当者は工程改善やデータ解析など、「より価値の高い」業務にシフトできました。

意識改革のためのコミュニケーション重視

また、とある大手サプライヤーでは、「上司自らが率先して定時退社」「無駄な残業を発生させる仕組み・文化を見直すための現場ヒアリング」を経営層が主導。

時間をかけて「なぜ残業が生まれるのか」「どうすれば減らせるのか」を現場起点で議論し続けたことにより、従業員の意識と生産性双方が大きく改善しました。

まとめ：令和世代とともに新しい製造業を創るために

残業を強いる管理職が見限られる背景には、時代の変化と現場の切実な声が存在します。

製造業界全体がこれまでの“根性論”や“属人的運用”から抜け出し、データとロジック、柔軟な働き方を受け入れる体制構築が不可欠です。

バイヤーも、サプライヤーも、生産を担う現場従事者も、みな「持続可能な働き方」と「高い生産性」という新しい価値観と向き合う時代。

管理職の皆様には、まず自身の価値観のアップデートと、“脱・残業文化”への率先実行が強く求められています。

ひとり一人のチャレンジこそが、製造業の未来を明るく照らす力になるはずです。