投稿日:2025年12月2日

設計パラメータがブラックボックス化し属人化が進む危険性

はじめに:設計パラメータのブラックボックス化とは

製造業の現場でよく耳にする「設計パラメータ」ですが、これは製品や部品の設計において重要な条件・数値を指します。
例えば、寸法、公差、材質、処理条件などです。
これらは図面や設計書に記載され、製造現場での判断基準となります。

しかし多くの現場で、設計パラメータの決定プロセスが「ブラックボックス化」し、担当者の頭の中だけに残る「属人化」が進む傾向がみられます。
昭和・平成初期から続いているアナログな業務フローが、その根強い原因となっているケースも決して少なくありません。

この状況は、技術継承や品質安定、調達購買活動、サプライヤーとの連携面で大きなリスクを生じさせます。
今回はこの問題について深く掘り下げ、ブラックボックス化の危険性とその根本原因、そして具体的な解決策まで現場目線で解説します。

設計パラメータがブラックボックス化する現場のリアル

担当者の「経験値」に頼るリスク

設計パラメータの設定は、設計者のこれまでの経験や知識に強く依存しがちです。
「前回もこの仕様で問題なかった」「○○さんがこの寸法でいいと言っていた」といった口伝・慣例が、設計基準そのものになっている場面も珍しくありません。

その結果、設計の根拠が文書化・可視化されず、「なぜそのパラメータなのか」を他者が理解できないままとなります。
これは言い換えれば、設計条件・判断基準が担当者の“頭の中だけ”で完結してしまう状態です。

引き継ぎの難しさと業務停滞

ブラックボックス化の最大の弊害は、担当者の異動・退職時です。
資料を探しても設計理由がわからず、現場や後任者は「なぜこの値なのか?」と混乱を招きます。
この「引き継げない知識」が業務効率や品質維持を著しく妨げます。

また、プロジェクト推進中のQCD(品質・コスト・納期)改善検討時にも、設計変更の根拠が不明なため、生産性向上やコストダウンの足かせとなります。
属人化がボトルネックとなり、現場の成長を妨げてしまうのです。

バイヤー・サプライヤーとのコミュニケーションにも影響

調達購買や外部サプライヤーとの連携においても、設計パラメータが曖昧・不透明であることは大きな問題です。
仕様変更の打診やコスト交渉時、「なぜこの仕様が必要なのか」を技術的根拠を示しながら説明できなければ、適正価格での取引や品質担保に支障が出ます。

また、サプライヤー側も「なぜこの要求があるのか」がわからず、現実的な代替案や改善提案を行えません。
こうした“思考の断絶”はサプライチェーン全体に悪影響を波及させます。

昭和的アナログカルチャーが根強く残る理由

ドキュメント軽視の文化

かつての日本のものづくり現場では、「現場主義」「背中で技術を学ぶ」といった精神論・慣習が根強く、ドキュメント化よりも実践優先となるケースが多々ありました。
設計書や工程表があっても、微妙な調整値や暗黙知が随所に潜みます。

こうした文化は今なお中堅・中小メーカー、さらには大手企業でも一部の部署では色濃く残っています。
「忙しいから後回し」「書かなくても分かるだろう」といった考えが、ブラックボックス化を助長してしまうのです。

ベテラン職人・設計者への過度な依存

熟練者のノウハウはものづくりに欠かせませんが、個人の「勘」や「経験だけ」が唯一の拠り所になりやすい点も危険です。
ベテラン1人に依存する構造が固定化されやすく、若手の育成や技術伝承が進まない要因となります。

さらに、設計業務は忙しく変化も激しいため、ドキュメント整備にまで時間・労力を割く意識が育ちにくい現実があります。

システム導入・デジタル化の壁

近年はDX(デジタルトランスフォーメーション)の波が押し寄せていますが、現実には紙やExcelベースの運用が主流というケースも多いです。
EDMS(設計ドキュメント管理システム)やPLM(製品ライフサイクル管理システム)などを導入しても、必須パラメータを正しく登録しきれない、運用ルールが徹底されない場合が大半です。

