投稿日:2025年11月29日

OEMアウターでよく使われる防水透湿素材の種類と性能比較

OEMアウターによく使われる防水透湿素材とは

防水性と透湿性を兼ね備えた高機能素材は、近年のアウター製造において必要不可欠な存在になっています。
OEM(相手先ブランド製造)アウターでは、クライアントのブランドコンセプトや用途に最適化された素材の選定が品質を大きく左右します。

製造業の現場から見た時、防水透湿素材の性能だけでなく、調達・量産プロセスでの安定供給性やコスト競争力、加工適正も重要な評価要素となります。
また、昭和時代から今日まで続く「素材選定の慣習」や、「新しいテクノロジーの導入に対する現場の抵抗感」が、業界全体のイノベーションを妨げているという課題も見逃せません。

まずは、OEMアウターによく使われる代表的な防水透湿素材をいくつか紹介し、その性能や特徴を分かりやすく比較していきます。

代表的な防水透湿素材の種類

GORE-TEX(ゴアテックス)

GORE-TEXは世界的に有名な防水透湿素材です。
ePTFE(延伸ポリテトラフルオロエチレン)メンブレンを使用し、「水は通さず、水蒸気は通す」という特性でアウトドアウェアの定番となっています。

防水性能は非常に高く、耐水圧は20,000mmを超える仕様も選べます。
一方、透湿性も10,000g/㎡/24h以上で、雨の中でもムレを効果的に抑えます。
また、長期間の耐久性や各国での認知度から、ブランドバリューの担保としてOEMでも積極利用されています。

なお、GORE-TEXの採用には一定のロイヤリティと厳格なライセンス審査が必要なため、コストは高くなる傾向です。

イベント(eVent)

イベントはGORE-TEXと同じくePTFEメンブレンですが、構造上「直接通気構造」を持つことが大きな特徴です。
これにより、比較的低気圧下でも体内から外部へ水蒸気が素早く排出されやすく、アクティブな現場作業やスポーツ向けOEMアウターで重宝されています。

耐水圧は20,000mm程度、透湿性はGORE-TEXと同等以上(20,000g/㎡/24h超)の製品も多いですが、国内での知名度や実績はまだ限定的です。
大量調達や流通安定性はGORE-TEXにやや劣るケースもあります。

Dermizax(ダーミザクス)

Toray(東レ)が開発したポリウレタン(PU)メンブレン系素材がDermizaxです。
非常に高いストレッチ性を持つため、スポーツウェアやフィールドワーカー向けOEMで採用が進んでいます。

耐水圧は20,000mm~30,000mm、透湿性は10,000g~30,000g/㎡/24hと基本性能でトップクラスです。
また、ごわつきが少なく滑らかなタッチで、ファッション性を求めるブランドにも人気です。

デメリットとしては、PUメンブレン特有の経年劣化や加水分解のリスクが挙げられます。
そのためOEMアウターでは、出荷時の防水性能だけでなく、一定の期間使用後も高性能を維持できるかどうかを必ず確認すべきです。

ブリザテック(BREATHATEC)

クラレトレーディングが展開する国産の防水透湿素材です。
PU系フィルムをベースとしたラミネート構造が特徴で、「コストパフォーマンス重視」で採用されやすい素材です。

耐水圧は10,000mm~20,000mm、透湿性は8,000〜15,000g/㎡/24h程度と中~高性能帯です。
比較的低価格帯のOEMアウター、ワークウェア、レインウェア等で多用されています。

国内流通の安定性、MOQ(最小発注数)の柔軟性、短納期対応など、量産現場の実利を重視した使い勝手の良さが大きなメリットです。

シンパテックス(Sympatex)

ドイツ発祥の防水透湿素材で、環境負荷低減を重視し「リサイクルPETベース」のメンブレンを用いているのが特徴です。
耐水圧は20,000mm、透湿性は20,000g/㎡/24hで、主要プレーヤーに匹敵する水準を持っています。

欧州系アウトドアメーカーやサステナブルブランドのOEMアウターによく採用されています。
日本ではまだ実績が限定的ですが、今後の環境規制強化を見据えて採用拡大が予想されます。

防水透湿素材の性能比較と選定ポイント

スペックの正しい見方

防水透湿素材を選定する際には、「耐水圧(mm)」と「透湿度(g/㎡/24h)」という2つの数値が事実上の標準指標となっています。
しかし、OEM製造現場で数値のみを鵜呑みにするのは危険です。

