投稿日:2025年12月10日

弱いサプライヤーを切れず品質トラブルが長期化する本音

はじめに

製造業の現場において、品質トラブルが長期化しやすい背景には、実は「サプライヤーを簡単に切れない」という現場ならではの本音や業界事情が大きく関わっています。

昭和の時代から根付いてきたアナログな契約、しがらみ、そして信頼構築の難しさ。

誰もが「もっと強く、より良いサプライチェーンを構築したい」と思いながら、実態はなかなか理想どおりにはいきません。

本記事では、現場視点からこの課題を深く掘り下げ、なぜ弱いサプライヤーを切れないのか。

どうすれば品質トラブルの長期化から脱却できるのか。

製造業を愛するすべての人に向けて、ラテラルシンキングを駆使して考察します。

なぜ「弱いサプライヤー」を簡単に切れないのか

歴史が作るサプライヤーネットワークのしがらみ

日本の製造業では、数十年単位で同じサプライヤーと取引し続けることが少なくありません。

その過程には、信頼や顔の見える関係、現場レベルでの細かなやりとりが積み重なっています。

長い取引は「阿吽の呼吸」につながり、時には仕様書を超えたグレーな対応まで許容される場合もあります。

この信頼が壊れるリスクや、契約1つで感情的な波風が立つことが、サプライヤーを切るハードルとして機能しています。

アナログ根性論と現場裁量の限界

日本の製造業では今なお、「困ったときは現場でなんとかする」「今までのやり方を変えるのは難しい」といったアナログ根性論が根強く残っています。

現場は迅速に動けず、上層部もまた同じ価値観で現状を温存しがちです。

結果、問題サプライヤーの入れ替えどころか、本質的な問い直しすら進みません。

この「変われない体質」もまた、弱いサプライヤーが生き残り、品質トラブルが燻り続ける要因になっています。

現実的な代替先の確保は容易ではない

意外と見落とされがちなのが、「サプライヤー変更にはコストもマンパワーも時間もかかる」という現場の現実です。

現行の品質・納期・コストで新たなサプライヤーを即座に見つけるのは難しいですし、その場合は技術移管や図面・ノウハウ共有のリスクも生じます。

たとえカタログ上はすぐ切り替え可能に見えても、実際には教育期間や物理的な立ち上げコストが障壁となるのです。

品質トラブルが長期化する業界特有の背景

不具合発生時の「なあなあ」対応

小さなトラブルには「この程度なら現場がフォローする」と、現場主導でやり過ごす風土があります。

しかしこれが積み重なると、大きな品質事故に繋がる恐れが高まります。

「本質的な対策を講じたか」「再発防止策が形骸化していないか」──この問いを組織としてどこまで徹底できるかが問われる時代です。

現場が「空気を読んで」サプライヤーをかばえばかばうほど、根治が遠ざかる悪循環になりがちです。

監査や二者監査が形骸化しやすい理由

監査のための監査、書類提出のための書類作り。

監査自体が目的化され、肝心の現場改善や、サプライヤーとの協働的な関係構築が後回しになる場合も多々あります。

「まあ、これでいいだろう」と、お互い目をつぶってしまう文化は簡単には解体できません。

結果として、同じトラブルが何度も繰り返されてしまうのです。

バイヤー、エンジニア、品質保証の認識ギャップ

「購買」と「開発」「品質保証」がそれぞれ違うゴールや視点を持っていると、意思決定が迷走しやすくなります。

購買はコスト重視、エンジニアは仕様優先、品質保証はリスク回避に敏感。

それぞれの立場で課題解決案を提示しても、総合力でまとまらず、責任分界点も曖昧。

トラブル解決が遅れる背後には、こうした部門間のギャップも影響しています。

「弱いサプライヤー」問題から脱却するために

サプライヤー評価の定量化と透明性向上

まずは「なぜそのサプライヤーを使うのか」を客観的に見直す仕組み作りが必要です。

不良率、納期遵守率、コストパフォーマンス、技術提案力など、多角的にサプライヤーを評価し、数値化すること。

その上で、取引の根拠を社内外に明示できれば、感染症のように慢性化した“なあなあ”体質から少しずつ脱却できます。

代替サプライヤーの事前発掘と標準化

日々の取引先に満足せず、ポテンシャルのある新規サプライヤーを継続的に探索・評価しましょう。

可能な範囲で共通化・標準化も進めておき、いざ切り替え時の障害を下げる発想が重要です。

これにより、既存サプライヤーも緊張感を持って改善を継続しやすくなります。

情報共有による現場の「見える化」

各現場が抱える課題を隠さずに、全社レベル・グループレベルでシェアする。

例えば、「品質パトロール」「現場ヒアリング定例会」「サプライヤー現場見学会」など、双方向のコミュニケーションの場を構築しましょう。

現場の負担を減らしながら、隠れたトラブルの早期発見・対策につなげます。

ラテラルシンキング的アプローチで新たな地平へ

トラブルゼロを目指しすぎない勇気

実は、「絶対にトラブルは許さない」という完璧主義がかえって現場を硬直化させている面もあります。

むしろ、早い段階で失敗をオープンに共有し合うことで、弱いサプライヤーの課題もクリアにできるはずです。

トラブルをバネにする、前向きな仕組みが重要です。

アナログの強みとデジタルの融合

昭和から続く「現場力」や「人間同士のつながり」を否定せず、その“強み”を活かしながらデジタルツールも積極的に活用する。

例えば、IoTで品質データを可視化する、AIでトラブルの傾向を予知するといったやり方です。

ノウハウが可視化されることで、属人的な体質からも脱却できます。

従業員の自律性とサプライヤー育成

現場主導で「サプライヤーと一緒に成長する」「問題発生時もオープンに話し合う」──そんな心理的安全性が組織全体に根付きはじめると、弱いサプライヤーも自然淘汰、または育成の方向へ動かすことが可能です。

切るか、残すかではなく、「共に強くなる」発想が道を拓いていきます。

おわりに:現場に根付く「本音」と向き合う勇気

品質トラブルが長引く、弱いサプライヤーをなかなか切れない─それは日本の製造業が培ってきた“人情”や“現場主義”の裏返しでもあるのです。

しかし、変わらなければ時代に取り残されてしまう、そんな危機感も確かに存在します。

「サプライヤーを切る」「育てて残す」「現場と経営、全体最適を追求する」──どのアクションも、まずは自社の本音・現場の声と丁寧に向き合うことから始まります。

常に変化する市場と技術の中、ラテラルシンキングと現場感覚で、新たなサプライチェーン革新の“地平線”を一緒に切り拓きましょう。

製造業の現場に立つ皆さんに、少しでもヒントとなれば幸いです。

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