投稿日:2025年11月24日

OEM製造で原価が下がらない理由と“最適ロット”の考え方

はじめに

製造業において「OEM製造」は、コスト削減と効率化の切り札と見なされがちです。
しかし、現場に立っていると「思ったように原価が下がらない」「OEM先に頼んでもあまりコストメリットが出ない」という悩みが尽きません。
今回は、こうしたギャップの背景にある本質を掘り下げ、「OEM製造で原価が下がらない理由」と「最適ロットによるコスト最適化」の具体的な考え方を、現場目線を交えて解説します。
また、伝統的な考え方から脱却できないアナログな現場で実践するためのコツについても触れます。

OEM製造の基本とよくある誤解

OEM(Original Equipment Manufacturer)は、自社ブランドの商品を他社に製造委託する形態です。
国内外問わず多くのメーカーが採用しています。

“OEM=コスト削減”という落とし穴

OEMは大量生産や専門設備の活用により、「自社で作るより安くできる」というイメージが根強いです。
一方で、実際には必ずしも思い通りのコスト削減効果が得られないことが多いです。
特に素材、部品、組立や検査といった細かい工程の積み重ねの見落としが、結果的に想定より高い原価につながっています。

原価構成の把握が不十分になりがち

製品原価には、部品費、加工費、管理費、物流費など多くの要素が含まれています。
しかしOEM先との打合せでは、圧倒的に「部品費」の話が中心となり、「工程ごとの原価構造」や「間接費」の内訳まで十分に詰めきらないケースが非常に多いです。
このため、期待したコスト削減が実現しません。

OEM製造で原価が下がらない主な理由

1. OEM先の“調達力”に過信しすぎている

「海外拠点で安く仕入れているだろう」「大量生産でスケールメリットが効いているはず」といった思い込みは危険です。
OEM先の資材担当者もまた、独自ネットワークやサプライチェーンの制約を受けて調達しています。
決して無限の調達力があるわけではなく、自社よりも有利な条件で入手できているとは限りません。
むしろ現地生産拠点ならではのリスク(原材料の偏り、為替変動、ローカルルールなど)によってコストメリットが消失してしまうこともあります。

2. 発注ロットと生産バランスの崩れ

OEM製造で最もネックになりやすいのが「ロット」の問題です。
無駄を減らしたいからと小ロットオーダーにすると、OEM先では段取り替えや稼働調整、余剰在庫などの見えないコストが増加します。
逆に大ロットにすれば在庫・資金負担や保管費の問題が発生しやすくなります。
OEM先独自の生産計画やキャパシティも影響するため、クライアント側の視点だけではバランスが崩れがちです。

3. 品質管理コストの増大

OEMでの製造品は、自社内生産と異なり品質保証体制や検査プロセスの設計がより複雑です。
特に「現地現物現認(げんちげんぶつげんにん)」、つまり現場に赴いて直接目で確認する仕組みや、製造履歴の管理など、見えない手間やコストが発生しています。
また、リードタイムや輸送経路の長期化により、納期遅延や品質トラブル時のコストも増える傾向があります。

4. 隠れた物流コストや関税・税制対応

モノが海外から流れてくる場合、国際物流、保税、関税、国内再検査・梱包など一連の流れで「日本で作るより高くつく」こともしばしば起こります。
これらの隠れコストは、見積書上で見えにくいため、つい見逃してしまいます。
アナログ体質が色濃く残る業界ほど、物流や税務のアップデートが進まず、不要なコスト増を招いています。

最適ロットをどう考えるか?現場で役立つ実践論

最適ロットの定義とは

最適ロットとは、単に製造原価が最小となる数量を意味しません。
在庫、物流、現場負荷、資金繰りなどバランスよく勘案し、総コスト(トータルコスト)が最も低くなる単位を意味します。
多くの現場で「いつも同じ数量を発注している」「とりあえず多めに作る or 小ロット化を無理に進める」といった勘や経験への依存が根強く残っています。