根底には「面倒」「使いこなせない」といった抵抗改修も多く残っているのが実情でしょう。

ブラックボックス化がもたらす経営リスクとは

技術継承の断絶・人材育成の遅滞

ブラックボックス化は、設計技術・ノウハウの断絶を招きます。
新人や若手設計者が育たず、課題解決力や応用力が低下します。

また、ベテランの大量退職期を迎える2025年問題(団塊世代退職)と重なり、組織の技術競争力を大きく毀損するリスクがあります。

品質トラブル・クレーム発生率の増大

設計パラメータの決定根拠が曖昧な場合、工程の変更やライン切り替え、外部委託先での製造時に、不具合や品質クレームが増加します。
特にグローバル拠点展開や調達多拠点化の進展下では、「日本本社でしか分からない」「誰も意図を説明できない」。
このような状況が多発し、品質の維持管理が不能になります。

コストアップ・イノベーション阻害

根拠のない仕様維持が見直されず、過剰品質や無駄な工程が温存されがちです。
購買活動やコストダウン提案も、「なぜここを変えられないのか?」が共有されなければ、競争力向上に結び付きません。
自社の技術進化やイノベーション創出も阻害されてしまいます。

ラテラルシンキングで考える本質的な解決策

設計意図の「見える化」を最優先する

重要なのは「設計パラメータの値だけでなく、“なぜその値なのか”を明文化・共有する」仕組みづくりです。
単なるドキュメント整備以上に、設計時の判断根拠や制約条件、工程上の工夫やリスクもセットで記録しましょう。

たとえば、設計レビュー時に議事録内へ「パラメータごとの決定理由・技術的根拠」を必ず残し、PLMや社内Wikiで検索・参照できる状態にすることが肝要です。
新人が「この寸法に根拠があるか?」と即座に調べられれば、現場力は劇的に向上します。

プロセスそのものをデジタル化し属人排除

設計支援ツールやBOM管理、3D CAD、PLM、知識管理システムを活用し、パラメータ決定の判断プロセスも自動的に履歴化しましょう。
これにより、個々人の頭の中に頼る運用(属人芸)から脱却し、「誰でも・どこでも・いつでも」設計意図を再現できる土壌が生まれます。

AI自動推奨機能や設計テンプレート活用も、ブラックボックスの解体に有効です。

バイヤー・サプライヤーと設計意図を共有する文化づくり

サプライヤーへ単なる仕様書と一緒に「設計の狙い」「技術的優先度」「妥協できるポイント/できないポイント」を説明する文化を根付かせることも重要です。

サプライヤーが“なぜその要求値なのか”を理解することで、現実的かつ建設的な提案やQCDF(品質・コスト・納期・柔軟性)の最適化につながります。
バイヤーもコストダウンやサプライチェーン強靭化で、設計意図の説明義務を果たせるよう、社内教育と啓発活動を徹底しましょう。

まとめ:新たな時代の「見える化」と協業で競争力を高めよう

設計パラメータがブラックボックス化し、属人化が進むことの危険性は、これからの製造業にとってますます深刻になります。

その解決のためには、「設計値そのもの」だけでなく、「設計意図の見える化」という本質的な意識改革と、現場業務・システム運用の徹底的なデジタル化が欠かせません。

バイヤーやサプライヤーも一体となった知識・情報の共有文化を育み、「技術の伝播」「業界としての成長」へとつなげていきましょう。

今こそ、昭和的なアナログ現場の知見を尊重しつつも、それに安住せず、ラテラルシンキングで新しい価値を追求することがポイントです。
経営リスクの低減、品質トラブル予防、若手の育成、さらにはイノベーション創出のために、ブラックボックス打破の第一歩を現場から始めていきましょう。

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