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経営判断が属人化し組織力が発揮できないリスク

目次
はじめに:製造業を取り巻く現実と「属人化」問題
日本の製造業は、世界有数の品質と技術力で長年グローバル経済を牽引してきました。
しかし現場ではいまだに、昭和時代からの価値観や商習慣が多く残り、とりわけ「経営判断の属人化」が根強く存在します。
この属人化は、一部の優秀な個人の勘や経験、独自の人脈に依存して業務が進む状態を指します。
工場の運営、調達購買、生産管理、品質管理――あらゆる場面で、担当者ごとの「やり方」がまかり通り、それが組織力の発揮やイノベーションの阻害要因となっています。
今回は、私が20年以上にわたり大手製造業メーカーの現場で体験し、見てきた様々な事例をもとに、「経営判断が属人化し組織力が発揮できないリスク」について掘り下げていきます。
バイヤーやサプライヤーの立場、および現場で働く皆様が、一歩踏み出すヒントとなれば幸いです。
属人化の実態:なぜ現場は「経験則」や「暗黙知」に頼るのか?
現場の常識は会社の非常識?
製造現場では「昔からこうしてきた」が呪文のように繰り返されます。
設備の稼働条件、調達先の選定、生産計画の組み方、クレーム対応…。
それぞれが、長年の担当者の勘と経験に裏打ちされていると信じられています。
特に購買部門や生産管理現場では「●●さんに聞かないと分からない」という状況が常態化しています。
属人化が発生する背景はさまざまですが、代表的なものを挙げると以下の通りです。
– 複雑な業務プロセスが標準化・見える化されていない
– ITシステム導入の遅れ、紙やFAX中心のレガシー業務
– 「OJTの精神」=現場で盗んで覚えろという教育文化
– 人材流動性が低く、定年まで同じ仕事・現場にとどまる
– ミスを恐れるあまり、前例踏襲・事なかれ主義が定着
このような現場では、業務が「個人のスキル」化しがちであり、組織全体の知見として蓄積・活用されにくい現実があります。
属人化のもたらすリスク
個人の経験や巧みな判断力は確かに貴重ですが、それに過度に依存すると、組織として以下のような深刻なリスクが現れます。
– 担当者急病・退職・異動時の業務断絶
– ノウハウや人脈が外部に流出、競争力低下
– 育成や多能工化が進まず、現場の硬直化
– イノベーション創出、業務改善提案が停滞
– 責任の不明確化、トラブル時の対応力低下
これらのリスクは、大手企業であっても中小企業であっても変わりません。
逆に、名門メーカーほど社内の「しきたり」や「非公式ルール」が強固であり、属人化からの脱却が難しい傾向にあります。
事例分析:属人化が引き起こす現場の混乱
事例1:ベテラン購買担当者の急病
私の経験した事例では、調達購買部署で30代から現場を知り尽くしたベテラン担当者が突然病気で長期離脱。
彼しか知らないサプライヤーの癖、値引き交渉術、取引先決算書の正しい読み方などが社内に共有されていませんでした。
各種取引や交渉がストップし、納期遅延や「言った言わない」のトラブルが発生。
新人や他部門が彼の書き残した「ブラックボックス」状態のエクセルファイルを手探りで読む羽目となり、適切な調達活動が2か月近く停滞しました。
事例2:品質クレーム対応の属人運用
品質管理部門でも、属人化の弊害は顕著でした。
設備不良による製品不具合が発生した際、過去の対策事例やクレーム履歴が個人のノートや手帳、個別メールにしか残っていませんでした。
本来であれば迅速な再発防止策が求められる場面ですが、「前任者しか分からない」「過去に誰と打合せしたか曖昧」といった理由で、原因究明までに1ヶ月近くかかりました。
この間にも二次クレームが発生し、顧客満足度の低下、経営層からの信頼喪失に繋がっています。
事例3:取引先選定も「顔」で決まる昭和式商習慣
サプライヤー・バイヤー間の取引関係もまた、「属人的」なカラーが色濃く残ります。
