投稿日:2025年12月10日

誤配送が減らない本質的な組織構造の問題

はじめに ― なぜ誤配送がなくならないのか?

誤配送は、製造業において古くて新しい課題です。
デジタル化や自動化が進んでも、現場の悩みは尽きず、「根本的な原因は何なのか?」と議論され続けています。
単に“ヒューマンエラー”や“確認不足”で片付けられがちですが、20年以上現場に携わってきた私から見ると、誤配送の背景には組織構造や企業文化など、もっと深い問題が横たわっています。

この記事では、調達購買、生産管理、品質管理、工場の自動化といった分野で得た実体験をもとに、誤配送が発生し続ける本質的な組織構造の課題を掘り下げていきます。
さらに、現場の改善に取り組むみなさんや、これから製造業に携わる方が何を意識すればよいのかを、ラテラルシンキング(水平思考)の視点から提案します。

誤配送の現場 ―「またか」の原因はどこにあるのか

見過ごされがちな微妙な“ずれ”

誤配送の現場に大きなミスの要因があると思われがちですが、実際には小さな“ずれ”の積み重ねによって発生していることがほとんどです。
一文字の型番違い、僅かな納入日の誤認、伝票の自社名表記ぶれ…。
そしてこれらの“ずれ”は、組織の構造そのものと密接に関係しています。

私が現場でよく目にするのは、業務の「横割り」と「縦割り」がもたらす責任の希薄化です。
部門別の業務分掌が整備されているほど、部分最適に陥りやすく、
「自分の業務範囲外は関知しない」「確認しなくても手順通りならOK」
といった“無関心の連鎖”を生みます。

アナログ文化と属人的運用が温存される理由

近年、多くの現場で自動化やデジタルトランスフォーメーション(DX)の波が押し寄せていますが、
一方で昭和時代から変わらない「紙伝票運用」「ハンコ文化」「口頭伝達」「職人技への依存」が根強く残っています。

その理由は、
・“変えること自体への抵抗感”
・“システムより現場の経験と勘が大事”という空気
・“改善提案が組織の壁を超えにくい”
など、多面的な要素が絡んでいます。
このような文化が、結果的に「ヒューマンエラーの温床」となり、
誤配送がなくならない原因となっています。

本質的な組織構造の課題

部門間コミュニケーションの欠落

最も大きな課題は、部門間の「タテ・ヨコ連携の断絶」です。
調達、購買、生産管理、物流、現場作業者、品質部門など、それぞれにKPIや目標があります。

しかし、例えば調達部門はコストと調達リードタイムを重視し、物流部門は配送効率を優先、品質部門は検査基準の厳守を使命としています。
そのため、部門ごとに「全体最適」よりも「自部門の最適化(部分最適)」が優先されやすいのが現実です。

この「サイロ化」(組織の縦割り固定化)が進むことで、隣の部門が何をしているのか、全体の目的は何なのかが共有されにくくなり、
・重要な情報が伝わらない
・小さな変更が共有されず、誤配送が発生
といった事象が多発します。

責任の所在が曖昧

誤配送が起こったとき、現場では「どこに責任があるのか?」が問題になります。
ここでよく見られるのが、「誰もが悪くない」と思える状態の発生です。
業務手順は守っていた、発注書類も提出した、システムも更新した…。
しかし、実際には“誰も全体像を見ていなかった”ためにミスが発生する。
これを私は「役割分担型無責任構造」と呼んでいます。

原因追及が「決まりを守ること」ばかりに目が向きがちですが、「本当にその仕組みやフローが有効なのか?」を疑う目が求められます。

形式的な改善活動が生む“自己満足”

多くの工場で毎月のようにヒヤリハットやQCサークル活動が行われていますが、本質的な変革に繋がっているのでしょうか。
むしろ「報告することが仕事」になり、「根本的な仕組み」を変えていくモチベーションや仕組みに欠けているところも多いのが実情です。

こうした雰囲気が、現場の“改善疲れ”や“思考停止”を呼び起こし、誤配送減少への根本的アプローチを阻害します。

誤配送ゼロへ――視点を変えるラテラルシンキング

「なぜこの業務があるのか?」を問い直す力

ラテラルシンキング(水平思考)は、既存の枠にとらわれずに物事の本質を探る思考法です。
誤配送削減に向けては、「なぜこの業務フローなのか?」「なぜこのチェック手順なのか?」をゼロベースで問い直すアプローチが極めて有効です。
“昔からやっているから” “慣れているから” “与えられた役割だから” という思考停止を乗り越え、本当に仕組みを変所できる同調圧力に抗う勇気が、組織全体の強さにつながります。

