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設備停止が原因不明で“とりあえず再起動”が日常になる現場

目次
はじめに:なぜ現場では“とりあえず再起動”が常套手段になってしまうのか
製造業の現場で、「設備が止まった」と聞くと、最初に何をしますか。
多くの現場で見られるのは、「とりあえず再起動してみよう」です。
機械や設備が突然稼働しなくなったとき、原因調査や対策よりも先に、いったんスイッチを切って再度入れなおす。
そんなルーティンのような対応が蔓延しています。
この「とりあえず再起動」の背景には、業界特有の文化や現場の事情、そして技術進化とアナログな習慣の狭間で揺れる製造業ならではの事情があります。
本記事では、この現象に潜む課題と経営リスク、また脱却の糸口について、現場目線で徹底検証していきます。
あなた自身の現場でも直面しているであろう、日々の“あるある”を、今一度本質から見直すきっかけにしていただければ幸いです。
なぜ「原因不明の停止=再起動」という対応が定着したのか
昭和の現場文化が根強く残る日本の製造業
日本の製造業は海外と比べ、高度経済成長期の昭和的価値観や仕事の進め方が色濃く残っています。
設備や工程のトラブルが起きたとき、現場力・現場対応の柔軟さを誇りにする風土は今でも根強いです。
「まず止めるな」「できる範囲でやりきれ」が最優先され、細かい原因特定や論理的な分析よりも、スピーディーな復旧が現場の評価につながる。
そのため、細かなトラブルの原因まで突き詰める文化より、「いったん動かす」の判断が無意識に優先されがちです。
現場のプレッシャーと生産維持の最優先意識
納期対応や生産計画の厳守があまりにも厳しい現場においては、一分一秒のライン停止すら許されません。
トラブルが発生しても、「まずは動かせ」――そのプレッシャーがオペレーターや保全担当を無意識に追い詰めています。
専門家でも原因調査に時間がかかる装置異常。
「何が悪いのか分からないけど、とりあえず再起動して様子を見る」という姿勢になりやすいのです。
複雑化・ブラックボックス化する現場設備
近年の現場設備は高度化し、PLCやセンサー、ソフトウェア中心の“見えない部分”がどんどん増えました。
現場担当者は表示ランプやアラームが出ても、実際の不具合要因が分かりづらい。
マニュアルや図面の更新が追いつかず、頼みの綱はマイコンのリセットスイッチ。
「とりあえずリセットで直るなら…」という消去法の対応が日常化しやすい技術的背景も無視できません。
“とりあえず再起動”が現場にもたらす重大リスク
本質的な原因不明=“実はもっと大きな不良や事故の火種”
設備は、いきなり完全に壊れるわけではありません。
多くの重大トラブルは、小さなエラーや異常が前兆として現れています。
「再起動で一時的に治る」現象の多くは、根本の故障原因が残ったまま、潜在的なリスクが積みあがっている状態です。
再起動ですぐ復旧できるからといって、根本的な故障や劣化サインを見逃せば、ある日突然、重大事故や生産大停止となる危険が潜みます。
“現場の暗黙知”がブラックボックス化する弊害
現場ベテランから若手への“習慣伝承”が悪い意味で戦力化すれば、正しい修理・保全のノウハウが蓄積されません。
「この装置は3回に1回、再起動しないと動かないことがある」「このランプが点滅したら、リセットすれば一応動く」といった属人的な小技が横行すれば、組織全体として技術力も低下します。
結果、設備トラブル発生時の対処が局所最適、担当者依存となり、再現性や標準化が置き去りにされるリスクが高まります。
データ蓄積・改善提案の大きな妨げに
現代工場はIoTやFA(ファクトリーオートメーション)導入で「設備稼働データ」に基づく改善・効率化が求められます。
しかし、再起動によるその場しのぎ対応が常態化すると、「どんな異常が」「なぜ起こったのか」の記録データも蓄積されません。
これでは集約的なトラブル分析や、根本的なカイゼンにつながる手がかりが全て失われます。
短期的な生産維持の裏で、中長期的な競争力低下を招きかねません。
アナログ業界からデジタル化への移行を阻む“壁”
ペーパーレス化・自動監視の難しさ
理想としては設備の稼働異常やトラブル内容をリアルタイムで記録し、クラウド等に自動蓄積できる環境が重要です。
しかし、実際の現場では交換伝票やトラブルノート、巡回点検表など、昭和時代から続く紙の運用が根強いのも事実です。
設備異常の再発傾向・アラーム出方のパターン化など、データ活用の“入り口”すらできていない現場が多く、再起動で“トラブルをなかったことにする”行為がデジタル化を遠ざける最大の障害になっています。
現場技能伝承と人材育成のジレンマ
もう一つ大きな壁は、設備の仕組みを理解し的確に故障要因を特定できる人材の減少です。
昭和のモノづくり現場を下支えしてきた熟練工のベテランたちは、「音」や「振動」、「匂い」など五感で異常を察知し説明できました。
しかし今日の若手は多品種少量生産化やジョブローテーション、派遣・請負等の非正規化で「一つの設備と向き合い、根気強く仕組みを学ぶ時間」が取れません。
そのため、「分からなければ再起動で」というマニュアル的対応がより温存され、技能の伝承が断絶しつつあります。
バイヤー・サプライヤー両方で問われる“本当の稼働率”
