投稿日:2025年11月15日

スクリーン版のテンションが色ズレとピンホール発生に与える影響

スクリーン版のテンションが色ズレとピンホール発生に与える影響

はじめに

スクリーン印刷は、多品種少量生産、もしくは複雑な形状の基材にも対応できる柔軟性から、製造業の幅広い分野で重宝されています。
とくに電子部品や産業機器、さらには車載関連パーツなど、ミクロンオーダーの精度が要求される現場では、印刷パターンの「色ズレ」や「ピンホール」といった欠陥の発生率をどれだけ抑えられるかが歩留まりや生産性に直結します。
この色ズレやピンホールの要因の一つとして、「スクリーン版のテンション管理」が大きく関係しています。
本記事では、長年の現場経験をもとに、テンション管理の勘所や、その影響、今もなおアナログな体質が根強く残る現場だからこそ発生する課題、そしてこれからの業界動向まで、実践的かつ現場視点で深掘りしていきます。

スクリーン版の基礎とテンションの重要性

スクリーン印刷の「版」は、フレームにメッシュ(紗)が張られ、その上にパターン形成のための乳剤が塗布されたものです。
この「メッシュの張力(テンション)」は、印刷品質や、版の寿命、工程安定性にまで密接に関わります。
たとえばスクリーン版のテンションが弱いと、印刷時にメッシュが基板にまとわりつく「ベタ付き」が発生しやすくなります。
逆にテンションが強すぎると、メッシュや乳剤が破損しやすくなり、微細パターンの再現性が落ちる場合もあります。
このテンションは、目視や簡易ゲージによるおおざっぱな確認で済ませている現場が今なお多いのが実情です。
昭和時代から伝わる現場勘に頼った管理のみでは、最新の微細パターン化・高速生産には対応しきれません。

色ズレのメカニズムとテンション管理の関係

色ズレとは、多色印刷や重ね刷りを行った際に、本来合わせるべき印刷パターンが微妙にずれてしまう現象です。
原因の一つは、版ごと、もしくは同一版の異なる箇所でテンションが均一でないことです。
たとえば、テンション不足の部分では、印刷時に版がたわみ、インクの着座位置が微妙に外れてしまいます。
また、高テンション部と低テンション部が混在している場合、印刷板(金属・樹脂基板など)への圧力分布が不均一となり、版の浮きや波打ちが発生。
これが結果的に狙ったパターン外の場所へインクが滲み出し、色ズレにつながります。
このような微妙なズレは、検査装置では発見できないことも多く、納品先での品質不良やクレーム事案に発展する可能性があります。

ピンホール発生の実態とテンションの微妙な関係

ピンホールとは、印刷膜の中に微細な穴(膜抜け)が発生する現象です。
電子部品の場合、これ一つで絶縁破壊やリーク電流の原因となり、致命的な不良につながります。
ピンホールの発生要因は複合的ですが、スクリーン版のテンション不足、あるいは部分的な歪みがあると、印刷工程での「版戻り」によって微細な空気溜まりやインク溜まりが生まれやすくなります。
ここに圧力が加わると、膜が部分的に薄くなり、最終的にピンホールとして露呈するのです。
現場目線で言えば、テンションが不均一な版は作業者によって無意識に「押しつけ過ぎ」「引き過ぎ」といった力加減のバラつきが出やすく、人為由来のピンホールも増加しがちです。

現場でよく見かけるテンション管理の課題とその根深さ

日本の製造業、特に中小規模のサプライヤーでは、いまだにテンション管理が「昔からこうやっている」「ベテランの目利き頼り」といった属人的な工程に留まっています。
テンションゲージ自体を持っていない、または古くて校正が取れていないという話も珍しくありません。
また、テンション設定値は「永遠に同じ」でよいと考えられがちですが、新しいメッシュロールのロット差、版枠ごとの形状差、季節による温度・湿度変化で、最適値は微妙に変動します。
こうした現場の“昭和的”な考え方こそ、現在の高品質要求時代には最大のボトルネックとなっています。

テンション管理の最新方法とデジタル化動向

近年、テンションマネジメントの自動化やIoT化が進みつつありますが、現場導入の実態は道半ば。
テンション計測は数値管理が基本となり、時系列でのデータ蓄積も重要です。
テンション自動測定機や、テンション調整ロボットの開発が一部で進んでおり、作業者に依存しない均一な品質管理が可能になります。
また印刷シミュレーション技術により、テンションごとのインク流動性やパターン再現性を事前に予測できるソフトウェアも台頭しています。
ただ、これらはまだごく一部の最先端現場に限られており、普及の速度は現実的なコスト意識や現場作業者のスキル移行速度によって足踏みしているのが実情です。

バイヤー・サプライヤー目線から見たテンション管理

バイヤー(調達・購買担当者)にとって、サプライヤーのテンション管理レベルは直接的なコスト・納期・品質リスクに直結します。
現場視察で「テンション管理表」「メッシュロットNoとテンション推移の管理履歴書」などの提示を求めれば、サプライヤーの品質レベルが見えてきます。
また「トラブル発生時はどのように再発防止を図っているのか」「作業者教育はルーチン化できているか?」も合わせて確認ポイントです。
一方、サプライヤー側は、バイヤーの要求品質がかつてない水準で厳格になるなか、余裕ある管理体制を構築することが取引維持、ランクアップの最重要条件となっています。

スクリーン版のテンション最適化に向けた現場アプローチ

現場で実践しやすいテンション最適化アプローチをまとめます。

1)テンション設定値の初期化と推奨値リストの徹底
導入時、最新のスペック情報から最適なテンション値を算出し、テンション設定・測定→記録のループを確立しましょう。
2)テンション経時変化のデータ化
「〇回の印刷工程ごとに測定・記録」「ロットごと・受注ごとのテンション比較」などPDCAのサイクルが重要です。
3)テンション異常検知の作業者教育
目視確認だけではなく、期間ごとに新人・ベテラン混合の監査・相互点検体制を導入します。
4)自動テンション管理・IoT化の検討
人手不足の今、部分導入からでも省力化&品質安定が図れます。
5)失敗事例・不具合横展開の仕組み化
「色ズレ・ピンホール」発生時は必ず工程までさかのぼり、原因分析結果を工程間・部門間で共有できるしくみを持ちましょう。

今後の業界動向と新しい視点

高度な自動化ラインやDX推進は、これまで“現場の勘と経験”に依存していた工程管理に、劇的な変化をもたらします。
テンション管理のような知見も、AI解析や遠隔モニタリング、複合センサでの連続監視が主流になれば、属人化の壁を乗り越え、さらに高精度・再現性が追求できる時代になるでしょう。
一方で、数値やデータのみを過信せず、現場作業者自身のフィードバックも組み合わせる“ハイブリッドマネジメント”が、今しばらくは欠かせません。
また、環境配慮要求など新たな規制対応が求められる現代、「印刷ミスのやり直し削減→CO2排出減」「不良品発生による廃棄ロス削減」へつなげるのも、テンション管理強化の隠れたメリットです。

まとめ

スクリーン版のテンションは、地味ながら現場の生産性・品質管理に直結した要素であり、色ズレ・ピンホールといった重大な欠陥を左右します。
現場のアナログ体質や属人化にこそ、管理レベル向上の余地がまだまだ多く残っています。
テンション管理を自工程だけでなく、サプライチェーン全体の品質向上やSDGs達成にも資する「地道なイノベーション」と捉え直すことが、これからの製造業には不可欠です。
バイヤー、サプライヤー、そして現場作業者が一体となって、昭和的手法からの脱却とスマートファクトリー化への流れを加速させていきましょう。

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