タテヨコを繋ぐ“壁打ち役”の必要性

現場改善の鍵は、部署の利害や指示系統に縛られず、複数部門の連携を促す「壁打ち役(ファシリテーター)」の存在です。
物流、調達、生産管理、品質、ITなど、異なる立場・価値観・目標を持つ部門の人々が“本音”で対話するための仕掛けが不可欠です。

例えば、「○○の件で、隣の部署に何を期待し、どう工夫すれば誤配送が起こらないのか」を現場ベースで一緒に考えるワークショップを設けるだけでも、部門間の理解や協働意識は大きく高まります。
壁打ち役に求められるのは、現場経験と客観的な視点を兼ね備え、感情的対立や責任逃れを超えて本質を引き出す力です。

現場発の「ボトムアップ変革」のすすめ

上位層主導のトップダウン型改善だけではなく、「現場からのジェネレーション」の力こそ、昭和的組織文化を変える原動力です。
“誰かが変えてくれるのを待つ”のではなく、協力し、疑問を持ち、提案し続ける現場力の再興が誤配送根絶の近道なのです。

分業体制の中でも「自分の仕事が後工程や顧客、社会にどうつながるのか」を常に意識すること――これが伝票の1枚、納品の1箱を扱う現場の誇りや責任感、「最後のバトンをつなぐ」覚悟に繋がります。

現場でできる実践的改善アクション

1. マイクロコミュニケーションの再構築

メールやチャット1本で済ませていたやり取りに、一言「これでOK?」と確認する、10秒でも顔を合わせて共有する。
“たったそれだけ”の確認に魔法のような効果があることは、現場を知る者であれば皆さん実感されているはずです。

特に新旧混じるアナログ環境では、「声をかけやすい」「相談しやすい」雰囲気づくりが誤配送予防の第一歩です。

2. 作業標準・チェックリストの本音見直し

形骸化しがちな作業手順書やチェックリストですが、
「これで本当に必要十分か?」を、現場の声を反映させて見直しましょう。

現実と乖離したルールは、形だけ遵守されて実質機能しません。
ポイントは、「これなら現場でも続けられる」「工数増やさずにエラーを防げる」もっともらしい“キレイごと”ではない、生々しいオプションを受け入れる柔軟性です。

3. データと直感の融合

近年はIoTやバーコード管理などデジタルシステムが普及していますが、システム頼みで「現場感覚」を疎かにしないバランスが大切です。

例えば「納期通りの納品が続いているときほど、大きなミスが紛れ込む」など、現場独自の“勘どころ”を定期的に棚卸しし、システム設計にフィードバックしていく。
データの裏にある現場知を“見える化”することが、根本的な安定化につながります。

サプライヤーやバイヤーに知ってほしいこと

仕入先・協力会社への「現場参画」のすすめ

バイヤーやサプライヤーの皆さんにも伝えたいのは、「自社だけで完結しない、現場に足を運ぶ重要性」です。
外注先や取引先、委託先の仕組みやオペレーションを肌で知り、現地・現物・現認「三現主義」の視点を持つことで、お互いの事情や強み・課題が分かり合えるようになります。

これにより、「なぜこういうトラブルが起きるのか」「どうやったら回避できるか」を共に探り、誤配送削減の連携が生まれやすくなります。

「責め合わず、向き合う」関係構築

誤配送発生時、互いに責任追及モードに陥りがちですが、根っこにある構造課題に共に向き合い、改善案を模索する「Win-Win構築」が大切です。
バイヤーであっても、「ベンダー管理」を一方的にするのではなく、パートナーシップの精神で改善を主導すれば、サプライヤー側も「自分ごと」と捉えて動きやすくなります。

まとめ ― 本質変革に本気で取り組むために

誤配送が根絶できない背景には、「組織構造のサイロ化」「部門間コミュニケーション不全」「責任の不明確化」「改善活動の形骸化」など、
一見地味ですが極めて本質的な問題が隠れています。

デジタル化・自動化の波に乗るだけでなく、
・部門や立場を超えた“本音対話”
・現場視点と水平思考を取り込む改善活動
・作業者一人ひとりが「つなぐ」「守る」自覚
これらを積み重ねることで、真の誤配送ゼロ、そして製造業の「昭和の壁」突破が近づいていきます。

すぐに答えや秘策が見つかるテーマではありませんが、現場で悩み、気づき、挑戦し続けてきた皆さんだからこそ、必ず現状を打破できるはずです。
ともに考え、実践し、新たな製造業の未来を切り開いていきましょう。

You cannot copy content of this page