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スタートアップがエンプラ提案で価格より価値を伝えるための定量ストーリー設計

目次
はじめに――価値訴求の壁を越えるスタートアップの挑戦
エンタープライズ、いわゆる大手製造業企業への提案――。
スタートアップやベンチャーにとって、その扉を開くことは決して容易ではありません。
とりわけ調達購買や生産、技術部門で長年根付いた意思決定プロセスでは、いまだに「価格重視」「前例踏襲」が根強く残っています。
しかし今、デジタル時代の波に乗る若い企業が新たな価値を見出し、独自のプロダクトやサービスで大手企業を支援し始めています。
このとき、「価格による割安感」だけで勝負するのは非常に危険です。
なぜなら「安かろう悪かろう」は昭和からの不文律として現場に深く染みついており、「安さ=リスク」だと受け止められるためです。
それでは、スタートアップはどのように「価値」を伝え、価格を超えたストーリーで大手企業に響く提案を設計すべきでしょうか。
本稿では、製造業現場の知見と実務経験にもとづき、スタートアップが取るべき「定量ストーリー設計」を具体的に解説します。
なぜ製造業は「価格勝負」に陥るのか
現場主導の購買意思決定と「価格幻想」
製造業の購買現場に根付く文化の一つに「失敗しないこと」があります。
目新しい提案は「リスク」と見なされがちです。
そのため、「他社も使っている」「とにかく安い」という要素が安易な採用理由となります。
アナログな評価基準が残る大手ほど、「価格競争に巻き込まれる」構造ができてしまっています。
コストダウン要請の本質と現場の課題感
毎年恒例の「コストダウン要請」。
多くのメーカーでは、調達購買部門に現場改善以上の削減目標が課せられています。
その課題も手伝い、目先のコストだけに目が行きがちです。
実際には、納品遅延や品質不良、トラブル対応など、「見えにくい総コスト=TCO(Total Cost of Ownership)」が多大な影響を及ぼすにもかかわらず、「見積もり金額」だけが比較されている現実があります。
「価値」を伝えるストーリーがなぜ重要なのか
バイヤーは「リスクヘッジ」というフィルターで見ている
現場サイドや調達購買は、「何かあった時に説明責任を果たせるか」という視点で提案内容を評価します。
よって、目先の経済合理性だけでなく、「それを選んだことで、どんなリスクを防ぎ、どのように現場や事業に貢献するのか」を明確に伝える必要があります。
定量化された「価値」は最大の武器
「御社のプロダクトを使うと、ここが便利です」「競合より高機能です」では通じません。
現場が自らのKPIや業務プロセスに落とし込める「定量ストーリー」を用意することで、現場とバイヤーの共感を得られます。
たとえば、
・この工程で、毎回30分かかっていた調整が5分になる(年間労務費換算)
・納品不良率0.01%改善で、歩留まり向上→廃棄ロス○○万円削減
・トラブル対応工数の前年比▲%短縮
こうした「数字の裏付け」があれば、価格を超える「業務価値」として相手に刺さります。
ストーリー設計の極意1――業界現場に刺さる「課題設定」
「現場ヒアリング」で言語化されていない課題を可視化
実際の業務現場には、「日々仕方なくやっている非効率」や「いつものやり方だから…」という暗黙の課題が山ほど眠っています。
スタートアップがこれを置き去りにして、プロダクトの魅力だけ語っても響きません。
例)
・紙ベースの指示書管理に2人/日かかる(DXで半減できる)
・ベテランの勘頼み工程がボトルネック(可視化で自動化可能)
現場担当者、バイヤー、場合によっては品質保証や生産技術部など、広くヒアリングして「言語化されていない困りごと」を定量化しておくことが第一歩です。
「3つの層」で課題を設計する
1. 目先の課題(直接のコスト・工数)
2. 中長期の課題(品質、トレーサビリティ、供給安定性)
3. 企業全体の課題(サステナビリティ、人手不足対応、法対応等)
1→2→3と連続するストーリー設計により、現場担当者、管理職、経営層すべてで納得できます。
ストーリー設計の極意2――「目に見える価値」「つかめる数字」
プロダクト特徴→現場アウトカム→定量化という順序
多くのスタートアップは、自社サービスや製品の「技術的な先進性」や「独自機能」ばかりを訴求しがちです。
実際の製造現場で重視されるのは「それによって現場がどう変わるか」「何が、どれだけ良くなるか」です。
たとえばAI外観検査なら、
・検査時間が10分→2分
・判定漏れが年間100件→10件に減
・結果、年間で100万円分の工数と100万円分の廃棄損が削減
というように、現場のオペレーションに直結した「数字」として示すことが強い説得力となります。
ユーザーインタビューやPOC結果の活用
パイロットユーザーやPOCで得られた実測値を、グラフやベンチマークで明確に示しましょう。
「導入前→導入後」として、導入効果が一目で分かる資料は経営層にも刺さる材料です。
また、既存の導入企業データがなければ、自社で実証実験やテストフィールドを作り、それを第三者目線で「実データ」として伝えるのも有効です。
ストーリー設計の極意3――「価格以外」で競争するための工夫
「課題解決+αの未来」を描く
価格競争に巻き込まれる提案ではなく、そのサービスやプロダクトをきっかけに現場が「どんな未来をつかむことができるか」まで設計しましょう。
たとえば、
・人手不足で維持困難なラインの自動省人化→生産安定+工場拠点の維持につながる
・紙業務のDX化→現場スタッフのスキルアップ→離職率低減、求人コスト削減
「単に機能や価格でなく、中長期オペレーション改善→会社の競争力強化まで届ける提案」こそ、今の大手が本当に欲しいストーリーです。
サプライヤー側がバイヤーの立場をロールプレイする
「なぜその価格でなければダメなのか」「なぜ前例がないものを選ぶリスクが拭えないのか」。
両者のロールプレイを重ねることで、先回りした不安解消や、説得材料を準備できます。
特に、調達購買部門が上申する社内稟議用の「意思決定ストーリー」まで作り込むことで、社内決裁もスムーズになります。
最後に――今、製造業大手も「価格以外」の価値を求め始めている
日本のものづくり現場は、昭和の成功体験に根ざした「失敗しない文化」「前例こそ安心」の考え方が色濃く残っています。
しかし、デジタル化や人手不足、グローバル化の加速の中、「価格ありき」だけの提案は現場にとってもリスクになりつつあるのです。
今や経営層も、中長期競争力や持続可能性を強く求めています。
現場で定量化された「価値ストーリー」を武器に、スタートアップが新たな地平線を切り開く時代。
肝心なのは、値段の説得ではなく「現場・経営層が納得できる未来をどう描ききるか」に尽きます。
これまでの暗黙知、業界ならではの空気・社内事情を踏まえ、定量×ストーリーで本当に響く提案を設計しましょう。
製造業界の進化と新たな価値創造に向け、今こそスタートアップの力が問われています。
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