設備停止を再起動で復旧した場合、現場では「ダウンタイムなし」にカウントする例が多いですが、これは大きな落とし穴です。
生産ラインの稼働率やメンテナンスレベルを評価するバイヤー、また自社工場の保全実績を報告するサプライヤー双方にとって、「実際はトラブルが頻発しているのにデータ上は優良」となり、決して正しい現状把握ができません。
納入側・受注側が“本当の現場実態”を共有できなければ、仕様見直しや改善策提案といった上流工程での本質的なバリュー創出が困難になります。
「とりあえず再起動」脱却に向け現場が取り組むべき10のこと
1. 再起動を“最後の手段”と位置付ける新ルールの策定
設備停止発生時の現場標準書やマニュアルを見直し、安易な再起動前に「異常内容の記録」「初期診断」の工程を明確化しましょう。
再起動はどうしても短時間で復旧しなければならない場合だけの“最後の切り札”に位置づけ、漫然としたルーティン化を断ち切る意識改革が重要です。
2. 設備トラブルの「現象」「操作」「結果」を必ずメモに残す
アナログ現場でも今すぐできることは、「何があったか」を手書きでも良いので必ず記録するルールを徹底することです。
できれば「現象(何がおかしい?)」「操作(何をした?)」「結果(どうなった?)」の3点セットで箇条書きします。
こうした記録が積み重なれば、後々のトラブル傾向分析や設備メーカーへのフィードバックに有用なデータになります。
3. “その場限り”から“チームで共有する”文化への転換
「自分の当番時しか異常を知らない」「昼勤・夜勤で情報が分断されている」といった状況は早期に改善すべきです。
トラブル記録や対応履歴をホワイトボードや掲示板、グループウェア等で分かりやすく可視化し、全担当者で共有しましょう。
属人化防止と異常再発の抑止力になります。
4. データ自動取得+簡易集計の小さなデジタル化から始める
大規模なIoT投資が難しい場合も、既存のPLCやHMI(タッチパネル)から稼働記録や異常履歴をUSBメモリ等で抜き出し、エクセルで簡単に集計することから始めてみましょう。
“どんな設備が”“いつ”“何回再起動しているか”を手作業でも明確化するボトムアップのデジタル化が、一歩目としてとても重要です。
5. 保全・オペレーターへの“機械の仕組み”教育
社員研修やOJTで、「なぜ再起動で動くのか」「再起動でどんなリスクが生じるのか」を設備メーカーと一緒に学ぶ機会を定期的に持ちましょう。
再起動によるカウンタ変化、ログ消失、セーフモード発動など仕組みの理解を深めることで、「ただのボタン操作」がどういう意味を持つか意識改革につながります。
6. トラブル時の「一次切り分けフロー」を現場全員で標準化
現場メンバーで、実際によくある設備異常パターン(例:エラー表示、警告音、停止タイミングなど)ごとに、対応する一次切り分けフローをA4で簡潔にまとめましょう。
「電源再起動前に、何をどこまで確認するか」を明確にリスト化し、全員が参照できるよう掲示します。
7. サプライヤー・メーカーとのトラブルログ共有
設備メーカーやサプライヤーにも、日常的な小トラブルデータを蓄積してもらいましょう。
その上で、月1回でも「カスタマーレビューMTG」的な場を設け、
・再起動で直った件数と典型的な現象
・再起動では復旧しなかった新しいトラブル事例
を双方向でレビューすることで、設備改良のアイデアや予防保全の新提案を引き出せます。
8. 日報・報告書の“真の情報”書き方改革
トラブル復旧時の作業日報や報告書には「再起動で正常復帰」だけでなく、どんな異常が発生したか、繰り返し発生していないかを必ず付記するよう指導しましょう。
実際に管理帳票まで丁寧に書くことの重要性を現場に根付かせます。
9. バイヤーの“稼働率評価基準”を再点検する
工程管理や生産稼働のKPI見直しを図るバイヤーであれば、「再起動含む一時停止」をどうカウントするか、部門横断的にディスカッションしましょう。
指標上の稼働率と現場実態のギャップを見つけ、サプライヤーとの良質な対話の材料にします。
10. “再起動をやめる”ことが働きやすい現場への第一歩
最後に大切なのは、「再起動で済ます現場は何かおかしい」ことを経営トップやミドルにもしっかり発信し、現場環境・人員体制そのものから見直すことです。
「一人で全部の工程を回す」や「設備停止を責められる」現場は、持続的な改善や人材成長が生まれません。
トラブルが減り再発防止できる“働きやすい現場”が、結局は納期遵守・品質安定・安全強化につながり、経営インパクトも大きいのです。
まとめ:昭和の現場文化を乗り越え未来型ファクトリーへ
「とりあえず再起動」は、昭和から続く日本のものづくりの現場対応力の象徴です。
しかし、原因究明なき復旧を繰り返せば、会社の競争力・人材育成・サプライチェーン強靭化の全てを失う大きな落とし穴となります。
アナログからデジタルに、現場の属人知からチームの可視化知恵へ。
“動かすこと”より“正しい原因把握と、改善につなげること”が
これからの製造業を支える新常識となるはずです。
設備停止の真因と日々向き合うことこそ、あなたの現場力・バイヤー力・サプライヤー力の一丁目一番地となります。
短期的な復旧ではなく、中長期の改善価値を――
今日からぜひ、現場の目線で“一歩深掘り”する取組みを始めてみてください。
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