最適ロットを数式で考える

最適ロットサイズ(Economic Order Quantity: EOQ)は、在庫コスト・発注(段取り)コスト・購買単価の関係式で導き出せます。
(一般式例)
EOQ=√(2DS/H)
D=年間需要、S=1回の発注コスト、H=1単位の在庫コスト
ただし、現実の工場運営では、単なる計算式ではなく実際の生産能力やキャパシティ、納期とのすり合わせが不可欠です。

最適ロット導出のための“現場ヒアリング”の重要性

生産現場の管理職として痛感しているのは、数値だけでなく「現場の声」を拾うことです。
例えば、
– 小ロット切替時の段取り換えによる手待ち時間やロス
– 検査やトレーサビリティ対応の追加人員
– 輸送や納品リードタイムに伴う顧客クレーム対応
こうした情報は、“デスク上の数値”では読み取れません。
日々現場担当者と対話し、感覚値と計算値のズレを擦り合わせて初めて、最適ロットは現実的なものとなります。

バイヤーとサプライヤーの双方目線がカギ

バイヤーの本音とサプライヤーの対応力

バイヤーは「できるだけ安く、リスクも最小」「在庫負担をOEM先に持ってほしい」と考える傾向があります。
一方サプライヤーは「生産安定化のためにはある程度まとまった数量で注文してほしい」「損益分岐点を割ると長続きしない」といったジレンマを抱えています。
両者の本音をオープンにし、生産計画や契約ルールに反映させることが、「本当に意味のある最適ロット」創出に直結します。

昭和の勘とデジタル活用のハイブリッド

依然として「経験や勘」「阿吽の呼吸」で回る業界文化は強く残ります。
しかし、IoTやAIの進展で生産実績・歩留まり・在庫推移・物流動向といったデータがリアルタイムで可視化できる時代となりました。
重要なのは、先端ツールの分析結果を押しつけず、現場の経験値と丁寧にすり合わせながら最適ロットを導いていく姿勢です。
小さなPDCAサイクルで、最適化の仮説検証を地道に繰り返しましょう。

現場目線でOEMコスト最適化を進めるための実践アクション

ここまでのポイントを踏まえ、コスト最適化の現場実践を下記のように整理します。

1. 原価構造の分解・現場見える化

部品費、加工費、間接費、物流費、品質コストなど、可能な範囲でOEMサプライヤーに分解見積もりを依頼します。
その上で、主要項目ごとに現場確認し、抜け漏れや暗黙知をあぶり出します。
現場見学や担当者ヒアリングの場を積極的に設けましょう。

2. ロットサイズ仮説の検証・修正

EOQなどの数式モデルを初期値としつつ、現場の経験や実績値で仮説を修正します。
「この数量なら品質リスクが増えにくい」「このロットなら物流在庫が適正」「このロットから段取りコストが急増」といったボーダーラインを、OEMサプライヤーと共同で細かく設定します。

3. 契約・生産計画で共通ルール化

最適ロットの合意が得られたら、単なる一時的な条件にせず、契約書や発注計画に反映します。
サプライヤーの生産計画とも照合し、一方的な負担が生じない枠組みを作ります。
また、リードタイム短縮や在庫削減など次の改善サイクルへつながる目標も打ち出しましょう。

まとめ:OEM製造の新たな地平線を切り開くために

OEM製造で原価が下がらない背後には、単なる価格交渉やロット調整だけでは解決しきれない構造的な要因があります。
本当に重要なのは、OEM現場の実態の「見える化」「構造理解」、バイヤーとサプライヤーの「現場目線の対話」、そしてデジタルの力を借りながら「最適ロットの現実運用」に取り組むことです。
製造業がいまだに昭和の手法から抜け出せていない現実だからこそ、泥臭い実践と先進ツールのハイブリッド、その両輪で新たな地平線を切り開いていきましょう。
製造業に関わるすべての皆様と共に、産業進化の一端を担えることを願っています。

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