耐水圧は「生地単体の静水圧試験(JIS L 1092法)」で示されることが多いですが、実際にはシームテープ加工や縫製構造によって、最終製品の防水性能は変動します。
また、透湿度も「生地が新品状態」の laboratory testに過ぎず、汗や皮脂による目詰まり、洗濯による劣化、耐久撥水性(DWR)効果の低下が実運用での快適性を大きく左右します。

OEMアウターで失敗しないためには、「実験室スペック×現場実用性」をあわせて判断し、年間サイクルを通じて十分な作動実績を持つ素材を選びましょう。

コスト・調達面からの評価軸

OEM製造では、原価低減による利益確保がメーカーの至上命題です。
優れた防水透湿素材であっても、ライセンス料やMOQ(最小発注量)、リードタイム(納期)が非現実的であれば、安定継続生産が困難になります。

例えば、「ゴアテックス採用」にブランドバリューがあるアパレルOEMはコストをかけてでもプレミアム感を優先しますが、「大量生産型のワークウェア」や「学校指定の雨合羽」などは比較的安価な国産PU系フィルムや、ノンブレス加工など現実的なローコスト素材が選ばれる傾向です。

サプライヤー視点・バイヤー視点双方で「3~5年の安定供給」「大幅仕様変更なしでも調達可能」「品質トラブル時の即座の代替手配」など、多面的に判断することが不可欠です。

加工適正と現場品質管理の重要性

防水透湿素材は、一般の織物やニット生地と異なり、ラミネート構造・多層フィルムなど特殊な加工が多いため裁断→縫製→シームテープ→検査の工程管理レベルが問われます。

熟練工に依存しがちな昭和型の工場や、外注縫製ライン、海外協力工場に発注する際には、「新素材の取扱説明」「加工難易度に応じたマニュアル化」「シームテープ装置の定期校正」など、現場オペレーション品質の徹底が必要です。

防水透湿素材の新規採用時には必ず「試作検証」「量産立ち上げサポート」「ライン改善のフィードバック」を繰り返し、失敗の許されない大口案件には「主要仕様とプロセスの文書化・見える化」が生産トラブルゼロへの近道です。

アナログ業界の慣習と、今後のトレンド予測

根強い仕様主義とブランド信仰

日本のアパレルOEMやワークウェア業界では、古くから「前例踏襲」「実績主義」の傾向が強く、新素材への切り替えが緩慢になる傾向が見られます。
例えば、大手ユーザーが「ゴアテックス指定」と一度定めれば数年単位で見直しが入らず、サプライヤーチェンジも消極的になりやすいです。

一方で、海外市場やデジタルネイティブ世代をターゲットとする新興ブランドでは、サステナブル素材やリサイクル原料の積極採用、ウェアラブル技術との連携が始まっています。

これからの防水透湿素材選定では「ブランド力」「サステナビリティ」「コスト」いずれか一要素で決めるのではなく、現場と市場の双方ニーズをバランスさせるラテラルな発想が求められます。

IoT×防水透湿素材で進化するアウター

最近では、ウエア内部の温度・湿度センサーなどIoT技術を組み合わせ、外部環境に応じて透湿構造が自律的に変化する次世代スマートアウターの研究も進んでいます。

また、人間工学に基づいたパターン設計や、デジタルツインを活用したプロトタイプ最適化など、昭和アナログ業界から脱却するイノベーションの波が確実に押し寄せています。

OEM側も「ヒット商品を生み出すための実験的コラボ」「従来の殻を破った素材提案」「最先端テクノロジーとの連携」など、受動から能動へと価値提供姿勢のシフトが迫られています。

まとめ:OEMアウターのバイヤー/サプライヤーが今、知っておきたいこと

防水透湿素材は、単なる「物性スペック比較」だけでなく、製造現場の加工適正、調達体制の柔軟性、長期安定供給の信頼性まで「総合力」で選ぶ時代になりました。

また、伝統的な規格主義・ブランド信仰から、SDG’s/ESG対応やスマートウェア連携など「市場と現場の境目があいまい」な時代へと大きく変化しています。

OEMバイヤー・サプライヤーとしては、ラテラルシンキングを駆使し、「現場発想×未来志向」のハイブリッドな素材選定で、競合優位性を高めることが製造業としての進化のカギです。

今後も定期的な市場調査、高頻度な現場テスト、異業種コラボによる素材開発を継続し、昭和アナログ業界の限界を突破する挑戦が、日本発モノづくりの新たな地平線を拓くのです。

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