過去の人脈やゴルフ、飲み会で繋がった力関係が重視され、「あそことの付き合いが長いから」「担当者同士で話がついてる」といった理由で新規開拓や条件見直しが行われません。
しかも、リスク情報や取引実績が仕組みとして管理されず、「誰に聞けばいいのか分からない」といった業務ボトルネックとなっています。
属人化からの脱却に向けた処方箋
業務の標準化・マニュアル整備の徹底
属人化を防ぐ最初の一歩は、業務プロセスの標準化とマニュアル化です。
調達購買、生産計画、品質管理それぞれに「誰でも理解できるフロー」を整備し、属人的なコツや注意点もできるだけ明文化します。
– 調達購買なら、サプライヤー評価基準や見積依頼の運用ルール
– 生産管理なら、計画変更時の意思決定フローや代替調整マニュアル
– 品質管理なら、トラブル発生時の報告・分析・対策手続きのテンプレート
「マニュアル化」と聞くと反発も出やすいですが、ポイントは「何のため?」を丁寧に説明すること。
業務安定化と組織力強化は全員のメリットであり、精神論ではなく「生き残るため」として共有することが肝心です。
IT導入とナレッジ共有の加速
属人化脱却にもっとも効果的なのが、ITシステムの導入・活用です。
近年は安価で操作性の高いクラウド型ERPや調達管理システム、生産管理ソフトも充実しています。
これにより、個人のパソコンや紙の帳簿ではなく、全社が参照できる「共通プラットフォーム」でナレッジ共有が可能です。
– システム上で取引履歴や交渉経緯を蓄積
– ベテランの値引き交渉術やクレーム対応ノウハウを動画マニュアル化
– マスタデータの更新権限・操作履歴も可視化
– 既存のFAXや紙の管理もPDF化して格納
昭和式アナログ文化からの脱却には抵抗もありますが、次世代人材への「引き継ぎ資産」となる土台づくりが、将来の組織力強化につながります。
業務ローテーション・多能工化によるリスク分散
属人化しやすい業務には、定期的なローテーションや多能工化も有効です。
「自分しかできない仕事」をなくすため、多くの人がジョブローテーションで経験できるようにし、多様な視点からの改善提案が生まれる組織風土を育てます。
加えて、人事評価やキャリアアップにも「標準業務プロセスへの貢献度」「マニュアル作成や教育実績」を組み込み、個人芸でなく組織力の向上を企業価値として位置づけましょう。
現場に根付く昭和式「属人主義」から未来を切り拓く
経営層・管理職が果たすべき役割
属人化を組織課題として本気で解決するには、経営層や管理職の意識改革が不可欠です。
トップダウンで「属人化の排除=レジリエントな強い組織になる」というメッセージを発信しましょう。
現場叩きや「昔ながらのやり方を守れ」といった圧力は時代遅れです。
ミスや失敗を責める風土ではなく、多様な人が挑戦しやすく、ナレッジを惜しみなく共有できる職場文化が必要です。
バイヤー・サプライヤー双方に必要な視点
調達購買やバイヤーにとっては、属人化環境からの脱却が自身の市場価値アップにも繋がります。
– 新しい調達先をロジカルに開拓できる
– 交渉ノウハウやリスク情報の見える化でミス防止
– チームでシナジーを生みやすくなる
一方、サプライヤー側も「人に頼った取引」ではなく、ルールベースの公正な関係構築が求められます。
担当バイヤー任せではなく、組織同士の連携強化こそが長期的なパートナーシップ発展のカギとなるはずです。
まとめ:属人化を乗り越え、組織力を発揮する未来へ
現場で積み重ねた経験やノウハウは製造業の資産です。
しかし、その資産を個人に預けっぱなしにせず、組織の力に変えていくことこそ、これからの製造業発展の最大ポイントです。
属人化のリスクに気づいた今だからこそ、現状を問い直し、業務の標準化・IT化・多能工化などさまざまなチャレンジに取り組むタイミングです。
ものづくり現場から新たな知恵と価値を次世代へつなぐために、いま一歩、組織力を見直していきましょう。
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